第18話
文字数 1,707文字
#レクチュール13
燃え盛る邸の中で電話が鳴っている。
何故、一体誰から?
流れ的にもおかしい。今まで「レクチュールの内容に沿って状況が展開してきた」この目の前の悪魔が仕掛けている悪意ある流れだ。それなのに今、この悪魔の人形が作ってきた一連の流れを無視するかのように、突然電話が鳴っている。
だけど、今、目の前の状況から抜け出す手がかりは何一つない。
一つだけ確かに分かることは、今は絶体絶命の状況でこのまま何もしなければ「あれ」に呑み込まれてしまうということだけ。それならこの電話を取ってみる方がいいだろう。誰からの、何の電話かも分からないけれど、私は震える手でその電話に出る。
「もしもし」と送話器に向けて話しかける。
受話器から言葉が返ってくる。
その電話主は、今のこの状況で思いもしなかった相手だった。
私は電話主の話す内容を聞くことになる。そして相手がこの通話で私に話す内容は、この状況においていくつかの重要な内容を示していた。
私は冷静さを取り戻していく。
「こちらからもいくつか聞いてもいいかしら?」
私はいくつかの質問を電話主にしようとした。ただ電話の相手は私が聞きたいことを聞こうとすると「私が聞きたいことなど全て分かっていたかのように」先に要点を全て話してしまった。私はその内容を聞き終えた。
「ありがとう、チャオ」
私は静かに作法に則って電話を切った。
その後、目の前のグロテスクな人形を見る。
私は今、目の前の悪魔の前で不敵な笑みを作ってみせる。
邸の中の熱を持たない炎は燃え盛り、邸が崩れ落ちている、もうまもなく邸ごと倒壊するであろう破滅の中に私は立ち、悪魔の人形と対峙する。
「ねえ「あなたは誰」なのかしら? この質問にあなたは答えられる?」
「私の名前は「賀上弓華」惨劇の当事者」
「それは嘘、私は真実を知ってしまった」
人形は私の前で黙っていた。
「今の電話は「霊一からの電話」だったわ。あなたがこの邸の外へと追い出した私の弟のこと。来た時に私と一緒に居たけれど、覚えているかしら? 彼はここを出た後「現実世界の賀上邸」へ向かって、そこで事実を確認したみたい」
私はニヤリと笑う。
「賀上弓華さんは「ご存命」らしいわね?」
それは「負けない」という私の強い意志を籠めた笑みだ。
「弓華さんだけじゃないわ。[l]妹さんも亡くなってなんかいないわ。確かに、帰りが遅くなった冬の日があって心配したこともあったそうだけど「ただの連絡の行き違いで」友人の家に泊まっただけだったらしいわ。父親も母親も、今もご顕在で弓華さんは栄治さんと結婚した後、二人は賀上邸で暮らしている」
私は「あれ」が今まで見せてきたものの全てを否定する。
「あなたが先ほどから語っていたようなことは「現実に一切起こっていない」のよ。今さっきのレクチュールのようなことは、何一つ起こっていない」
悪魔の人形は黙っている。
「もう一度聞くわ、あなたは誰?」
私は言霊を籠めて強く言い放つ。
「お前は「賀上弓華」なんかではない! 汝の真の名は何だ!」
悪霊や悪魔の類は「真名」を聞けば正体が分かる。
答えられなければその力を失う。
「あれ」は黙ってうずくまっていたかと思うと、髪を振り上げて小さく笑い出す。その笑いは次第に大きな声となり、高らかに気味の悪い声で笑い髪を振り回していた。
すると先ほどまで人間の人形の形をしていた「それ」はまるで水溶性の絵の具のように溶け出していく。そして形さえ留めなくなった時に、その不気味な目で私をひと睨みして「Nightmare」と言い残して消えるのだった。
* * * * *
次に私が気付くとそこは誰も居ない真夜中の路地だった。
「活劇レクチュール」などという邸は存在もせず、まるで何事もなかったかのように、私は路地にポツンと立っていた。そこに居た黒猫が「ニャオ」を私を見て夜に鳴いた。私は夜風と空気で「あの魔物を打ち破り現実に戻ってきた」と実感して、緊張の糸が解けて、思わずその場に座り込んだ。
「……今回は流石にもう駄目かもと思った」
私は、擦り寄ってきた黒猫を抱きかかえてしばらくの間、何も考えられずに、誰も居ない夜の東京の路地で漆黒の黒猫を撫でているのだった。
燃え盛る邸の中で電話が鳴っている。
何故、一体誰から?
