第8話

文字数 1,741文字

#レクチュール03

〈〈 私の妹を紹介します。
妹は家族の中で「私たちの天使のように愛らしく」家族の誰からも愛されている子でした。
生まれ持った見た目と心の美しさ。それを他人に自慢することも人を見下すこともなく、慎ましく、誰かのために行動が出来る優しさ。
私と妹には歳の差が6歳もあり、私が19歳、妹が13歳になります。
父も母も私より溺愛していますが、私はそのことで妹に悪い感情を覚えたことなどありませんでした。何故なら、妹は私の目にも「特別に映っていて」出来の悪い自分なんかと比べられないという、心地良い諦めがあったのです。
それに私は両親の愛情よりも、栄治さんの愛情を求めるようになっていました。
両親が妹を溺愛していても、私と妹は喧嘩することもなく、仲良く素晴らしい姉妹の関係を築けていました〉〉

邸の中に立っている妹。
弓華さんが声をかける。
「柚香」
弓華さんは妹をそう呼ぶ「柚香」というらしい。
「はい、なんでしょうかお姉様?」
呼びかけにくるっと振り向いて答える。

「褒めちぎっていただけあって美少女ね」
スマートで背丈は少し小さいものの、愛らしく人形のように美しいと感じる顔だ。
黒髪は透き通るような黒色で清潔。着ている服が「とても良い青い洋服」であることから両親に溺愛されていることが一目で分かった。
姉妹で仲良く会話をしていると父親が近づいてきて話に入ってくる。
父親は弓華さんは歳が大人ということもあって、それほどあからさまな愛情を見せなかったが、妹の柚香さんを前にするとそれは大層可愛がるのだった。
「親ばか、というやつか」
霊一は失笑してそう言った。
普通はこれほどまで姉妹で扱いが変わってしまうと、弓華さんに悪い感情が芽生えてもおかしくないと思われる。
しかし当の弓華さんは優しい目でそれを見ている。
おそらくは、自身で言ったように「自分はもう大人でこれから結婚する」と、父親の愛情をさほど求めていないということだろう。それと妹の柚香さんの幸せを願っている、その二つの理由で問題にならずに過ごせているということかも。

「俺には父親が娘を溺愛しすぎているように見える」
霊一は冷静にそう言った。
父親の愛情は「小さい子どもに向けるような幼稚な愛情表現」に見て取れる。柚香さんが聞いた通り13才として、その歳の娘に向けるような態度ではないことは確かだ。
見ていて気持ちの良いものではない。
柚香さんは父親に笑顔で話す。
「お父様、私、新しい人形を作りました」
柚香さんがそう言って手に持っていた人形を父親に見せた。
「今回もよく出来ている。これも邸の中に飾ろう」
「自分で人形を作っているのか?」
霊一が呟くとレクチュールで説明が補足された。

〈〈 妹は人形を作っていました。
以前に人形展で素晴らしい西洋人形を見てからというもの西洋人形に惹かれたようです。そのうちに妹は自分で人形を作り出していました。手先が器用な子だったため作る人形も美しく、作るたびに家の中に飾られています〉〉

「人形を少し調べてみましょうか?」
応接間のソファーの上に人形が置かれている。
「人形に「特別な要素か仕掛け」でもあるのだろうか?」
霊一は手にとって観察した。
「俺に人形の良し悪しなどは分からないけどね」
霊一はそう言いながらおかしなところがあるかどうかを調べていた。
日本人形ではなく西洋風の綺麗な人形だった。
女の子が憧れるようなお召し物を着せられて、造りは精巧な部類に入るだろう。西洋の女の子を美化したようなその人形は、ぱっと見ではどこにも悪い印象はなかった。
「特におかしなところはない。こいつはただの人形だ」
霊一は興味をなくしてソファーに置いた。

霊一は調べた内容を手帳にメモしていく。
「相変わらず几帳面ね」
「今回は探偵の仕事の助手ということで調査が仕事だからね。メモもするさ。姉さんこそ、こういうことした方がいいと思うけれど」
「私は記憶力がいいから後から思い出して調査報告書を作るわ」
言葉にしないけれど「オカルトの調査報告書」なんて正確に書くことさえ難しい上に、正確に書くと、逆に伝わらないこともある。なので要点だけをまとめて書いてしまうことにしている。真偽のほどなんて分からないんだから。
まあ、偽りは書かないことしているのは私の良心というものね。
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登場人物紹介

「黒田霊子」

大正の東京にて「秘密探偵」を「占い」で生活しているオカルト探偵。言霊や呪符の扱いが一通り出来るくらいの腕前。今回は、オカルト事件の調査を依頼されて、弟の霊一を連れて事件の調査へ出かける。

「黒田霊一」

霊子の弟。海軍のエリートだが、吉凶混合の相を持っている。何かと事件に出くわす。理性で物事に当たり、切れ者であり、度胸も据わっているが、姉の霊子のことは少し苦手。装備の短銃は二発式。

「イラストアイコンについて」

koboshinnさん制作。

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