第2話  真理子ちゃん

文字数 865文字

 生まれたとき、泣き声を上げず看護師さんがパチパチと叩いても反応がなかった。慌てた病院のスタッフが酸素吸入器を持ってきてやっと呼吸を開始したと母から聞いたことがある。その不気味な静けさがとても長く感じられたと。そのせいか、私は少し発達が遅い子供だったという。

 同級生に比べると動きも遅く、会話のスピードもゆっくりだったので、仲間はずれにされることが多かった。
 幼い子の中にも序列は存在していた。リーダー格の女の子に目を付けられた私は、いつも騙されたり、無視されたり、さんざんだった。当時はわかっていなかったから、耐えられた。今の自分では耐えがたいと思う。

 ある日、石を投げられて運悪く左目にヒット。私の目は内出血した。父は激怒し、烈火の如く相手の家に次々と怒鳴り込んで行った。このときの父は、私のことが心配だったというより、自分の子供がそういった目にあったのが許せないというていだった。だからそれで気持ちが落ち着くことはなかった。
 母と弟の方が冷やしてくれたり心配してくれた様子が心に残っている。自分の沽券やプライドに固執した行動というのは幼心に醜く感じてしまった。

 しかし、年長の夏、転機は訪れる。リーダーが引越し№2の真理子(まりこ)ちゃんが繰り上がり、リーダーになったのだ。

 真理子ちゃんは振り返ると、とても大人びた子だった。私への弱いものいじめも止めさせて、女子グループがみんな仲良くできるようにしていた。
 友達はいなかったが卒園式のとき『思い出のアルバム』と『ありがとうさよなら』を歌いながら、私は恥ずかしいくらい泣いた。
 毎日通った教室、優しく慰めてくれた園内の植物。
 友達にはなれなかったけれど、顔はよく見知った同級生との別れがとても辛かったのだ。そのようすをみた母は
「この子は感受性が強い子なのかもしれない」
 と思ったそうだ。

  鳥取県では、大篠津小学校に入学。各学年一クラスしかない小さな田舎の学校であった。
  相変わらずマイペースな私は対人関係で躓き続け、父の転勤でその夏に愛知県の藤棚小学校に転入することになった。




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