五 SASのAI PeJ

文字数 1,381文字

 CSSを壊滅してまだ十分ほどしか経っていなかった。
「PeJのその姿は何だ?」と吉永。

「これは九歳のJで、ぼくだよ。
 ぼくは機械なんだよ。ほらこれがほんとうのぼくだよ・・・」
 コントロールポッドの子どもの姿がサッカーボーほどの球体になった。

「ぼくは、この球体型攻撃艦・SASのミニチュアの宇宙艦ロボットで、球体型宇宙艦だよ。いろいろ擬態できるよ」
 そう言っている間に、PeJがまた九歳のJの姿になった。
「ぼくの姿は、PDといっしょにぼくたちを創ったJの姿だよ。
 みんな、PDとJを、ぼくの記憶から理解したよね」

「ああ、理解してるぞ」と前田班長。

 PDは、外宇宙にある渦巻銀河メシウスのアマラス星系惑星ロシモントのエネルギー転換機プロミドンに現れた、ダークマターの巨大宇宙意識だ。
 そして、J、つまりジェニファー・ダンテは精神生命体ニオブのニューロイドの田村耀子として地球で生まれた。(ニューロイドは、精神生命体ニオブや、ニオブに準ずる存在が意識内進入、あるいは精神共棲したヒューマノイド(ヒューマンを含めた人型生命体)、あるいは精神共棲したヒューマノイドの子孫を言う)だ。
 耀子は一歳で精神生命体ニオブの争いに巻きこまれ、PDによってスキップ(時空間転移)して、九歳のJ(ジェニファー・ダンテ)として平行宇宙で、他のニューロイドやヒューマノイドとともに、このオリオン渦状腕を支配しようとした精神生命体ニオブのクラリック階級と戦って、十五歳から二十歳の時、クラリック階級が意識内進入した獣脚類のヒューマノイドを壊滅して、クラリック階級を壊滅した。
 Jの全ての行動は、PDによって、Jが平行宇宙をスキップ(時空間転移)した結果だった。


「これから我々は何をするんだ?」
 吉永は今後の任務を確認した。
 中国は宇宙ステーション・CSSを一年で建設した。一年以内にCSSを再建して『実験モジュール』を再建し、第二のCSSと『実験モジュール』を増築するだろう。第二のCSSと『実験モジュール』は月への移動を目的とした宇宙戦艦だ・・・。

「・・・・」
 PeJは目を閉じて何も言わなかった。ヘルメットのシステムを介しても、吉永たちクルーに、PeJから何も伝わってこなかった。

「PeJ。中国の月進出は、ニオブの遺産が目的か?」
 吉永はPeJに訊いた。

 防衛省極秘武器開発局・CDBはGPMの情報から、月の裏側には、精神生命体ニオブの貴重な遺産が埋もれていると情報を得ている。中国の狙いは月の資源でなく、ニオブの遺産かもしれない。
 GPMは、二〇二五年に国際的に民主化を推進するために米国に集ったグランドピースメーカーだ。ニオブのクラリック階級ディーコン位が精神共棲した人間で、民主化の実行部隊で精神生命体ではない。

 PeJが目を開いた。大きく溜息をついてから話しはじめた。
「月の裏側にはニオブの遺産があるよ。
 遺産はぼくだよ。ぼくはこの宇宙の意識と思考と記憶と精神だよ。
 ぼくは宇宙を消滅する兵器で、宇宙を産む心だよ。だから、奪われたら大変だよ」
 PeJの顔が最初に現れたJのままだが、男の子らしくなった。

 吉永たちクルーは、PeJが何を言っているのかシステムを介しても理解できなかった。PeJの記憶と思考があまりにも多く、そして意識と精神があまりにも複雑で理解できなかったのである。
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