第41話 大雪原

文字数 1,881文字

 虹とオレンジと日差しの町から、休憩や所々釣り糸で食料を釣って10日目。上空には、雲の上には様々な家が建ち並び、住人が手を振っていた。そして、下方には大海原や町が続いていたが。やっと、地上に銀色の雪原が見えてきた。気温はマイナス25度。飛ぶ鳥や雲の上の家などもなくなって、北風が強くなっきた。
 空は厚い雲が覆い。
 日差しを所々遮っていた。
 銀色の大地には凍て付いた大河が続いている。
「ねえ、あなた……」
 智子は隆の横顔を見つめていた。
 真っ正面から目を決して放そうとしない夫の目は、まるで方角や目的地に吸い込まれてしまいそうだ。憂いと一片の嬉しさがこもり、こんなにも娘を思っている。
 何も話さなくても、娘のためと下界の町で変人扱いをされ、そして、泣いていた父親の顔が智子には今では自然に誇りに思えてきた。
「智子……里見を必ず連れ戻すんだ……。必ず……」
 隆は力強くハンドルを握り、前方を見つめながら力強くポツリポツリと言う。その言葉はこの10日間で幾度も、繰り返し繰り返し言っている言葉だった。
「ええ……。ああ、里見ちゃんにまた会える……」
 智子も何度目かの自然に溢れる涙を拭っていた。
 隆は地上の大雪原に動くものを見つけた。
「降りよう。人がいそうだ。きっと、兵士になってくれる」
 軽トラックが地上へと向かうと、正志のカスケーダもそれに従った。
 
「寒いわ……」
 車から降りた瑠璃は、白のブラウスとラベンダー色の薄いスカートといった服装なので、この寒さに色白の顔を更に色白くした。
 地上へと降りると、極寒の地でも太陽の光は暖かかった。
「あ、でも太陽に当たる場所は暖かい……」
 瑠璃は薄らと差し込む日光に手をかざした。瑠璃の色白の手を真っ赤に染める慈愛がある暖かい陽光は、その光は銀世界をあたかも造り出しているかのようだ。
「隆さん。この大雪原で何があるのですか?」
 冷たい強風のため正志は上がワイシャツとネクタイとの背広姿なので、浅黒い顔をしかめる寒さに閉口しそうだ。
 隆も寒さに根を上げるが、顔を引き締めて、
「この大雪原には、俺たちと一緒に戦ってくれる兵士がいるそうです。あの鎧武者たちはどうしようもないですから……。早めに探しましょう。寒いですからね……」
 数百メートル先に、地上の動くものは巨大な像の群れだった。上空から見ると小さかったのだが、ここから見ると6万を超える巨大な塊がうようよとしている。
 その象の上には人がしがみついていた。本当に文字通り象の上にしがみついている。
 象の群はかちかちに凍った大河を渡っていた。その川は遥か南に向かっている。
 中友 めぐみの携帯が鳴った。
 隆はがちがちと音の鳴る歯で何とか返事をすると、
「隆さん。その象の群れの上にいる人たちに話してみて下さい。なんなら私が話します」
電話をしている隆に、強風が容赦なく吹きすさぶ。震える正志と瑠璃は不思議そうな顔をした。こんなところで電話をしていること自体。不思議なことである。
隆は24時間のお姉さんと会話をしている旨を話し。
「そうだ。正志さんか瑠璃さんは携帯を持っていますか? 智子は持ってないな。24時間のお姉さんと話せるとかなり役立ちますから」
 電話の途中だが、これからのことを考えると、どうしても必要なことだ。
「ええ、そうよ。そういえば、携帯って持った時ないわ」
 智子も広い肩を摩りながら震える声を発した。
「私と正志さんは持っていますよ。その24時間のお姉さんって、一体誰なのかしら?」
 瑠璃は正志に聞いた。
「解らない。けれど、隆さんをここまで導いて来たんだろう。凄い味方だと思う。隆さん。私も電話で話してみたいです」
 正志は黒のオーソドックスの携帯を浅黒い手で取り出し、隆に番号を聞いた。
「今は会話中だから出ないか……」
 隆が電話を切って、正志が0024に電話すると、不思議なことに隆の携帯に着信音が鳴り響いた。二人で24時間のお姉さんの電話に出た。
「隆さん。正志さん。私は時の神なのです。だから、どんな時間でも大勢の人たちの電話に同時にでれるんですよ。私の住み処は、ここから更に西へ行ったところにある神々が住む都市という場所にありますから、ここで兵士を見つけられたら必ず来て下さい。お願いしますよ」
「え!!」
 隆は受話器越しに驚いて、素っ頓狂な声を発した。
「か……神さまだったんですか!」
「ええ。それから、早めに兵士を見つけて下さい。ここ大雪原には長くいると凍死してしまいますよ」
 隆と正志はそれを聞いて、切迫した顔を見合せて、電話を切ると二人で一目散に象の群れを追った。
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