33、リチャード2世(1)

文字数 911文字

 1387年の夏の初め、ピエールは私の部屋に来て謎めいたことを言った。あれは夢だったのだろうか。あの時ピエールが言ったリチャード2世については、彼の予言通り現実のこととなった。リチャード2世は王位を奪われて投獄され、獄死した。ヘンリー4世がイングランド国王となり、その跡継ぎのヘンリー5世がフランスに攻めてきて、アジャンクールの戦では多くの人が戦死した。リチャード2世が敗れて王位を奪われるということがなければ、イングランドだけでなくフランスの歴史も大きく変わっていたに違いない。

「ピエール、あなたは亡くなる少し前に私の部屋に来て予言をしたのよね。それは本当のことになってしまったわ」
「リチャード2世が王位を奪われたことでフランスの歴史は大きく変わってしまった。なぜそのようなことになったか、ジャンヌ姉さんにはわかる?」

 イザボー王妃様の侍女になって、王宮の図書室にある本はかなり読んでいた。王妃様は歴史には全く興味がない方なので、そのような本を王妃様の部屋に持ち込むわけにはいかない。王妃様が喜びそうな本を探すふりをして、少しずつ歴史関係の本も目を通し、内容を覚えた。

「リチャード2世がお生まれになったのは1367年で父はエドワード黒太子よ。父の方が祖父のイングランド王エドワード3世より先に亡くなっているから、リチャード2世は10歳で祖父から王位を継承しているわ」
「僕が生まれたのは1369年だからその少し前だね。10歳で王位を継承したということは、摂政の力が強くなるね」
「リチャード2世の父黒太子には4人の弟がいたの。クラレンス公ライオネル・オブ・アントワープは早くに亡くなり、ランカスター公ジョン・オブ・ゴーント、ヨーク公エドマンド・オブ・ラングリー、グロスター公トマス・オブ・ウッドストックの3人が摂政候補になったけど誰にも決まらず、貴族たちが集団でリチャード2世を補佐することに決まったわ」
「シャルル6世もそうだけど、幼い王を取り囲むたくさんの叔父というのは悲劇の始まりだ。それでうまくいった例が歴史にあるだろうか?」
「ピエール、あなたの言う通りよ。叔父がたくさんいて権力を奪い合っていれば必ず悲劇が起きるわ」

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み