第8話

文字数 1,019文字

 翌日
 花田 正志は新品同然のオペル社のカスケーダ(スペイン語で滝を意味する車)で玉江宅へと着いた。
 花田は二階建ての一戸建てを見ては住所を確認している。
 方向音痴なのだ。
 占い稼業をしてからもう10年も経つが、どの家も住所を何度も確認しては面食らった。
方向があってないのだ。
 不幸の調査結果を記した本の売れ行きもいい。だが、依頼は10年前から数多く受けているが、これといって何が原因かはまだ解っていなかった。
「こんにちは。玉江さん。私です。花田 正志です」
 花田はインターホンを押しながら、挨拶をしていた。
 すると、少しだけ元気を取り戻した隆がのっそりと現れた。
次に隆の後ろから智子が玄関に現れる。
 智子は今日だけは、特別にダブルワークの片方、日中だけ休日を得たのだ。白のTシャツに青のジーンズ姿である。
「花田さん。私の娘は戻ってきますか?」
 隆の不安な声色には少しの希望が生じていた。
「……まずは調査をしましょう。それからです……」
 花田は商売用の誠意溢れる姿勢になると、車からコンパスと、理科の授業に使うスポイトの入ったビーカーを取り出した。
「あの……お金は掛かりませんよね」
 智子の心配の声に華田はニッコリとして、
「ええ。お金の心配はこの際しないほうがいいですよ」
 そういうと、花田は作業を始めるために岡尾橋へと向かった。
「あなた……。大丈夫なの?」
「ああ……。華田さんに任せればいい」
 花田は岡尾橋の水を苦心してスポイトで取り、その水滴をビーカーへと入れ。二三回振ると戻って来た。次にコンパスと地図を持って岡尾橋の周囲を歩き回った。
 それらが終わると花田は納得をしたようで。
「経費は……と……ガソリン代と調査費。そして、出張費。それと、川の水の分析費を含めて……」
 花田は車から電卓を持ってきた。
「締めて税込みで6万4千800円になります」
 隆と智子は顔を見合わせた。
「ちょっと、待って下さい……」
 隆は真っ青になり、智子と一旦家に入るとかれこれ一時間も花田を外で待たせた。
 すると、しばらくして俯いた隆は玄関を開けて。
「……払います」

 智子はキッチンでカップラーメンのチャーシューを摘まむところだった。
「ああ。これで、娘も帰って来るさ。あの花田さんに頼ればいい。そう、これでいいんだ」
 6万4千800円の調査費を苦渋して何とか支払い。調査の結果は明日になるそうだ。
そうは言ったが隆は正直。何の調査か解らなかったが......。
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