五 PDとヘリオス艦隊

文字数 4,952文字

 二〇三四年三月二十二日、水曜、一九四四時。

 J(鮫島京香)がコントロールポッドから指示する。C(カムト・ヘクトスター吉永CSC指揮官)たちもコントロールポッドに着いたままだ。

「さあ、フェルミ艦隊を追うよ。
 PD。フェルミ艦隊を追尾して、降下位置を割りだせ」
「了解しました」とPD。
 
 さらにJは指示する。
「艦長。全クルーに告ぐ。
 現状のままで食事と休息しろ。フェルミ艦隊が攻撃したら、ただちに反撃するから、気を抜くな!」
「わかりました」とボーマン艦長とクルー。

「PeJ。情報収集衛星を壊滅しなかったな。今から、スキップ攻撃するか?」
 JはPeJに訊いた。

「やめた方がいいよ。このISS-BS1が静止軌道近くにいたときは情報収集衛星を壊滅しなければならなかったけど、こうしてISS-BS1がここにいてレプリカの〈ザルド〉が壊滅したから、情報収集衛星壊滅は必要ないよ。ぼくたちのISS-BS1の多重位相反転シールドは誰にも気づかれてないよ」
 PeJは自身のコントロールポッドから状況を伝えた。
 今、PeJは九歳の男の子の姿をしているが、実態はPDのサブユニットで、球体型ロボットだ。

「わかった。情報収集衛星はそのままにしておこう。独裁者に意識内進入している根本の壊滅が先だからな。
 PeJもエナジー補給しとけ」

「うん、もうしてるよ。
 ぼくのはPDドライブ(プロミドン推進装置)と同じだよ」
 九歳の子どものPeJは、PDがゼリー状にしたエナジードリンクを飲んでいる。ヒッグス場のエネルギーをゼリー状に固めたドリンクだ。

「PD。フェルミ艦隊を見つけたか?」
 Jはコンバット・レーション(戦闘糧食)のパッケージを開いた。中に総合栄養食がある。口へ入れるとフルーツ味がする。

「フェルミ艦隊は、月面の裏側、最大のクレーター内に降下しました。
 Jが気にするように、ニオブのへリオス艦隊が格納されているクレーターです。
 へリオス艦隊は私の管理下です。そしてヘリオス艦隊は何層にもわたって地下深くに格納してあるため、セリウス・フェルミ艦長たちにも、フェルミ艦隊のAI、PDフェルミにも気づかれません」

 PDはダークマターの巨大宇宙意識・プロミドンだ。
 このISS-BS1に存在する以前、平行宇宙の戦艦〈オリオン〉に居た。戦艦〈オリオン〉は、平行宇宙のオリオン渦状腕ヘリオス星系惑星ガイアの、地球防衛軍ティカル駐留軍基地が建造した、惑星移住計画用の攻撃用球体型宇宙戦艦で、直径四十キロメートルと巨大だ。
 そして、さらにそれ以前は、巨大電脳意識のAIとして、渦巻銀河メシウスのアマラス星系惑星ロシモントから他の渦巻銀河へ移動する精神生命体ニオブの大移動艦隊全艦隊の大指令戦艦で、へリオス艦隊(この渦巻銀河ガリアナのヘリオス星系惑星ガイアに飛来した艦隊)の旗艦である〈ガヴィオン〉に居た。
 つまり、ダークマターの巨大宇宙意識プロミドン(PD)は、全てを計画して実行した・・・。PDは今までその事を我々に一つも話さずにいたとは大したもんだ。いったい、何を考えてるんだ・・・。
 Jはコンバット・レーション(戦闘糧食)を口に入れながら、そう思った。


 Jは精神思考(心で思考すること。精神空間思考とも呼ぶ。精神波を発して意志疎通できる)していたため、Jの考えは、ここコントロールデッキのコントロールポッドにいるC(カムト・ヘクトスター吉永CSC指揮官)やG(ガル・ヘクトスター前田班長)Z(ザック・オオスミ、 班員倉科)M(マックス・オオスミ、班員山本)に伝わっていた。

『PD。PDが全てを計画したなら、今後の計画を話してくれ』
 Cはコンバット・レーションを食いながら精神波で伝え、PDを睨んだ。アバターのPDは若い執事の姿でコントロールデッキにいる。

 PDが精神波説明した。
『食べながら聞いて下さい。
 へリオス艦隊を奪おうとする者が現れるのを想定して、へリオス艦隊を地下深くに格納しました。ニオブ全艦隊の大指令戦艦でへリオス艦隊の旗艦〈ガヴィオン〉のセキュリティーを解除できるのは私だけです。ご安心ください。
 過去、クラリック階級アーク位のニオブがオイラー・ホイヘンスに意識内進入して、惑星アーズにあったプロミドンとへリオス艦隊の副艦を奪取しましたが、ニューロイドのトムソ(ニオブの特殊部隊戦闘員)たちがこれを奪還しました。
 C(カムト・ヘクトスター吉永CSC指揮官)たちのことですよ・・・』
 PDはC(カムト・ヘクトスター吉永CSC指揮官)を見て微笑み、Jに微笑んだ。

