第7話

文字数 676文字

 ボスは朝礼でなにか発表するのが好きらしい。抜き打ち面談をするとか、パワーナップタイムを設けるだとか、顧客のもとへ出向いて覆面調査員まがいのことをするとか。
 サイコロを振って、出た目の組みあわせを以て発言しているのだろうか。わたしには意味の理解できないアイデアばかりなのだが、ワタナベやヤマモトはうんうんうんうんとうなずいている。
「リモートワークに移行していきたいと思ってる。在宅でできる仕事はなるべく在宅で、意識を少しずつ改革していかなきゃいけない状況だからね」
 うんうんうんうんとうなずく首は、ポロリと折れてしまってもおかしくない。こんなおもちゃをどこかで見たことがある。わたしの星で見たのか、この星で見たのか。
「……だから、皆が在宅で仕事できるように、あなたがここで指示を受けて動いてほしいと思ってる。印刷とか郵送とか、そういうことは自宅じゃできないからね」
 いつの間にか、ボスはわたしだけを見て話している。これは確か面接のときにも言われた気がする。
 社員を守るために。在宅でリモート。あなたは電車に乗らないし。会社で電話を取って。指示を待って。大丈夫。あなたは宇宙人だからね。
 断片的にボスとの記憶がよみがえる。割れたガラスに映って、そこら中に散らばる。拾いあつめるとき、怪我に注意せねばなるまい。
「了解した」
 わたしの応答で、ボスのみならずヤマモトもワタナベもスズキもタナカもうなずいている。ボスは一人だと思っていたのだが、どうもこのオフィスにおいては全員がボスに当たるらしい。
 もしくは、わたしだけがボスじゃないらしい。
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