49、イザベラ・オブ・フランス(5)

文字数 1,229文字

 イングランドのエドワード2世が王妃のクーデターによって廃位に追い込まれ、投獄されて虐殺されたということは歴史の本を読んで知ってはいた。でもアンジュー公妃ヨランド・ダラゴン様から直接詳しく話を聞くと私の体はガタガタ震えた。

「ジャンヌ、震えているようだけど、もうこのくらいで話を終わりにした方がいいかしら?」
「エドワード2世の最後については私も本を読んで知っていました。でもそれは遠い昔の出来事だと思っていた。そうではなかったのですね」
「あなたは歴史の本をよく読んでいるしとても賢い。だからこそあなたにはイングランドで何が起きたか知っておいて欲しいのよ。イザベラ王妃とモーティマーはイングランドで実権を握ったけど、今度は成人したエドワード3世が不満を持ち、親政を開始する機会を狙うようになった」
「今度は母と子で対立するようになったのですね」
「1330年の11月で議会がモーティマーの処刑を宣告した。イザベラ王妃は処刑されることはなかったけど、幽閉されて狂気の発作を起こしたとも言われているわ」
「エドワード3世もさすがに実の母を処刑することはできなかったのですね」
「実の母がクーデターを起こして実の父を廃位させ投獄した。エドワード3世の気持ちは複雑だったと思うわ。彼が母を処刑しなかったのは母への愛情が残っていたからではない。フランス王女である母の血筋を利用すればフランス王の地位も得られると考えたのよ」
「まあ・・・」
「イザベラ王妃の晩年は再び贅沢な暮らしができた。彼女はアーサー王の伝説と宝石に関心を持ち、また占星術や幾何学にも関心があったようなの。1358年に彼女は亡くなり、遺産は孫のエドワード黒太子に遺贈されたわ」
「そうだったのですね」
「フランスではフィリップ4世の子ルイ10世、フィリップ5世、シャルル4世が王位についたけど後継者を残さずに亡くなり、シャルル4世が亡くなった後、フィリップ4世の弟シャルル・ド・ヴァロワの子がフィリップ6世として即位し、カペー朝からヴァロワ朝に変わった。1328年のことよ。
そして1337年、エドワード3世は母の血筋を理由にフランス王位を主張し、フィリップ6世に対して宣戦布告をした。イングランドとフランスの長い戦争はその時から始まっているの」
「・・・・・」
「イザベラ王妃やエドワード3世の性格や行動が違っていたならば、イングランドとフランスの歴史は全く違うものになっていたと思うの。美しくプライドの高い王妃は国を滅ぼすこともあるのよ」
「イザボー王妃様が誰を味方にするかによってフランスの歴史も大きく変わってしまう・・・」
「そうよ、あなたは本当に賢いわ。イザボー王妃様がイザベラ王妃のようにならないためにもあなたに注意してもらいたいのよ。フランスの歴史を大きく変えたのはイザベラ・オブ・フランスだけではない。フィリップ4世もまたフランスの歴史と社会を大きく変えているの」

 アンジュー公妃ヨランド・ダラゴン様の話は続いた。



ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み