一 国際宇宙ステーション・ISS  

文字数 1,581文字

 二〇三二年、十二月八日、水曜。
 一党独裁権の国家に支配されていた自治区や連邦諸国が独立して大半が民主国家に変ったが、露国は北欧の小国として、中国は万里の長城の北、満州とその北部へ追いやられた。
 独裁政権の残党を称する新たな大統領と書記長が、小国に転じた中国と露国を、ふたたび大国にしようと勢力を拡大しはじめた。手始めは資源確保だった。

 しかし、モスクワ以東のシベリア西部をウクライナに支配された露国の衰退は、旧ソビエトが支配した弱小国家同様に、大木にすがる夏の蝉の如く弱々しかった。
 一方、万万里の長城の北へ追いやられてシベリア東部を支配する中国も、露国と同様だったが、シベリアには天然資源があった。中国はこの資源を使い、これまで続けた宇宙開発を密かに続行した。そして、発展途上国に経済進出していた企業を通じて途上国を支配させ、宇宙進出のために、国外に巨大な租界とも呼べる、第二の中国を建設をはじめていた。


 二〇三三年、十一月十一日、金曜、〇九〇〇時過ぎ。
 霞が関の警察庁警察機構局特捜部指揮官室。
 吉永たちが特捜部指揮官室に集った。本間宗太郎警察庁長官と小関久夫CDB局長もいる。

「次の任務は、宇宙進出する中国の阻止だ。すでに中国は月の裏側を探査し、所有している宇宙ステーションを拡大して、ここを足ががりに月に着陸する気だ。何としても中国の動きを阻止するのだ」
 中国の目的は月の資源だ。しかも貴重なニオブの遺産が埋もれている月を支配しようとしている」

「我々には、宇宙へ飛び立つ手段がない・・・」
 特捜部指揮官の吉永は本間長官の指示に不満だった。

「我が国のロケット技術は優れている。弾頭を搭載すれば大陸間弾道ミサイル・ICBMになる。もちろん有人飛行もすでに行っている。
 この事は国家機密として、これまでも、これからも公表しない」
 本間長官の言葉に、捜査官たちは言葉を無くした。

 本間長官は、ディスプレイに映っている国際宇宙ステーション・ISSの画像をアップした。
「これは、いったい何だ?」と捜査官たち。

「これが、欧州連合・EUと、環太平洋環インド洋連合国・PRIORUNが新たに建設した国際宇宙ステーション・ISSだ。もちろん露国は排除している」
 光の点のような画像が巨大構造物に変った。その姿は国際宇宙ステーション・ISSというより戦艦だ。しかも、もう一種類はジャイロ型だ。


「もしかして」と吉永指揮官。

「そういうことだ。ISSという名は建前に過ぎぬ。静止衛星軌道上に留まっている必要は無い。状況に応じて移動すべきだ」
 本間長官は当然の事だと言いたげだ。

「地球とISSとの移動と連絡は、ロケットなんですか?」と前田班長。
「うむ。ロケットはH2R型。シャトルはSR-71 ブラックバードだ」
 本間長官は険しい表情になった。

「SR-71は ジェット機でしょう?」と特捜班員・山本。
「NASAがロケットエンジンを開発してSR-71に搭載した。大型ジェット機で飛行できる大気圏の高高度までSR-71 を運び、そこからSR-71 が大気圏外へ飛行する。
 我々は、H2R型で直接ISSへ飛び、中国が宇宙ステーション・CSSで開発中の「実験モジュール」と称する艦体を破壊する」と本間長官

「ISSは中国に気づかれないんですか?」と吉永指揮官。
「ISSは特種防御エネルギーフィールドでシールドされてステルス状態だ」
「ISSからどうやってCSSに近づくんですか」と特捜班員・倉科。
「ISSからステルス状態のSR-71で近づき、CSSの原子炉へ隕石を撃ちこむ」
 本間長官はニタリと笑った。

「そういうことなら、ISSを移動して攻撃したらいい。そうすれば、かんたんに片がつく」
 こんな事をどうして考えないのかと吉永は思った。

 小関久夫CDB局長は黙ったままだ。何も話さない。不気味だ。
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