第4話  友人

文字数 1,012文字

 毎日『気持ち悪い』と言われていると、だんだん『自分は気持ち悪く、いないほうがいいのだ』と感じることが多くなってきた。
 また当時リビングに私が座っているだけで、仕事が終わって帰宅した父に鬱陶しいとか、ぼさっとするなとキツイ態度で怒鳴られることも多くあった。時には叩かれたり、蹴られることもあった。なぜ父からそんな仕打ちを受けるのか見当がつかず、ただ悲しかったことを覚えている。
 母は通知表の連絡欄によって、私がいじめられていること、学力・生活共に問題が山積していることを知ることになる。
 勉強はできなかったし、集団に合わせて行動することも苦手だった。給食を時間内に食べたり忘れ物をしないこと。遅刻しないで学校に登校するのもとても難しいことだった。学習机の上は教科書やノートが乱雑に散らかっていて、宿題をするにも手間取った。

 母は育児書を読んだり、小児科に連れていったり、それなりに私と向き合ってくれた。たくさんの本を与え、通信添削の講座などもとらせた。
 残念ながら私にとって、それらは意味を持たず、母がどれだけ娘のことで悩んでいるかも全く感じとれなかった。
  クラスに馴染めず、話相手にも不自由していた私を励ましてくれたのは、校庭の隅っこに咲くタンポポだったり、小川の輝く湖面であった。
  何かを美しいと思うことが、当時の私を救ってくれた。その中には音楽も含まれていた。それらは特別な友人になった。

 最初はわからなかったが、私のことをクラス全員が仲間はずれにしていたわけではなかった。興味を持って付き合ってくれた、きとくな同級生もいた。女子では美人双子姉妹の美樹(みき)ちゃんと有紀(ゆき)ちゃん。クラスでは取り巻きがいるくらい勉強も運動も出来てみんなと仲良くできる素敵な人たちだった。
 なぜだかよく自宅に招いてくれた。
「ゆめちゃんは、本が好きなんだね。家にたくさんあるからおいでよ」
 と明るく笑って誘ってくれた顔を今でも覚えている。

 クラスでもちょっと大人びた秀才でピアノが上手だった詩織(しおり)ちゃん。
「守口さんって変わってるよね。でも正直だよね」
 とやっぱりよく遊んでくれた。
 そして詩織ちゃんの家ではよくホロビッツが弾くモーツアルトが流れていた。
 また遊ぶことはなかったけど、仲間はずれには加担しないグループもあった。ネットの普及もなく、まだ自由な時代だったのかもしれない。
 友人たちとの出会いから、大きな贈り物をもらうことになるのだ。









ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み