第22話

文字数 1,077文字

「あのカラスたちもいい人ですよ。喋れませんがね。きっと、下界で悪い墓守でもしていたんでしょう。ヘビや虫もそうです、喋れません。人間と同じ物を食べますが……。きっと、ヘビは下界にいたときは底意地の悪い姑だったのでしょう。虫はブラック会社のサラリーマン……何故かというと、蟻が多いので、働いているけれど、人語が出来なくなっています。この天の園ではそれは不憫なことで。人間ではないですから、飛べないし、人と話せないしで……暇でしょう……」
「黒田さん……地獄はないのですか?」
 そう言うと、隆は背筋に冷たいものが伝う感じがした。こんな世界があるのだから、地獄は恐ろしい。
「さて……聞いた時がないですね」
 今度は隆と黒田はこの世界にも地獄があるのかないのかと話をした。
 空は快晴だった。
 うろこ雲に数多の虹が差し掛かり。
 空気はすっきりとしている。
 気温は25度。
 隆の軽トラックを見て珍しがる人々や近づきたがる鳥。
 下には広大な樹海があり、明るく楽しいところでもある。
 しかし、遥か北には暗雲が立ち込めていた……。

「わあー!!」
 智子は自分の身に起きたことを、今でもまったく信じないようにしているようだ。天の裂け目に向かった時は正気と狂気の間で緊張感がもたらされていたが、今では、きっと仕事の疲れで自宅の安いベットで、ぐっすりと眠っているんだと思い込んでいるのだろう。
「正志さん!! あの人達を見て!!」
 瑠璃は空を飛んでいる人達を無遠慮に指差しながら、智子と歓声を上げていた。
 正志はこの世界でたった一人の玉江 隆をどう探せばいいのか途方に暮れていた。緊迫した表情でカスケーダに取り付けたカーナビを点けると、なんと、天の園の地図がでてきた。
「智子さん。隆さんはどこへ向かったのか解りますか?」
 喜びの表情だが、どこか気が抜けている顔の智子は自然に首を傾げて、
「いいえ……解りません」
「ほんの些細なことでもいいんです」
「えーっと」
 智子は豪快に首を傾げると、そうだとポンと手を叩いて、
「回りの人に聞いてみてはどうですか」
「……。確かにそれが一番いいですね」
 正志は歓声を上げている瑠璃を一瞥し、車のドアを開けて一番身近なアメリカ人男性に声をかけた。何故か空に浮いているその人物は、親切に黒田 裕と一緒に西へと向かったと教えてくれた。
「ありがとう。それじゃあ、西へと行きます。きっと、ご主人のサポートを成功させましょう」
 正志は浅黒い手でハンドルを握ると、壊れた閉じた状態のルーフの開閉スイッチと計器類。そして、ガソリンメーターを見た。
「あ、ガソリンが無いや……」
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