第8話 祈り 

文字数 729文字

 南君や詩織ちゃん、優しい双子の姉妹は、たぶんクラスでもアッパーな階級だったのだろう。彼らは、人に対して余裕と思いやりがあった。また同時に自身に対してプライドを持っていたように思う。

 素晴らしい出会いのあった藤棚小学校。それでも異質な者に対して、どれだけごく普通の子供が罪悪感を待たずに残酷になれるのかを痛いほど感じた。
 幼稚園時代も結構ひどい目にあってはいたが、自尊心が育ち自分を多少好きになってからの方がずっと辛かった。
 それでも私は人生の初期にそういう目にあって良かったと思っている。もしあの頃に還れるのであれば、同級生たちとただ手を繋ぎたかったと強く願うのだ。なぜか恨む気持ちはあんまり湧いてこない。ただ友達になりたかったと、蔑み以外の感情をみたかったと思っている。

 私には寝る前に祈るという妙な習慣があった。家に居場所もなく、周囲からの拒絶が激しい頃、自分の中の誰かと会話していたのだ。
 自分の心の中の何と会話していたのか、細かく思い出せなくなってしまった。いつも相談したり感謝したり、明日は南君とたくさん話せたらいいなと他愛もないことから、世界の平和まで多岐にわたることを祈っていた。おかしいことかもしれないが、幼いころには必要な行為だった。

 私の好きな作家が『その日の天使』というエッセイを書いている。もう八方塞だと落ち込んでいたら陽気な焼き芋の呼び込みが聞こえて救われたという話だ。
 生まれてから、つらく悲しいことが何度もあった。けれど通りすがりの『その日の天使』にずいぶん助けてもらった気がする。
 人を好きになることを知ってから、つらいこともあった。だが、幸せを感じられるようになった。
 いつのまにか、ここに藤棚小学校にいたいと思っていた。












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