第6話
文字数 1,892文字
#レクチュール01
私たちはレクチュールで物語を聞いていくことになる。
彼女の語り口は静かで穏やかなものだ。
〈〈 私は「この邸」で暮らしていました。
邸が立っている土地は地理的にも恵まれています。山があり海が見える。町まで出るとそこには駅があり、交通も困ることがありませんでした。緑の中の家で、周りに他の家がないですが、私はそのことで不自由を感じることはありません。むしろ誰の目も気にせずに過ごせるということが好きでした。
地元で「賀上邸」は有名な名家です。父、母、私、妹。仲睦まじくまた全てにおいて恵まれた生活だったのです。それは幸せで温かい家庭でした〉〉
レクチュールと連動して邸の中と「家族の姿」が映しだされる。
先ほど見た「賀上弓華」の姿もある。
大広間では賀上弓華と妹が仲睦まじそうに話している。父親と母親は邸に関わる別の話を二人でしているようだ。少し離れた場所には女中が一人立っている。若い女中は特にすることもなく、少し退屈そうに窓の外の庭を見ている。
確かに、語られたように「幸せな暮らし」のように見えた。
霊一が目の前の光景を見て皮肉を言う。
「ふ、まるで催し物のようだな」
霊一はそう言ってから、考えて言い直す。
「いや「催し物」なんだ」
真面目な表情になって、もう一度言った。
「姉さん。奴に何の狙いがあるのかや、この話がどこまで真実に基づいて語られているのかということは俺たちには分からないが「これは催し物である」という点だけは確かだろう」
「ええ、気をつけておくわ」
「どうやら物語の舞台はこの邸の中のようだ」
霊一は邸の中の人物を見ている。
「この者たちと話せたりするものだろうか?」
霊一は「もしもし」と思い切って彼らに話しかけてみたものの一切反応がない。触れようとしても触れられなかった。
「権限がないゲストのようだ」
それで家人との接触を一時諦めて、邸の中の物に触れてみる。
すると「物は動かすことは出来る」という事実を私たちは確認した。
「奇妙なこと」の中に「規則性を見つけること」は知るべき重要なこと。今のところ「存在や物語に干渉することは出来なさそうだけど、物を動かしたり扉を開け閉めくらいのことは出来る」という具合ね。
二人で階段に向かうとまず目に映るものがある。
「家族の写真か」
階段の壁には家族が描かれたの写真が多くかけられている。写真の人物たちは今、大広間で楽しそうに話している「賀上家」と一致している。
「黒田家はこのような西洋式のことはやらないかな」
「霊一が写真嫌いだからでしょ?」
「親父もね」
「そういうところは似ているわね」
「親父と一緒にするな」と少し不機嫌になるあたり霊一は可愛い。
改めて邸の構造を確認すると、玄関から入ると大広間があり、一階の各部屋と台所へ繋がる扉がある。大広間の近くには階段があって二階へと行ける。
二階の廊下は壁を伝うように存在していて各部屋の扉がある。
邸の中の志向としては「和洋折衷」と言ってもいいのだろう。台所にある食器は日本のものだったり西洋のものだったりとするが、物は良い。初めに見受けた通り「時代として新しいものを好んでいる」みたい。
邸の中「賀上弓華」のレクチュールの続きが聞こえる。
〈〈 父と母は子供たちを愛しています。
また私と妹も両親を愛していました。
父は貿易会社に勤めていて収入も身分の安定していました。時に一年、海外へ出張などしたりしたこともありましたが、邸を出て行く時に涙を浮かべるような情に厚さがあります。少し神経質な一面もあるのですが、それほど家族、子供たちを愛しているのでしょう。中でも妹のことを特に可愛がっていました〉〉
霊一は懐から革の表紙の手帳と鉛筆を取り出した。
「父親は貿易会社勤務で妹を愛している、ね」
霊一は手帳に書き込んだ。
「霊一も軍属を辞めて探偵にでもなったら?」
「探偵にはならないよ。軍属を辞めたら勘当されるだろうよ「何を考えているんだ」って具合に。親父に怒られるなんてごめんだ。俺は黒田家の長男だから。長男としての責任があって、俺はそれをしっかりと果たしていくつもりだ」
私たちの父も祖父も退役軍人だ。
黒田家は、武士の家系だったと聞く。
明治維新後、時の政府軍の隊長だったものが、西南戦争などで活躍したこともあり、その後良い役職を得たという。家の居間には祖父が書いたという「掛け軸」が飾られている。蔵には黒田家の歴史に関わるものが多く眠っていると聞くけれど、面白くなさそうだから私も霊一も特に興味はない。
子供なんてこんなものでいいと私は思っている。
自分の家系の凄さを自慢しても、虎の威を借る狐、みたいでかっこ悪いとも思う。
