飛行機と競走したい!

文字数 1,230文字

一通り見終える(というより遊び終える)と、妖精たちは暑くなって裸足になり、小さな噴水スペースに足を浸した。のばらは店でソフトクリームを買ってきて二人の横に並んだ。
「ああ楽しかった。ここは素敵なところね、のばら」
「そうだね、バラ園には初めて来たけど、いろんな種類のバラがあって面白かった」
「とても美しいしね。あのバラたちは売られるの?」
「ううん、ここでずっと育てられるよ。ここはそもそも空港だからね」
「空港ってなあに?バラを育てるところじゃないの?」
「違うよステン、空港は飛行機が飛んで行ったり降りてくるところだよ。飛行機は、空を飛ぶ乗り物なんだよ」
「空を飛ぶ乗り物?人間は空を飛べるというの、のばら」
「まあ、妖精みたいに自力では飛べないけどね。お金を払えば人間でも飛行機に乗って空を飛べるんだよ。一度にたくさんの人を乗せられて、飛行機ってすごいんだから」
のばらが誇らしげに話すのをステンは大きく頷きながら聞いていた。アミーはソフトクリームのとぐろをなんとかほどけないかと苦心しているようだが、この暑さでは溶けるのも時間の問題だろう。
「飛行機って速いの?」
「そりゃ速いよ。パワーもあるしね」
「私、飛行機と競走したい。飛行機と競走してみたい」
ステンは純粋な好奇心に瞳をきらきらさせていた。のばらはしばしそんなステンをぽかんと見やった。
「飛行機と競走って、速さ比べをするってこと?」
「そう、私飛ぶのにはけっこう自信あるんだ。人間の飛行機とどっちが速いか比べてみたい!」
よーし、行くぞ!と雄叫びをあげると、ステンはのばらが何か言いたげにしたにも関わらず、一人で建物へ突進した。
のばらが戸惑っていると、手元でアミーがぎゃっと悲鳴を上げた。アミーの両手はソフトクリームでどろどろになっている。
「のばら、ステンはどこに行ったの?」
「えっとね、飛行機と競走するんだって」
「へえ、そうなんだ。飛行機って何?」
どうなんだろう、妖精と飛行機ってどっちが速いんだろう。のばらはステンやアミーが本気で飛ぶところをまだ見たことがなかった。天狗鬼ごっこの時は初めての妖精界で急に始まってすでに距離があったし、二人がどれくらい速く飛んだかはよく覚えていなかった。でもそうは言っても妖精だもんね、本気出したらジェットエンジンだって目じゃないかも。
ふと思いつくことがあって、のばらは噴水で手をじゃぶじゃぶ洗うアミーにおそるおそる聞いてみた。
「あのさアミー、今日自転車に乗ったじゃない?」
「うん」
「あれどうだった?速さとかは」
「最高だったよ。あんなに速かったの生まれて初めて」
「でもアミーたちもあれくらい余裕で飛べるんでしょ?妖精だもんね?」
「ううん全然、あんなに速くは飛べないよ。私たちって鳥には負けるけど蝶々よりは速いって立ち位置?飛び位置?くらいだから。あはは」
あははそりゃそうだ、彼女たちの背中に生えてる羽は鳥というよりは蝶々の羽だから、鳥の翼には敵わないよねあははー、って全然笑えないわ。
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