魔法よりも、大切なこと

文字数 1,025文字

 それからさらに数日後、みくは珍しく自分から鏡に向かって「ねえ、ねえ!」と呼びかけて、こんな提案をした。

この前の旅でそうしたみたいに、また手鏡を貸してくれないかな。

あなたに見せてあげたいものがあるんだ!

 きっと、サプライズをするつもりだったのでしょう。わくわくを隠しきれない、煌めいた瞳。でも、鏡越しに見ただけで、ワタシはみくの計画を知ってしまったのよね。

 ワタシを想ってしてくれていることだからもう知ってしまったっていうのは内緒にして、手鏡をみくに託して、彼女の案内でその場所へご一緒することにした。

あなたの思い出のプラネタリウムの投影機って、

この子のことだよね?

 そう言ってみくが連れてきてくれたプラネタリウムは、ワタシの思い出のその場所と同じ街に新しく作られた。時代の流れと共になくなったそのプラネタリウム関係者の方々は、表から見える場所ではなかったけれどそれに関わる活動を続けていて、もう役目を終えていたって投影機も捨てたりするはずもなく。倉庫にしまえるように一度分解して保管していた。

 以前のように、街のランドマークみたいなビルの上の大きな投影ドームじゃなく、ちょっと目立たない坂の上の文化センターの最上階でまたイチからプラネタリウムを開館した。そのビルの途中階に当時の投影機をまた組み立てて、「かつて、あの有名なプラネタリウムで稼働して多くの人の思い出に残った投影機」として展示していた。
 あの頃は自然の光の一切入らないドームの真ん中で働いていたのに、今は燦々と日差しの射し込む窓際で、街の景色を眺めているみたいな配置にして……。

みく……ありがとう。

もう一度このコに会える日が来るなんて、思わなかったから

……嬉しいわ

魔法が使えるのに?

魔法が使えるとしても、

なんでもかんでも叶えられるわけではないのよ。

……残念だけどね

 そう、残念だけど、完璧ではない。でも、魔法って、完璧すぎても良くないのよ。

 なんでも叶えられるのなら、今日、こうやってみくがワタシのためにしてくれたことのありがたみも、彼女の優しさも。ワタシには感じられないってことになってしまうから。望みが叶わないよりも、その方がよっぽどつまらないじゃない。

ありがとうついでにっていうのは失礼なんだけど、

もうひとつ、お願いしてもいいかしら

なぁに?
ワタシの手鏡で、この投影機を映して欲しいの
 どうしてそうして欲しいのか、なんて野暮を口にするより先に、みくはワタシの頼んだ通りにしてくれた。
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登場人物紹介

名前:みく

星や石や虫などの自然が大好き。素直な16歳の女の子。

記憶力が弱くて好きなことを勉強してもすぐ忘れてしまうのが悩みの種。

その対策として、忘れたら思い出せるようにクローバー柄のノートにメモを書くのが習慣。

一人称は「僕」

名前:秘密。教えると魔力が弱くなってしまうから、とのこと。

通称:鏡の魔女

みくの部屋の鏡の向こう側から、みくに話しかけてくる不思議な友達。

年齢も秘密。みくは彼女のことをほとんど何も知らないけど、

彼女はみくのことをなんでもお見通し。

わかっているのは、お酒を嗜むのが趣味なのと、鏡を用いて魔法を使えることだけ。

一人称はワタシ。

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