僕にとっては憧れの。ワタシにとっては思い出の。
文字数 2,264文字
鏡の向こうでご機嫌に旅の支度を進めている女の子、「みく」は、ワタシのお友達。
鏡の向こうに見えているのは、「ワタシの世界とうりふたつ、でも少しずつ何かが違う世界」。
ワタシは鏡を介して、「数多ある異時空の世界の中でただひとり、最も自分と似た顔の人」と、こうしてコンタクトを取ることが出来るのよ。
ワタシが声をかけるまで、みくはこうして見られていることすら知らないの。でもそれを不快に思ったりはしないみたいで、
こうやって、にこやかに応えてくれる。せっかくの作業を中断させてるっていうのに、大らかよね。
女の子らしくないよねぇ、なんて、てへへ、って笑うみくだけど。ワタシは彼女のこういうところ、気に入っているのよね。誰かと一緒じゃなきゃ好きなことも出来ないなんてコよりよっぽど好感が持てるもの。
そこで彼女が口にした名前を聞いて、前言撤回。これは、今回ばかりは信条を曲げてでも、ワタシもご一緒させていただかないと!
ワタシは愛用の、六角形の黒い手鏡を目の前の卓上鏡へ放り入れる。すると、みくが向き合っている彼女の部屋の鏡からそれが飛び出して、慌てて手を差し出してキャッチする姿が窺える。
ワタシは愛用の、六角形の黒い手鏡を目の前の卓上鏡へ放り入れる。すると、みくが向き合っている彼女の部屋の鏡からそれが飛び出して、慌てて手を差し出してキャッチする姿が窺える。
みくは川沿いのお家に住んでいて、自宅周辺の自然豊かな場所をひとり歩きするのが趣味。部屋の鏡でしかワタシと会話出来ないのがほんの少し残念で、一緒にお散歩したいってこれまで思ってくれていたみたい。これも、ワタシが一方的に覗き見して知った彼女のささやかな願い。そのお気持ちは光栄なのだけど。
みくの憧れのプラネタリウムで今も現役で稼働している投影機。カールツァイス・イエナ社製、Universal23/3に。
ワタシが鏡の魔法を使えるようになったのは大人になってからのことで、子供の頃はごく普通の女の子だった。幼い頃、遠足で、繁華街のデパートの屋上にある大きなプラネタリウムの投影を見た。正直、行く前はそんなに興味もなかったのだけど。
デパートの屋上のドームはとても大きくて、生まれて初めて見る人工的な星空はまるで自分の目の前に光が迫るように見えた。手を伸ばしたら触れそうな光なのに、いざそうしたら全く掴めない。
季節は冬だったから、星空解説は冬の大三角……こいぬ座のプロキオン。おおいぬ座のシリウス。オリオン座のベテルギウス。
冬の夜空に見える一等星はそれだけじゃなく、ふたご座のポルックス。ぎょしゃ座のカペラ。おうし座のアルデバラン。オリオン座のリゲルの四つにシリウス、プロキオンを加えて結ぶ冬のダイヤモンドもある。
星座に詳しくない人でも見上げれば一目でそれとわかるオリオン座の派手さもあって、とにかく冬の夜空というのは花形といっていい。その解説ともあればワタシの幼心も鷲掴みにされちゃうってものでしょう。
すっかり虜になってしまったワタシは思春期には何度かそこへ通った。天文部にはいっときは入部してみたものの、誰かと連れだって見る星空っていうのがどうにも性が合わなくて途中で辞めてしまったわ。そういうところ、ワタシとみくってやっぱり似た者同士なのかもね。
当時は今みたいにインターネットで誰もが最新情報を入手できるってわけじゃなかったから、まさに青天の霹靂だった。その、ワタシの人生初の、思い出のプラネタリウム。デパートそのものの老朽化と町全体の再開発のタイミングが重なって、閉館になってしまった。プラネタリウムとしては割と有名どころだったはずだし、まさかなくなってしまうなんて。大人になった今ならそんなことはいくらでも起こり得るって知っているんだけど、若い時分のワタシにとっては何の心の準備も整っていない突然のお別れになってしまったわ。
ワタシが鏡の魔法を使えるようになったのは大人になってからのことで、子供の頃はごく普通の女の子だった。幼い頃、遠足で、繁華街のデパートの屋上にある大きなプラネタリウムの投影を見た。正直、行く前はそんなに興味もなかったのだけど。
デパートの屋上のドームはとても大きくて、生まれて初めて見る人工的な星空はまるで自分の目の前に光が迫るように見えた。手を伸ばしたら触れそうな光なのに、いざそうしたら全く掴めない。
季節は冬だったから、星空解説は冬の大三角……こいぬ座のプロキオン。おおいぬ座のシリウス。オリオン座のベテルギウス。
冬の夜空に見える一等星はそれだけじゃなく、ふたご座のポルックス。ぎょしゃ座のカペラ。おうし座のアルデバラン。オリオン座のリゲルの四つにシリウス、プロキオンを加えて結ぶ冬のダイヤモンドもある。
星座に詳しくない人でも見上げれば一目でそれとわかるオリオン座の派手さもあって、とにかく冬の夜空というのは花形といっていい。その解説ともあればワタシの幼心も鷲掴みにされちゃうってものでしょう。
すっかり虜になってしまったワタシは思春期には何度かそこへ通った。天文部にはいっときは入部してみたものの、誰かと連れだって見る星空っていうのがどうにも性が合わなくて途中で辞めてしまったわ。そういうところ、ワタシとみくってやっぱり似た者同士なのかもね。
当時は今みたいにインターネットで誰もが最新情報を入手できるってわけじゃなかったから、まさに青天の霹靂だった。その、ワタシの人生初の、思い出のプラネタリウム。デパートそのものの老朽化と町全体の再開発のタイミングが重なって、閉館になってしまった。プラネタリウムとしては割と有名どころだったはずだし、まさかなくなってしまうなんて。大人になった今ならそんなことはいくらでも起こり得るって知っているんだけど、若い時分のワタシにとっては何の心の準備も整っていない突然のお別れになってしまったわ。
みくが秋のゴールデンウィークで決行する、憧れのプラネタリウムへ向かう、初めてのひとり旅。そこで稼働する投影機はワタシの思い出のプラネタリウムで投影していたのと同系機だって有名なの。近年の投影機はデジタル化、小型化が進んでいて、昔ながらの二球式の巨大な投影機はもはや日本全国でも稀少になっている。「その投影機の映す星空が見たい」っていうだけで全国のプラネタリウム好きがそこへ足を運んだりもする。いわゆる聖地巡礼、ってやつかしら。そういう意味でも有名な場所なのよね。