悪魔のような妖精

文字数 1,263文字

二人は、たしかに存在していた。体は小さいが、見た目自体は服装も含めて人間と変わらない。
背中には羽が生えており、空を飛べることが遠目にもわかった。この子たちはやはり妖精なのかもしれない。
のばらはあたりを見回すと、柵に腕をつっぱりゆっくりと足をかけた。
小さな女の子たちは何やら笑い転げていて、こちらに気づく様子はない。
「こんにちは」
のばらが声をかけると笑い声はぴたりと止み、二人の視線はのばらに集中した。
「私はのばらって言います。あなたたちは妖精ですか?」
二人はひそひそと言葉を交わすと、一人がのばらに向き直った。
「そう。あなたは人間よね?私たちの姿が見えるの?さっきも来てたよね」
「そうなの。あなたたち、ウィウィって妖精知ってる?私はあの子から力をもらったの」
そう、あの泣き虫が、と二人は顔を見合わせて笑った。彼女たちはやはり妖精だったのだ。話ができたことで、のばらの胸は高鳴った。
「ここで何してたの?ここに住んでるの?」
「ここには住んでないけど、居心地がいいから遊んでるだけだよ」
「バラが好きなの?」
「そうね。私たちの家は代々バラを集めているから、遺伝かもしれない。もともとイギリスに住んでたんだけど、日本に来て4世になるのかな。アミーもそうだよ」
話していた妖精は、もう一人を指さした。
「そうなんだ。どうりで外国人みたいな見かけをしてるよね。ウィウィもそうなんだね?」
「あの子の家もそう。代々バラを集めてる。のばらはどうしてウィウィと知り合ったの?妖精の関係者?」
「そうでもないんだけど、ちょっと話すことがあって。その、ウィウィが大泣きして」
すると、あの子はいつもそうなの、と言いながら女の子たちはまた顔を見合わせて笑っている。ウィウィのことはもう話さないほうがいいかもしれない、とのばらは思った。
「いいなぁ、私も混ぜてほしいなぁ。でもこの体じゃいっしょに遊べないよね」
「その体では、ね」
女の子の目が妖精には似つかわしくない、野生的な光を帯びた。魔物、という単語がのばらの脳裏に浮かんだ。
「この体では、っていうと?」
「私たちと同じ大きさになれば問題ないわ、そうでしょう?」
「それはもちろんそうね。だけど、そんなこと…」
「不可能じゃないわ。私たちと妖精の世界へ行けばいいのよ。ここではない、異空間へ。そうすれば、あなたの体も自然と妖精界に合ったものになるわ」
「へ、へえそうなんだ。だけど、その、妖精界へ行ったらもうここへは戻って来れないよね?そうでしょう?」
まずいことになった。この子たちの世界へ行けば、私は帰れなくなるかもしれない。神隠しにあったと噂されて、お母さんたちは私を一生探し続けるかもしれない。
かわいい見た目をしているけど、この子たちはもしかしたら本当は悪魔なんじゃないか。人間を騙すために姿を変えていて、そして、最終的には魂をとられちゃったりとか…。
のばらの額に汗が滲んだ。妖精のような悪魔たちはこちらをじっと見つめている。
「試してみれば?」
そして、のばらは体が根こそぎ持っていかれるような圧を受け、意識が飛んだ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み