クローバーのノート
文字数 1,763文字
翌日、日曜日。梅雨時だからなのか、今日も冴えない空模様。雨こそ降っていないけど灰色じみた空で、いつ降り出してもおかしくない。けれど、朝食をいただきながら見た天気予報では一応、降水はないことになっている。
部屋に戻ると、待ち構えていたようなタイミングで彼女が声をかけてくる。
あ、やっぱり。彼女はいつでも、ボクのことはお見通し。こうなることがわかっていてあえて貸してくれたんだ。
僕は、ひとりで机に向かってる時間が一番好きだ。それで何をやっているかというと、忘れたくないことをノートに書いたり。過去に書いたノートを読み返したり。お気に入りの図鑑を眺めて、覚えておきたいなぁって思うことがあったらそれも書き写したり。まぁ、結局覚えられてないわけですが。
僕の机に飾っている、手のひらサイズの小さな洞窟みたいな石。たぶんあれは、元はこの倍の大きさの石だったのが、半分に割れたんだと思う。その中に空洞があって、黒く光る水晶みたいな石が隠れていたんだ。
ボクの知り合いには石に詳しい人もいなくて相談も出来ないし、売り物でもない石をお店に持って行って鑑定してもらうなんて迷惑だろうから、自分で調べるしかないと思ってそうしているんだけど……案の定というか、こんなにたくさんの石について調べて、何度も書いているっていうのに、覚えている知識は漠然としている。おぼろげ~に石の名前を覚えているけど、それぞれの特徴や色などは覚えきれていない。
でも……。
ボクの知り合いには石に詳しい人もいなくて相談も出来ないし、売り物でもない石をお店に持って行って鑑定してもらうなんて迷惑だろうから、自分で調べるしかないと思ってそうしているんだけど……案の定というか、こんなにたくさんの石について調べて、何度も書いているっていうのに、覚えている知識は漠然としている。おぼろげ~に石の名前を覚えているけど、それぞれの特徴や色などは覚えきれていない。
でも……。
僕自身が覚えてなくても、僕の書いたノートからその人が、興味ある個所を見つけてくれたら。さすがに僕だって自分の書いたものを読みながらならそのことを思い出して話せるはずだ。うん、楽しそう。とはいえ、この前の人とまた会って話したいかっていうとそれは別問題だから、また別の人との機会にね。
僕に必要なのは僕だけのクローバーのノートで、魔法のノートは必要ない。お互いに、鏡を介してノートを返し合った。
僕に必要なのは僕だけのクローバーのノートで、魔法のノートは必要ない。お互いに、鏡を介してノートを返し合った。
紫陽花っていうのは、曇り空の方が綺麗に見えるらしい。こういう単発のネタみたいな情報はちゃんと覚えていられるんだけどなぁ。
以前、鏡を持って一緒に出掛けたら同じ景色が見られるのか訊ねてみたことがある。その時は濁して教えてくれなかったけど、つまりそうやって一緒に出掛ける気はないってことなのかもしれない。
一緒に出掛けられないし、顔を見られないし、手も繋げない。僕はあなたのことを何も知らない。
それでも彼女は、僕だけの、「一等の友達」だってことだけは、確かな真実なんだ。
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