バラの冠

文字数 1,065文字

おばさんには、バラにお礼を言いに行ってきます、と言い置いてのばらは家を出た。
高地の空気は薄いというが、大きく深呼吸してみたもののよくわからなかった。
あたりを見回すと、この世界は本当に花でいっぱいなんだな、と思った。
大小様々な色とりどりの花が咲き乱れ、のばらは気の向くままに足を向けた。
花の茂みをよけて進みながら、のばらは妖精たちのことを考えた。
二人とも私のことなんか忘れて話してたけど、私のことを友達とは思ってないのかな?ステンのお母さんが誘いなさいって言ったからそうしただけで、別に私と遊びたかったわけじゃなかったのかな。こんな世界に一人で来て、私は何をやってるんだろう。
足先の草を蹴飛ばし、ふと泣き虫ウィウィのことを思い出した。
あの子はどうして泣いていたんだっけ。
それも、わざわざ人間の世界に一人ぼっちで来てまで。
今は妖精界にいるのかな、などとのばらが考えていると、おーいと後方から声がした。振り返ると、ステンとアミーがこちらへ向かって走って来ていた。
「探したよ!今日はのばらに見せたいものを準備してるんだよ、早く来て来て!」
二人はそれぞれのばらの手をとると家に引っ張った。
アミーにはバラと話せた?と聞かれたが、曖昧に笑うしかなかった。
再びステンの部屋に入ると、ステンから実はのばらにプレゼントがあるのでーすと知らされ、
「アミーと二人でバラの冠作ったんだよ!ほら!」
と言って、もっさりした花輪をクローゼットから取り出して見せた。
バラの冠と聞いた瞬間、のばらは頭が血まみれになった自分の姿を想像した。
「バラの冠ってことは、トゲがあるよね…?」
「ううん、これはトゲのない品種だから大丈夫!多分痛くないよ」
よく見ると、冠の花はのばらがよく見るバラとは異なり、外で見かけた花のような気がした。
「これもバラだったんだ。外にも咲いてたよね」
「うん、妖精界の花は全部バラなんだよ!バラにはいろんな種類があるんだよー」
「へぇ、知らなかった」
この冠にもバラの香水をたっぷりかけておいたからねとステンは言ったが、のばらはそこまで匂いを強化してもらわなくてもよかったかな、と思った。
たしかにバラの香りは強力で、のばらは頭がくらくらした。
「ねえのばら、今度人間界でバラがたくさん咲いているところに行きたいんだけど、どこか知らない⁉︎」
「バラ…?ああそういえば、空港のバラ園が見頃だってテレビでやってたかな…」
「本当⁉︎じゃあ、今度そのバラ園に一緒に行こうよ!」
約束だよ、と言うアミーの声を聞きながら、のばらの意識は水底に沈むようにぐるぐると遠のいた。
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