私たちはレクチュールで物語を聞いていくことになる。
彼女の語り口は静かで穏やかなものだ。
〈〈 私は「この邸」で暮らしていました。
邸が立っている土地は地理的にも恵まれています。山があり海が見える。町まで出るとそこには駅があり、交通も困ることがありませんでした。緑の中の家で、周りに他の家がないですが、私はそのことで不自由を感じることはありません。むしろ誰の目も気にせずに過ごせるということが好きでした。
地元で「賀上邸」は有名な名家です。父、母、私、妹。仲睦まじくまた全てにおいて恵まれた生活だったのです。それは幸せで温かい家庭でした〉〉
レクチュールと連動して邸の中と「家族の姿」が映しだされる。
先ほど見た「賀上弓華」の姿もある。
大広間では賀上弓華と妹が仲睦まじそうに話している。父親と母親は邸に関わる別の話を二人でしているようだ。少し離れた場所には女中が一人立っている。若い女中は特にすることもなく、少し退屈そうに窓の外の庭を見ている。
確かに、語られたように「幸せな暮らし」のように見えた。
霊一が目の前の光景を見て皮肉を言う。
「ふ、まるで催し物のようだな」
霊一はそう言ってから、考えて言い直す。
「いや「催し物」なんだ」
真面目な表情になって、もう一度言った。
「姉さん。奴に何の狙いがあるのかや、この話がどこまで真実に基づいて語られているのかということは俺たちには分からないが「これは催し物である」という点だけは確かだろう」
「ええ、気をつけておくわ」
「どうやら物語の舞台はこの邸の中のようだ」
霊一は邸の中の人物を見ている。
「この者たちと話せたりするものだろうか?」
霊一は「もしもし」と思い切って彼らに話しかけてみたものの一切反応がない。触れようとしても触れられなかった。
「権限がないゲストのようだ」
それで家人との接触を一時諦めて、邸の中の物に触れてみる。
すると「物は動かすことは出来る」という事実を私たちは確認した。
「奇妙なこと」の中に「規則性を見つけること」は知るべき重要なこと。今のところ「存在や物語に干渉することは出来なさそうだけど、物を動かしたり扉を開け閉めくらいのことは出来る」という具合ね。
二人で階段に向かうとまず目に映るものがある。
「家族の写真か」
階段の壁には家族が描かれたの写真が多くかけられている。写真の人物たちは今、大広間で楽しそうに話している「賀上家」と一致している。
「黒田家はこのような西洋式のことはやらないかな」
「霊一が写真嫌いだからでしょ?」
「親父もね」
「そういうところは似ているわね」
「親父と一緒にするな」と少し不機嫌になるあたり霊一は可愛い。
改めて邸の構造を確認すると、玄関から入ると大広間があり、一階の各部屋と台所へ繋がる扉がある。大広間の近くには階段があって二階へと行ける。
二階の廊下は壁を伝うように存在していて各部屋の扉がある。
邸の中の志向としては「和洋折衷」と言ってもいいのだろう。台所にある食器は日本のものだったり西洋のものだったりとするが、物は良い。初めに見受けた通り「時代として新しいものを好んでいる」みたい。
邸の中「賀上弓華」のレクチュールの続きが聞こえる。
〈〈 父と母は子供たちを愛しています。
また私と妹も両親を愛していました。
父は貿易会社に勤めていて収入も身分の安定していました。時に一年、海外へ出張などしたりしたこともありましたが、邸を出て行く時に涙を浮かべるような情に厚さがあります。少し神経質な一面もあるのですが、それほど家族、子供たちを愛しているのでしょう。中でも妹のことを特に可愛がっていました〉〉
霊一は懐から革の表紙の手帳と鉛筆を取り出した。
「父親は貿易会社勤務で妹を愛している、ね」
霊一は手帳に書き込んだ。
「霊一も軍属を辞めて探偵にでもなったら?」
「探偵にはならないよ。軍属を辞めたら勘当されるだろうよ「何を考えているんだ」って具合に。親父に怒られるなんてごめんだ。俺は黒田家の長男だから。長男としての責任があって、俺はそれをしっかりと果たしていくつもりだ」
私たちの父も祖父も退役軍人だ。
黒田家は、武士の家系だったと聞く。
明治維新後、時の政府軍の隊長だったものが、西南戦争などで活躍したこともあり、その後良い役職を得たという。家の居間には祖父が書いたという「掛け軸」が飾られている。蔵には黒田家の歴史に関わるものが多く眠っていると聞くけれど、面白くなさそうだから私も霊一も特に興味はない。
子供なんてこんなものでいいと私は思っている。
自分の家系の凄さを自慢しても、虎の威を借る狐、みたいでかっこ悪いとも思う。