第46話

文字数 2,110文字

 顔中に髭が生え渡り、頭髪と混ざり合い。熊のような体格の西洋人だ。高級な背広姿を着こなし。24時間のお姉さんとは違い。どこか遠い神を思わせるところがあった。
「私たちは時を管理していますが。逆に言うと時における事象の知識だけを管理しているのです。つまりは、頭脳労働が私たちにできるサポートとなっています。玉江 隆さんには戦の神と水と正反対の火の神によるサポートも必要かと……」
 モルモルはそこで煙草に火を付けた。
 瑠璃はちょっとだけ険しい顔になった。
 パチンコ屋に入り浸る生活をしているが、煙草の煙が苦手なのだ。
 それと、自分だけどこかで抜け出して、ギャンブルをしたいと頭の片隅で考えているようである。この世界の恐ろしさからのささやかな逃避であった。
「戦の神と火の神はどこにいるのでしょうか?」
 正志はモルモルに進言した。
「実は、一度……。私たちだけで相談に向かったのですが、断られてしまって。今現在捜索中なのです。なにせ、二人とも多忙な身なので……。一度、見失うと探すのが大変なのです。私たちの時は現在ですから、未来が少しでも変わると解らなくなる」
 モルモルは首を慣らし、
「時という事象は千変万化なのです。少しでも起こりうる事象が違ってくると、その後も一つ一つの要素が変化し、場合によっては私たちの管理出来る範囲を超えてしまう。何とも頼りないことですが……仕方がないのです。人間や神の可能性などは場合によっては無限ですから……」
 24時間のお姉さんは声のトーンを低くして、
「私たちもここから探しますから・・・隆さんたちも探して下さい。きっと、この都市のどこかにいるはずです」
「あの、里見ちゃんはどうやったら蘇らせることができるのですか?」
 正志は瑠璃の手を握りながら慎重に話した。
「それは、簡単です。死者はこの世界から抜け出せれば蘇ることができます。けれど……
生命の神の許可が必要なのです」
 24時間のお姉さんの優しい言葉に正志は力強く頷いた。
 隆と智子は手を取り合って、その言葉を頭で反芻した。
「それでは、急いで探します……。あの……。ここでは、神様は別の名前を使っていますよね。できたら戦の神と火の神の別の名前を教えて下さい」
 智子はやや頭を使った。
「ええ……」
 24時間のお姉さんは少し間を置いて、
「戦の神はさすらいのジョー助。火の神は英雄のヒロです」
「はあ……」
 隆は気の抜けた返事を受けて、24時間のお姉さんはにっこり笑って、
「必ずどこかで会えるはずです」
「どうやら雨の日の不幸は雨の大将軍のためだったんだ……。不幸の時に生じる酸性雨は一体……?」
 正志は俯いて呟いた。
 正午のチャイムが聞こえて来た。

 その後、エレベーターで一階に降りていく中で、正志と瑠璃は別行動を取ろうと相談してきた。
 隆と智子。正志と瑠璃とで二人同士ならば、見つける手間が省けるだろうと考えたのだ。この都市はやはり広すぎて、ここから戦の神と火の神のたった二人を探すのは不可能に近いと合理的に判断した結果だった。
「では……。また、後ほど。今日一日で見つかればいいですね」
 正志は隆と智子と大日幡建設の近くのT字路で別れた。正志たちは右に、そして、隆たちは左に向かった。
「瑠璃。今度の依頼は凄いな」
 正志は色白の瑠璃の横顔を見つめながら話した。
 正志自身。瑠璃と自分自身の相性はばっちりだと思っているのだ。こんな依頼だが、心強い理解者で楽しい美人でもあった。
「正志さん。一体この依頼の依頼料は幾らなのですか?」
「そういえば……考えていないな……」
「もう……。いつもは依頼料が先で、仕事が後で。儲かったらすぐに湯水のようにお金を使って、無くなったらまた人助け。そんなあなたが私は一番好きだったんです。こんな訳も解らない。そして、怖い依頼なんて……」
 瑠璃はそっぽを向いたが、急に目を輝かして、
「ねえ、正志さん。私。心辺りがあるのよ。これから、別行動を取りましょ」
 正志は首を傾げて、「ああ、いいとも」と言った。
 瑠璃は角を曲がり商店街の方へと後ろ髪を揺らして歩いて行った。
「……あっちには、あるな。……パチンコ……」
 正志は商店街から反対方向へと向かった。
この世界を正志も恐ろしく感じているようだ。そして、正志は瑠璃のギャンブル好きにはもう慣れている。なにせ正志も遊び人である。高級車でもあるカスケーダで、瑠璃という美人の妻がいるというのに、女遊びもしているのだ。
 しかし、正志は人助けに生き甲斐を感じているところも、正志自身良く知っていた。人を助けると、金が入るというのは昔からだが。それだけではない。充足感や使命感などが感じられ、昔から相談事や悩み事を打ち明けられる性格でもあったので、この商売を始めたのだ。師匠の竹原(里見の死体を安置している人物)も、半ば遊び人であった。
 竹原は年は今では76歳。
 葬式屋をやる前は、正志と同じく占い師で大のパチンコ好きであった。
 正志は竹原に占いの手解きを請う時は、いつもパチンコ屋であった。
「戦の神……戦の神……。さすらいのジョー助……。どこにいるんだ」
 正志は呟きながら公園の方へと歩いて行った。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み