その初日

文字数 941文字

出来/不出来は目覚めで決まる、と何となく仮に言ってみる。僕は汗かきだから寝起きは目の周りがベタベタしている。
顔を洗ってだいたい真っ先に見るのは、鏡の中の自分の顔だろうけど、僕は、いや私はこれを見ると俄然(がぜん)気持ちが下がる。目の周りも頬もたるんでいて生気が感じられない。

ここからアイドルなんて、道のりが遠すぎる。

と思いながらゴミ捨てをしなければ。
土曜日は資源ごみ、段ボールとペットボトルをまとめる。

そうだ、プロジェクトが立ち上がった翌日に諦めてどうする!僕を…いや、俺を信じてくれた菊地Pのためにも、俺は笑顔を絶やさない。

笑顔でごみ捨てを完了した。

* * *

筋トレは腹筋とスクワットを中心に始めた。今日は初日ということで20回ずつやった初日だから。
この後、効果的なメニューを探そうと思う。

西側と南側に窓のある一番暑い部屋でやるのもいいかもしれない。じっとしていても汗だくになる部屋だ。

なんてったってアイドルである。たるんだ肉体では成り立たない。
腹のたるんだおっさんがステージに上がる…、そういう非日常を提供してはならない。

会社の納涼会で他部署の部長が糖質を抑えていて、ビールを一滴も飲まずに芋焼酎ばかりやっていた姿に、こっそり僕は涙した。

ひたむきでなければならない。

* * *

処分しなければならないパソコンが2台ある。
出来るだけ細かく分解してハードディスクを取り外した。確かこれで不燃物として持っていってくれたような気がする。

アイドルになるには、部屋の整理整頓も大事だ。

部屋は心の鏡だからだ。
長い時間を過ごす場所に不要なものを置いてはならない。

***

①40分書き物をして
②20分 楽器の練習A
③40分 制作の仕事
④20分 楽器の練習B

アニメを一本観る

①から④ を こなし アニメを1本観る
を繰り返した。
こうすると 罪悪感なく アニメを観ることが出来る。

暮らしの中に後ろめたさをため込み過ぎてはいけない。出来れば抱かない方がいい。
というか抱かない工夫をするべきだ。
人前に立ち、認められるよう動き、自分を切り売りし数字に変えお金に替えてゆく行為自体、罪悪感と切り離せない。頑健な哲学か、強靭な耐性が必須だ。

47歳おっさんの僕がアイドルになれると信じてくれた菊地Pのために手はぬけない。


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