こじらせた原因と遭遇

文字数 1,509文字

 シュウは由衣ちゃんに迷惑がられない頻度を心掛けながら、メッセージアプリでアオちゃんの画像や動画を送信する。由衣ちゃんの返信を一部見せてもらったら、とても喜んでいることが伝わる文面だった。
「これ、アオちゃんファンクラブのメッセージグループなの?」
「ひょっとして今、オレは皮肉を言われた?」
「微笑ましい内容だけどさ、自分のことを伝えたり由衣ちゃんのことを聞いたりしなさいよ」
「いいんだ。あまり求めては、由衣ちゃんを困らせてしまう」
「もう少し、欲求に従った方がいいよ」
 シュウは微笑みながら、緩く首を振る。猫友達で終わっていいの? 本当は、もっと由衣ちゃんと繋がりたいんでしょ。
「シュウは素敵な男の子だよ」
 前触れもなく言ったので、シュウは驚いた顔をした。何度でも断言する。シュウは今まで出会った中で、一番素敵な男の子だ。
「ありがとう」
 シュウは恥ずかしそうに目を逸らすと、小さな声で呟いた。次は、もっと良い報告を待っているよ。


 二学期の中間テスト一日目。午前中に終わって、市街地のイタリアンレストランでシュウとお昼を食べる。学生証を出せばドリンク一杯が無料になるので、友達同士で食事をする際はよく利用した。
 他の高校もテスト期間らしく、制服姿の客が多い。私はエビドリア、シュウはスパゲティアラビアータを食べながら、テストの出来を報告し合った。
「比奈じゃん、久し振り」
 声を聞くなり、心臓が大きく跳ねる。中学時代に好きだった甲斐がテーブルに近付いてきた。内心穏やかではないけど、私は笑顔で応じる。
「久し振り、甲斐のところもテスト期間なんだ」
「おう、デート中に邪魔して悪いな」
「バカ、友達だよ。私なんかとカップル認定したことをこの子に謝って」
「仲良く見えたから仕方ないじゃん。こんなイケメンをよく捕まえたなって、感心したんだぜ」
 よりによって、甲斐に誤解されるとは。私が気まずいのはともかく、シュウに嫌な思いをさせていないか心配だ。
「初めまして、その制服って赤堀高だよね。アイツのこと、知っているかな」
 シュウは甲斐に愛想良く挨拶すると、中学時代の友達らしき名前を次々と挙げる。ソイツは隣のクラス、ソイツは友達だと、甲斐は楽しそうに応じた。
 シュウのコミュニケーション能力、エグい。何故、それを由衣ちゃんに発揮しないのか。
「そろそろ、連れのところに行くわ。じゃあな」
 甲斐を見送った後、私は大きく息をつく。只でさえ今日は苦手な数学のテストがあったのに、ドッと疲れが出た。
「騒がしくしてごめん。それと、ナイス対応」
「大人びて、頼もしそうな人だったね。女の子は、ああいうタイプに弱そう」
「ビンゴ、確かに奴はモテていた。アイツの彼女、とても可愛いのよ」
 冗談を装った告白で撃沈した後、甲斐に彼女が出来た。やっぱり男は清楚な美少女が好きなんだと悟る。
「甲斐くんのこと、好きだった?」
「うん、フラれちゃった。未練はないから、平気へっちゃら」
 たははと笑うと、シュウは気遣うような眼差しを私に向ける。本当に優しい子だな。だからつい、弱音を吐いてしまう。
「恋はしたいのに、難しいな」
 白馬の王子様がいないことは分かっている。理想を高く持っても、そんな相手は私に目もくれない。
 平均的な容姿、平和的な人格、平凡な性癖や趣味。私の求める条件は、厳しくないと思うのに。
「ヒナちゃんは、素敵な女の子だよ」
 シュウが柔らかな声で囁くので、耳まで熱くなった。シュウに素敵な男の子だと言ったことはあるけど、逆にされると凄く恥ずかしい。
「シュウがそう言うなら、希望を捨てないでおく」
 シュウが優しく微笑むので、私は熱くなった頬をペチペチ叩きながら笑った。
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登場人物紹介

比奈結子(ひな・ゆいこ)

ハキハキした性格の女子高生。

中学時代に失恋して以来、ナカナカ恋ができないでいる。

邦倉修士(くにくら・しゅうじ)

結子と同じクラスで、周りから仲良しコンビとして認定されている。

チャラいイケメンに見られがちだが、実は草食系男子。

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