第244話 悪霊を倒す、封じる方法

文字数 1,936文字

暗い。
真っ暗で、上か下かがわからない。
心を平静に保ち、必死で目をこらすと次第に暗闇に慣れて視線を上げる。

突然、正面に黒いケープの男が現れ、赤く輝く宝石を両手で包み、飛ぶように近づいてくる。
思わず杖を握りしめ、顔の前に構える。
だが、男はそれに気がつくこと無く、ルークはとうとう男の身体を突き抜けた。

突き抜ける瞬間、強い腐臭が顔を包み、男のものかわからない狂った思念が頭に響く。
吐き気がこみ上げ、思わず声が出そうになってウッと口を塞ぐ。
振り返ると、男も振り返りこちらを見ている。
気のせいと思ったのか、また宙を飛び通路を飛んでいった。

アデルが頭から手を離し、ルークがその場に崩れた。

「ううっ、く、うっ!ぐっ!」

吐き気を飲み込み、手で口を押さえて激しく息をつきアデルを見上げる。
上がる胃液を飲み込み、手探りで水盤の横の水差しを手に取り、中の聖水を頭からかぶった。

「ルークよ、どうであった?
ククク、すごかっただろ?」

アデルがいたずらっ子のように首を傾げのぞき込んでくる。
いきなりすぎて思考が追いつかない、言葉が出ない。
悪霊に身体を侵食されたような恐ろしさに、身体が震えた。

「ひどい……方だ……」

クックと笑うアデルを一瞥して、シャラナが一歩下がり呪を綴る。
ルークがかぶった聖水が霧のように立ち上がり、輝きながら消えていった。
まだしっとりとしている髪をかき上げ、息を整えながら立ち上がる彼に、手を貸してニードが声をかけた。

「大丈夫か?」

「ああ、大丈夫じゃ無いが、そうも言ってられない。
やはり、死体だ。奴の狙いは生きている身体であって巫子では無い。」

「なんでわかるんだ?」

「お前も腐った死体の中通り抜ければわかるさ。まったくひどい目に遭った。
精霊の石は禍々しい気を相当ため込んでデカくなっている。
まるで血の色だった。」

なるほどと鼻を鳴らす。

「腐った身体は奴らの目的には邪魔なだけだろう?
これは、好機だ。
あの宝石が無ければ、剣はただの魔力を貯めた錆びた鉄だ。
使えば使うだけ魔力は減って行く。
王子も指南役を無くして本性を出すぞ。」

ぴゅうっとニードが口笛を吹く。
シャラナがその顔をパンと叩いた。

「口笛なんか吹かないで!魂抜かれるわよ、常識じゃない!」

「す、すいません」

すっかりニードはシャラナの尻に敷かれている。
ニードが赤い鼻をさすりながらルークに声をかけた。

「荒療治じゃないか?王の暗殺にでも走ったらどうする。」

「いやいやその前に大問題だ、あれをどうやって捕まえるか倒すか。」

はああぁぁ………

ため息が漏れた。

「そりゃあ……」

その方法に、悩みあぐねる。
魔物を払うのは巫子の役目、あれほどの魔物ならば……

「あれこそ火の巫子さんの出番じゃね?」

「そうよ、あれを倒すには明らかにメンバー不足だわ。
この3人のうち、決定的な一撃が送れる人、手を上げて。」

そんなもの、あるわけが無い。
ここにいる3人は戦闘向きでは無いのだ。

「俺、死ぬとかは酒飲んで老衰でって決めてるし…」

3人とも、目を合わせまいと視線が泳ぐ。

「ニャはは!なーんだ、大したことないニャン!」

ムッとしたシャラナが、杖でアイのお尻をドンと小突いた。

「きゃん!ひっどいにゃ〜」

「決まりね、人が揃うまで先延ばしにする方法考えましょう。
で、魔導師の塔の長様、何か方法はありまして?」

方法ったって……そんな物浮かんでたらとっくに話してる。

「そんな都合のいいこと……」

ふと、アデルに目が行った。
いや、そんなことできるわけ無い。
腕を組み直し、額に手を置く。
チラリと目をやる。
アデルはあさってを向いている。
目を閉じ、ため息をつく。
片眼を開き、ニードを見る。
ニードは何を思ったか、ブンブン手を振り後ろを向く。

駄目だ、ニードは勘が悪くて使えない。
直球で行くしかないか。

ルークがいきなり、バッとその場に土下座した。
土下座なんて安い物だ、あんなプライドだけの使い物にならない師に何度やったことだろう。

「アデル様!頼みがあります!」

「ヤだね、冗談じゃあ無いよ。」

アデルが何かを察して、急いで部屋を出ようと歩き出す。

「お待ちを!」

ルークが逃がすものかと足に飛びついた。

「ちょ!な、なにするんだよ!離せ!離せ、離せ!」

右足を引き倒され、アデルが左足でルークの頭をガンガン蹴る。
容赦ない蹴りに鼻血を流し、顔を傷だらけにしながらそれでも離さない。

絶対離さない!歯が折れようと構うものか!

「アデル様!むう、何をなさる?!」

「いや、なんか知らんけど加勢する!」
「私も仕方なく!失礼します!」

慌てて助けようとするオパールは、訳もわからずニードとシャラナが杖で押さえ込む。
こういう時、息が合う仲間は助かる。

「何て奴!来なきゃ良かった!」

アデルが怒ってルークの頭を左足で踏みながら叫んだ。
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