第248話 ミスリルの願い
文字数 1,770文字
急にリリスの顔がずいっと寄って、ホムラが顔を引く。
「な、なにか?」
思わずホムラがたじろぎ、リリスから目をそらした。
「え?だって、急に皆様黙っていらっしゃるから何か聞こえたのかと。
違うのですか?なんだ、ビックリしました。」
リリスの言葉が、思っていたものと違う事に驚く。
気がついていないのかと、彼に声を上げた。
「いや、そう言う事ではなく、驚かれぬのか?
今のをご覧になられなかったのか?」
ホムラがくいっと顔で跪く ゴウカを指す。
「あっ!そうでした。
見ました!見ましたよ?はっきりと。ビックリです。
ゴウカ様、ご苦労様でございました。
まあ、本当に色んなお力をお持ちで驚くばかりです。
一息にすべてをご覧になってこられたのでしょうか?
なんてすばらしいお力でしょう、あとで詳しく教えてくださいませ。
それで、あの、こう、角の生えた犬はどこかで侵入者と戦っておられぬでしたでしょうか?
私はそれが少し気がかりなのです。」
「え? あ、ああ………」
なんだかガックリ脱力した。
身体が灰となって消える自分の力など微塵も気にかけずのぞき込むリリスに、一時呆然と彼の顔を見る。
ホウと大きく息をつき、ゴウカが気が抜けたような顔を上げ微笑んだ。
松明一つの薄暗い中で、リリスの色違いの瞳が生き生きと輝いて見える。
この方が動じることは一体何なのだろう。
死んで生き返っても、まあ!良うございましたと、何ごともなく微笑みそうな鈍感ぶりに、思わずクスリと笑みが出る。
「はい、姿は一切見ること無く、……もしかしたら、侵入者というのは魔導師かもしれません。
おわかりになりますかわかりませんが、こう、空間には狭間というのがあるそうで……」
「ああ!わかります。
きっとあの地龍様もこことは違う空間にいらっしゃるのではと思っておりました。
ここは城の魔導師様の庭のような物です。
特に地の魔導師様はそう言う狭間を行き来する方もいらっしゃるとお聞きしたことがあります。
なるほど、それでは余計に気が抜けませんね。
とりあえず、位置はゴウカ様がよくおわかりかと思いますので、この先はゴウカ様に先をお願いします。」
「お任せを」
「それでは、最後尾は私エリンが守ります。ホムラ殿はリリス様をお願いします。
騎士の方々は……」
「我らは巫子殿の後ろに。」
通路は二人並んで歩けるほどの幅しかない。
一本道だけに、何かあったら退路を確保するのが最も大切だ。
挟まれたら、たとえ城の兵でも倒して進まねばと気持ちを強く持って前を向く。
騎士二人、リリスのフワフワと揺らめく少しウェーブのかかった赤い髪に心を決める。
この子は捕まったら、死しか無かろうと。
それだけの覚悟を決めて入ったのだ。
「この先に扉が一つ。
奥の突き当たりにもう一つ。
どちらも扉の向こうは階段がありました。
恐らくは王族が利用する部屋へと通じる階段かと思われます。
あと一カ所、天井に人一人通れるほどの扉がありますが、そこは何か家具で塞いでありどこかわかりませんでした。」
「扉の向こうまで見えるのか?」
「いえ、スキマから侵入したのです。それ以上は禁忌ですので進むことは出来ません。」
「ふうむ、なるほど、確かに便利だな。
さすがに火の神官殿は選りすぐりの高度な技をお持ちよ。頼りになる。」
「その……ような……では、参ります。」
素直に感心している騎士二人にゴウカが目を見開き、そして前を向いて歩き出す。
この時代も、ミスリルへの偏見は残っているのだと地底のミスリルたちは言っていた。
だが、もし……と考えてしまう。
王が巫子の時代、ほんの一時彼らの一部は地上に暮らした時代もあったと。
またその時が来るならばと。
自分たちはもう再び眠りにつくことは出来ない。
目覚めるときは、それは想いを託す時であると火の神は我らに語りかけ、そしていつ目覚めるともわからない眠りを与えた。
火の神殿の再興……
それよりも、なによりも、ミスリルの願いを、そして……
出来るならばあの日の……終わっていないすべての決着を……
真っ暗の奈落の底に見えた通路の先が、何故かはっきりと見える。
燃えるように赤い髪の少年の指が、そこにあるのだと指輪をさしている。
希望ではない、それが何か、希望を超えて確信を呼ぶ。
この火の巫子が、人の心に変化をもたらすのではないかと。
一行はしっかりした足取りで、リリスの指す場所を目指し地下通路を急いだ。
「な、なにか?」
思わずホムラがたじろぎ、リリスから目をそらした。
「え?だって、急に皆様黙っていらっしゃるから何か聞こえたのかと。
違うのですか?なんだ、ビックリしました。」
リリスの言葉が、思っていたものと違う事に驚く。
気がついていないのかと、彼に声を上げた。
「いや、そう言う事ではなく、驚かれぬのか?
