第14話 天つ風 僧正遍照(第十二番)

文字数 694文字

金曜日か
 放課後、帰り支度を整えながらトオルはひとりそう呟く。
 明日と明後日は、先生に会えない。
 そう思った途端、椅子に腰掛けたまま動けなくなった。
 当たり前のことなのに、それがとてつもなく大きな出来事であるように感じられた。

 どれくらいそうしていただろう。室内はほの暗くなり、窓の外は陽がすっかり傾いている。

 明かりを点けようと立ち上がりかけたところで、教室の戸が開かれた。

よぅ、なんだ、明かりも点けないで

 生物教師笹塚は、言いながらスイッチに手をかける。

 室内が一瞬白くなり、トオルは目を細めた。

 窓の外はすっかり暗い。
 窓越しにこちらへ歩いてくる笹塚先生の姿を見つめる。そのまま、トオルの前の席に腰掛けた。
どうした、浮かない顔して
いえ、別に
 本当は、先生の顔を見たら泣きたくなったなんて、絶対に気づかれたくなかった。
明日から休みだろ?
はい
い~なぁ~
……
 トオルは、さっきの感動を返してほしいと思った。あげたつもりは毛頭ないけれど。
さ、はじめるか
 先生はぱらぱらと本をめくる。

 天つ風

 雲の通ひ路

 吹きとぢよ

 をとめの姿

 しばしとどめむ

 あまつかぜ

 くものかよいじ

 ふきとじよ

 おとめのすがた

 しばしとどめん

で、現代語訳はな、
 笹塚先生はそこで言葉を切って、トオルの目をみた。
「帰らないで」
「え」
(ーーーなんで、俺の気持ちーーー)
!!!
 トオルが自分の勘違いに気づいたときには、先生に全てを悟られた後だった。
「なあ、今日、一緒に帰るか」

「えっ」

 どき。

ちょっと待っとけ
 ええっえええええええっーー!!
 笹塚先生は超多忙につき、本日はここまで。

 笹塚メモ

・六歌仙の一人

・三十六歌仙の一人

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登場人物紹介

藤原 トオル

生物教師 笹塚

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