第7話 奇跡 

文字数 699文字

 私の閉じた心は少しずつ他人の心に興味を持つようになっていった。さまざまな出会いが導いた、とても大きな変化だった。自分とは違うものが存在していて、友だち、先生、家族にだって、感情があるということをようやく実感したのだと思う。当時は幼かったので、単純に好きな人を少しでも理解し、仲良くなりたいと願っていた。

 他人に関心を持てば、悪口の一つ一つに傷つくことも多くなった。 同時に少しずつ、人の会話の呼吸についていこうとするようにもなった。
 変わっていく私。それでも気になることもある。
「醜い姿だから、仲間はずれにされたのではないか」
 と言う疑問は解決しておらず苦しめられた。南君にも気持ち悪いと思われているのではないか? それを考え出すと夜眠れなくなった。彼が優しければ優しいほど、心の中では気分悪くしていないかが気がかりだった。
 そんなとき担任の代わりに来てくださった光彦先生の『人間の目はどうして二つあるか?』
という質問に救われたのだ。
「一つしか目がなかったら怖いからです」
 答える私に、
「みんなが一つだったらそれが普通になるぞ」
 笑って教えてくれた。

 私がこだわっている容姿の問題の答えはその程度のことなのだ。古典的で現代風ではないけれど、毎日鏡でみる自分の顔を嫌いだと思ったことはない。きっとそれなら大丈夫だと、不安が薄れた。気持ち悪くみえるなら、その子にとっては真実だが、それは私の答えではない。だって、最近自分が嫌いでなくなってきた。
 今思えば、光彦先生をはじめ小学校の先生は、私がクラスで浮いていて普通の生徒とは違うことを知っていて、目配りしていてくれていた。先生はやっぱり先生であった。








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