流れ的にもおかしい。今まで「レクチュールの内容に沿って状況が展開してきた」この目の前の悪魔が仕掛けている悪意ある流れだ。それなのに今、この悪魔の人形が作ってきた一連の流れを無視するかのように、突然電話が鳴っている。
だけど、今、目の前の状況から抜け出す手がかりは何一つない。
一つだけ確かに分かることは、今は絶体絶命の状況でこのまま何もしなければ「あれ」に呑み込まれてしまうということだけ。それならこの電話を取ってみる方がいいだろう。誰からの、何の電話かも分からないけれど、私は震える手でその電話に出る。
「もしもし」と送話器に向けて話しかける。
受話器から言葉が返ってくる。
その電話主は、今のこの状況で思いもしなかった相手だった。
私は電話主の話す内容を聞くことになる。そして相手がこの通話で私に話す内容は、この状況においていくつかの重要な内容を示していた。
私は冷静さを取り戻していく。
「こちらからもいくつか聞いてもいいかしら?」
私はいくつかの質問を電話主にしようとした。ただ電話の相手は私が聞きたいことを聞こうとすると「私が聞きたいことなど全て分かっていたかのように」先に要点を全て話してしまった。私はその内容を聞き終えた。
「ありがとう、チャオ」
私は静かに作法に則って電話を切った。
その後、目の前のグロテスクな人形を見る。
私は今、目の前の悪魔の前で不敵な笑みを作ってみせる。
邸の中の熱を持たない炎は燃え盛り、邸が崩れ落ちている、もうまもなく邸ごと倒壊するであろう破滅の中に私は立ち、悪魔の人形と対峙する。
「ねえ「あなたは誰」なのかしら? この質問にあなたは答えられる?」
「私の名前は「賀上弓華」惨劇の当事者」
「それは嘘、私は真実を知ってしまった」
人形は私の前で黙っていた。
「今の電話は「霊一からの電話」だったわ。あなたがこの邸の外へと追い出した私の弟のこと。来た時に私と一緒に居たけれど、覚えているかしら? 彼はここを出た後「現実世界の賀上邸」へ向かって、そこで事実を確認したみたい」
私はニヤリと笑う。
「賀上弓華さんは「ご存命」らしいわね?」
それは「負けない」という私の強い意志を籠めた笑みだ。
「弓華さんだけじゃないわ。[l]妹さんも亡くなってなんかいないわ。確かに、帰りが遅くなった冬の日があって心配したこともあったそうだけど「ただの連絡の行き違いで」友人の家に泊まっただけだったらしいわ。父親も母親も、今もご顕在で弓華さんは栄治さんと結婚した後、二人は賀上邸で暮らしている」
私は「あれ」が今まで見せてきたものの全てを否定する。
「あなたが先ほどから語っていたようなことは「現実に一切起こっていない」のよ。今さっきのレクチュールのようなことは、何一つ起こっていない」
悪魔の人形は黙っている。
「もう一度聞くわ、あなたは誰?」
私は言霊を籠めて強く言い放つ。
「お前は「賀上弓華」なんかではない! 汝の真の名は何だ!」
悪霊や悪魔の類は「真名」を聞けば正体が分かる。
答えられなければその力を失う。
「あれ」は黙ってうずくまっていたかと思うと、髪を振り上げて小さく笑い出す。その笑いは次第に大きな声となり、高らかに気味の悪い声で笑い髪を振り回していた。
すると先ほどまで人間の人形の形をしていた「それ」はまるで水溶性の絵の具のように溶け出していく。そして形さえ留めなくなった時に、その不気味な目で私をひと睨みして「Nightmare」と言い残して消えるのだった。
* * * * *
次に私が気付くとそこは誰も居ない真夜中の路地だった。
「活劇レクチュール」などという邸は存在もせず、まるで何事もなかったかのように、私は路地にポツンと立っていた。そこに居た黒猫が「ニャオ」を私を見て夜に鳴いた。私は夜風と空気で「あの魔物を打ち破り現実に戻ってきた」と実感して、緊張の糸が解けて、思わずその場に座り込んだ。
「……今回は流石にもう駄目かもと思った」
私は、擦り寄ってきた黒猫を抱きかかえてしばらくの間、何も考えられずに、誰も居ない夜の東京の路地で漆黒の黒猫を撫でているのだった。