妖精が見えた!

文字数 1,203文字

母に促されて家に帰ってからも、のばらの頭からはあのバラのことが離れなかった。
あのバラの周りを飛び回るように見えた、あの影たちは何?もしかして、庭で会った妖精の女の子の仲間なのだろうか?
もう一度あのバラの家に確かめに行きたかったが、夜にうちを抜け出すのは難しいし、夜歩きが純粋に怖くもあった。明るくても会える可能性はある、庭で会った妖精がそうだったのだからと自分に言い聞かせ、のばらは妹がじゃれてくるのを適当にあしらいながら夜の日課をこなし、布団に入ってからは浮かんでは消える空想にふけりながら長い一日を終えた。
翌日、夜眠れなかったわりにはいつもより早起きをしたのばらはいつも通りに学校へ行き、いつもよりは早く家に帰ってきた。
家の車がなかったので嫌な予感はしたのだが、思った通り家のチャイムを鳴らしたが母は不在で、のばらは門の前で地団駄を踏んだ。
ランドセルをどうにかしたかったのだが、仕方がないので背負ったまま出かけることにした。
行き先はもちろん、昨日のバラの咲く家だ。
のばらはまず家の駐車場を確認し、車がないので家人は留守だと判断した。
この家はもともと石塀に囲まれていたのだが、最近工事をして金属製の柵に変えていた。それで今までは見えなかった庭が覗けるようになり、奥のバラに気づくことができたのだ。
のばらは柵を掴んで覗き込んだが、妖精がいるかどうかはわからなかった。
車道沿いの道ではあったが、人通りが少ない時間帯だったので、のばらは意を決してランドセルを道に置き、柵を乗り越えた。
招かれない人の家の敷地に入るのはどきどきしたが、玄関とは違い、初めから家人が居心地よく過ごすことを前提としているせいか、侵入した庭には奇妙な親しみがあった。
しかしまったりもしていられない、私が庭に入ったのはバラをちょっとだけ見るためなのだ、とのばらはバラに駆け寄った。
だが、いくら目を凝らしても昨日のような妖精の姿は見えない。バラはそんなに大きな茂みではなく、妖精が隠れられそうにもなかった。
おかしい、何がいけないんだろう。それとも、もうどこか別の場所へ移動したのだろうか。
のばらが座り込んでじっとしていると、また目がしばしばしてきた。乾燥?そうだ、昨日は妖精の涙を目に垂らしたのだった。一人目の妖精の時には何もしなかったが、もしかしたらあの涙に何か力があったのかもしれない!
そう思うといても立ってもいられず、のばらは再び柵を乗り越えて自宅に駆けた。
妖精の涙の入った洗面器は庭の軒下の室外機の上に置きっぱなしにしており、見たところ昨日と変わりないようだった。
手のひらで水をすくい、目に流し入れ、のばらがもと来た道を急ぎ、敷居を乗り越えようと柵を掴んだその時、あの声が聞こえてきた。泣き虫妖精の泣き声とは違う、昨夜の楽しそうな笑い声。
柵を掴んだままじっとバラに目を凝らすと、のばらの両目は今度こそ二人の妖精の姿を捉えたのだった。

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