36、リチャード2世(4)

文字数 1,009文字

 私たちの長兄、ワレラン3世はシャルル5世に仕えて百年戦争に従軍し、イングランド軍の捕虜になっていた。そしてイングランドでモード・ホランドという女性と結婚した。彼女はイングランド軍の指揮官トマス・ホランドの娘でイングランド王リチャード2世の異父姉でもあった。これはまだ弟のピエールが生きていた時の話で、ピエールはリニー家の相続人である兄が捕虜になっている間に敵の娘と結婚したことに酷く腹を立てていた。でもその立場から兄は大きな手柄を得ることになる。

「1396年にワレラン兄さんはシャルル6世に王女イザベルと義理の弟になるイングランド王リチャード2世の結婚交渉を命じられたわ」
「兄さんが重大な交渉を命じられたということは、その頃の陛下はご病気があっても、まったく何もできないという状態ではなかったということか」
「そうよ、そしてその頃はまだイザボー王妃様の部屋も訪れていた。ギュイエンヌ公ルイ様が生まれたのが1397年、トゥーレーヌ公のジャン様が生まれたのが1398年、カトリーヌ王女が生まれたのが1401年、みんな陛下のお子様で間違いないわ」
「ワレラン兄さんの結婚交渉はうまくいったの?」
「もちろんよ。1397年にリチャード2世とイザベラ王女は再婚したわ。この時イザベラ王女はまだ7歳だったけど、イングランドとフランスの休戦条件だった政略結婚だったのよ」
「つまりワレラン兄さんは結婚交渉をしながら休戦のための交渉もしていたということか」
「そうよ。でもリチャード2世は1399年に廃位させられ、1400年には獄中で亡くなっているわ。イザベラ王女は1401年にフランスに帰国して、従弟のオルレアン公シャルル様と再婚しているわ」
「リチャード2世の廃位と獄中での死はシャルル6世陛下にも大きな打撃を与えたに違いない。自分の娘を差し出して和平交渉を結んだのに、その相手の王が廃位させられ獄中死したのだから、その恐怖は計り知れない」
「そうね、イザベル王女がフランスに帰国した1401年以降、陛下のご病気は酷くなり、イザボー王妃様の部屋を訪れることもなくなっていた。そしてシャルル王子が生まれたのは1403年、ということは・・・シャルル王子は陛下の子ではないわ」
「ジャンヌ姉さん、そのことは誰にも言ってはいけないよ。リチャード2世の廃位と獄中死が陛下に大きな打撃を与えたことは間違いない。歴史を動かしているのは神の正義ではなく・・・」

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