今のをご覧になられなかったのか?」
ホムラがくいっと顔で
「あっ!そうでした。
見ました!見ましたよ?はっきりと。ビックリです。
ゴウカ様、ご苦労様でございました。
まあ、本当に色んなお力をお持ちで驚くばかりです。
一息にすべてをご覧になってこられたのでしょうか?
なんてすばらしいお力でしょう、あとで詳しく教えてくださいませ。
それで、あの、こう、角の生えた犬はどこかで侵入者と戦っておられぬでしたでしょうか?
私はそれが少し気がかりなのです。」
「え? あ、ああ………」
なんだかガックリ脱力した。
身体が灰となって消える自分の力など微塵も気にかけずのぞき込むリリスに、一時呆然と彼の顔を見る。
ホウと大きく息をつき、ゴウカが気が抜けたような顔を上げ微笑んだ。
松明一つの薄暗い中で、リリスの色違いの瞳が生き生きと輝いて見える。
この方が動じることは一体何なのだろう。
死んで生き返っても、まあ!良うございましたと、何ごともなく微笑みそうな鈍感ぶりに、思わずクスリと笑みが出る。
「はい、姿は一切見ること無く、……もしかしたら、侵入者というのは魔導師かもしれません。
おわかりになりますかわかりませんが、こう、空間には狭間というのがあるそうで……」
「ああ!わかります。
きっとあの地龍様もこことは違う空間にいらっしゃるのではと思っておりました。
ここは城の魔導師様の庭のような物です。
特に地の魔導師様はそう言う狭間を行き来する方もいらっしゃるとお聞きしたことがあります。
なるほど、それでは余計に気が抜けませんね。
とりあえず、位置はゴウカ様がよくおわかりかと思いますので、この先はゴウカ様に先をお願いします。」
「お任せを」
「それでは、最後尾は私エリンが守ります。ホムラ殿はリリス様をお願いします。
騎士の方々は……」
「我らは巫子殿の後ろに。」
通路は二人並んで歩けるほどの幅しかない。
一本道だけに、何かあったら退路を確保するのが最も大切だ。
挟まれたら、たとえ城の兵でも倒して進まねばと気持ちを強く持って前を向く。
騎士二人、リリスのフワフワと揺らめく少しウェーブのかかった赤い髪に心を決める。
この子は捕まったら、死しか無かろうと。
それだけの覚悟を決めて入ったのだ。
「この先に扉が一つ。
奥の突き当たりにもう一つ。
どちらも扉の向こうは階段がありました。
恐らくは王族が利用する部屋へと通じる階段かと思われます。
あと一カ所、天井に人一人通れるほどの扉がありますが、そこは何か家具で塞いでありどこかわかりませんでした。」
「扉の向こうまで見えるのか?」
「いえ、スキマから侵入したのです。それ以上は禁忌ですので進むことは出来ません。」
「ふうむ、なるほど、確かに便利だな。
さすがに火の神官殿は選りすぐりの高度な技をお持ちよ。頼りになる。」
「その……ような……では、参ります。」
素直に感心している騎士二人にゴウカが目を見開き、そして前を向いて歩き出す。
この時代も、ミスリルへの偏見は残っているのだと地底のミスリルたちは言っていた。
だが、もし……と考えてしまう。
王が巫子の時代、ほんの一時彼らの一部は地上に暮らした時代もあったと。
またその時が来るならばと。
自分たちはもう再び眠りにつくことは出来ない。
目覚めるときは、それは想いを託す時であると火の神は我らに語りかけ、そしていつ目覚めるともわからない眠りを与えた。
火の神殿の再興……
それよりも、なによりも、ミスリルの願いを、そして……
出来るならばあの日の……終わっていないすべての決着を……
真っ暗の奈落の底に見えた通路の先が、何故かはっきりと見える。
燃えるように赤い髪の少年の指が、そこにあるのだと指輪をさしている。
希望ではない、それが何か、希望を超えて確信を呼ぶ。
この火の巫子が、人の心に変化をもたらすのではないかと。
一行はしっかりした足取りで、リリスの指す場所を目指し地下通路を急いだ。