お呼ばれ

文字数 1,223文字

平和だ。小学生の分際で何が平和だと戦時中に生まれた祖父あたりから喝を入れられそうだが、のばらは安寧を噛みしめていた。今日もいい天気で、最近は雨が降らないので、母は水不足にならないか心配していた。
今日も学校の友達とは遊ぶ気になれず、のばらは家のベランダに一人で座っている。
ステンとアミーは元気だろうか。ウィウィの涙はちゃんと容器に保存していて、目に差せばまた二人の姿を見ることができるかもしれない。
だがのばらの中ではまだあの妖精界での短いが濃厚な体験が後を引いていて使う気にはなれず、家や学校でもあの出来事を反芻していた。
ぼんやりしていると、のばらはまたもや目がしばしばしてきた。花粉だろうか、最近目が乾きがちだ。花粉症の父は仲間を作りたいのか、しきりに花粉症じゃないかと言ってくるのだが、一度耳鼻科に行ったほうがいいのか。
二人に会いたくないわけではないが、バラに近寄らなければ二人に会うことはあるまいと、のばらは妖精の涙を目に差した。
すると、のばらは自分の頭の周りを手をバタつかせながらぐるぐる回る、二人の妖精の姿を目の当たりにした。
「……二人とも何してるの?」
ステンは嬉しそうな顔をのばらに向けた。
「あっ、のばらやっと気づいてくれたー!バタフライだよ、テレビで水泳の選手がやってるの観たんだよ、プール始まったら泳ぐんだ楽しみー」
「へえ、そうなんだ…」
のばらはクロールが沈まずに進むか進まないかの微妙なラインなので、ちっとも共感できない。
いや、それよりも二人はなぜ私の頭の周りを回転しているのか。
「私に何か御用?」
「あっそうだった、のばらあのね、今からうちに遊びに来ない⁉︎この間のことでね、うちのお母さんがのばらに申し訳なかったから誘いなさいって!お菓子もあるよ〜」
ステンの家、ということは妖精の家、ということは妖精の世界か。
やはり多少はトラウマになったのだろう、若干の拒絶反応は起きたが、それよりも妖精の家というものにのばらの興味は強く引かれた。
妖精はどんなお家に住んでいるのだろう?和式ではないはずだ、絶対に。洋式でレンガ作りとか、きっとおとぎ話に出てくるようなかわいいお家に違いない。何より人にお呼ばれするのは、悪い気がしないものだった。
「そうだね。せっかくだし、行こうかな」
「ほんと?やったー!じゃあさっそく行こう、アミーストーップ!」
アミーは、ステンのお母さんが作ったお菓子おいしいよ、とはしゃいでいた。
ひょっとして手作りなんだろうか。子どものためにお菓子を作ってくれるなんて、やさしいお母さんなんだろうな。
二人の屈託ない様子を見て、のばらは少なからずほっとしていた。妖精の世界でのばらが泣きべそをかいたことで、ウィウィのように見くびられるのではないかと思っていたのだ。
「よーし、じゃあさっそく行くよ〜。せーのっ」
「え、ちょっと待って、あれけっこう心の準備が」
言い終わらないうちにのばらの体は再び異空間へ引きずり込まれ、意識が飛んだ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み