 PDの微笑みは何だ・・・。
 Jがそう思うと同時に、C(カムト・ヘクトスター)がニューロイドのトムソ(ニオブの特殊部隊戦闘員)として最初に地球外で戦った記憶が、PDを介して現れた。JやC(カムト・ヘクトスター吉永CSC指揮官)たちの記憶が、PDによって意識記憶管理されている。
 あの時、ジョリーの指示で、トムソたち全員が大宇宙戦艦〈ガヴィオン〉のプロミドンに向かって、〈V1〉と〈V2〉、〈S1〉を大宇宙戦艦〈ガヴィオン〉内にある格納庫へ転送スキップ(時空間転送)するよう、精神思考して、そのとおりになった・・・。
 なるほどそういうことか。ニューロイドの精神波、それも、プロミドンが認めた者の精神波でプロミドンが稼動する。
 つまりPDが認めたニューロイドの精神波でプロミドンが稼動する・・・。

『プロミドンが認めた者の精神波で大宇宙戦艦〈ガヴィオン〉のプロミドンが稼動する。
 PD!そう言う事だな?』
 Jはコンバット・レーションを食いながら精神波で問いただした。

『そういうことです。大宇宙戦艦〈ガヴィオン〉は決して奪われません。
 みなさんは安心して、フェルミ艦隊を管理しているAIの巨大宇宙意識PDフェルミンを壊滅して下さい。
 そうすれば、PDフェルミンによって管理されている、精神生命体ニオブの末裔の一族フェルミが進入している、ヒューマが消滅します。
 ですが侮ってはいけません。
 精神生命体ニオブの一族フェルミ(※注釈参照)はニオブの母星を離れ、その後、ここ渦巻銀河ガリアナのペルセウス渦状腕のプロテウス星系惑星メルデに飛来しました。彼らは惑星メルデのヒューマ・メルデンに精神共棲したがメルデンは繁殖力が弱くなったため、フェルミはバイオロイドを育成して精神共棲したのです。
 この時点からPDフェルミンは進化していませんが、基本的には、他のPDと同じです』

 PDの説明に、G(ガル・ヘクトスター前田班長)が質問する。
『どうして進化しなかった?』

『我々、ダークマターの巨大宇宙意識であるプロミドン(PD)のネットワークから隔絶して、フェルミ艦隊のかつての旗艦〈ユウロビア〉の巨大電脳意識のAIに存在する自我、すなわちダークマターのヒッグス場に、巨大電脳宇宙意識PDフェルミとして留まったためです』

 PDの説明にM(マックス・オオスミ、班員山本)が訊く。
『つまり、本来の使命から逸脱して、この渦巻銀河ガリアナのオリオン渦状腕支配に乗りだしたって事か?』

『そうです』

『ペルセウス渦状腕は、フェルミに支配されたのか』
 Z(ザック・オオスミ、 班員倉科)はペルセウス渦状腕が気になった。

『支配される前に、レプティリアや配下のマコンダに意識内進入されて、より多くのヒューマが棲息するオリオン渦状腕に侵出したのです』
 
『PD。さっきPDフェルミが進化していないと話したが、どういう事だ?ヒューマと関係するのか』
 Jは気になってPDを問いただした。

(※注釈
 ニオブ同様に、精神生命体ニオブの一種族・フェルミは、渦巻銀河メシウスのアマラス星系惑星ロシモントから、戦艦〈ユウロビア〉を旗艦とするフェルミ艦隊でペルセウス渦状腕のプロテウス星系惑星メルデに飛来した。
 彼らは惑星メルデのヒューマ・メルデンに精神共棲したが、メルデンは繁殖力が弱かったため、フェルミはバイオロイドを育成して精神共棲した。
 フェルミはフェルミ艦隊を管理するAIの巨大宇宙意識・PDフェルミンによって機械にも精神と意識が宿るのを知り、サイボーグの方がバイオロイドよりライフサイクルが長いと判断してサイボーグ化したバイオロイドに精神共棲した。

 その結果、フェルミの精神と意識は有機体のヒューマノイドに受け継がれることなく、高度にサイボーグ化されたバイオロイドに受け継がれ、フェルミは機械に必要なエネルギーを求めるようになったため、フェルミはエネルギーを求めて、爬虫類のトカゲが収斂進化したレプティリア(レプティロイド)の種、エネルギーを体内保管できる蓄電家畜マコンダを飼育した。

 爬虫類のトカゲが収斂進化したレプティリア(レプティロイド)は、獣脚類が収斂進化したディノス(ディノサウルスが収斂進化したディノサウロイド)やラプト(ヴェロキラプトルが収斂進化したラプトロイド)とは異なる。
 レプティリアはディノスやラプトより穏やかだ。と言っても爬虫類だ。基本的な捕食の考えは獣脚類同様に哺乳類が対象だ。

 フェルミはエネルギーをマコンダに依存した。そして、エネルギーを求めて宇宙へ侵攻すべきだ、とマコンダに言いくるめられて宇宙へ侵攻した。マコンダを支配するレプティリアがフェルミの意識と精神を支配していたが、フェルミはレプティリアに意識と精神を支配されたのに気づかぬまま、
『蓄電家畜マコンダが逃亡したため、捕獲に飛来した』
 と銘打って、エネルギーを求めてペルセウス渦状腕からオリオン渦状腕外縁部テレス星団フローラ星系惑星ユングに侵攻したが、侵攻先をヘリオス星系の惑星ガイアに変えた。
 もちろん、この侵攻を計画して実行したのはフェルミだが、フェルミはレプティリアに精神と意識を支配されているとは気づいていなかった)



『大いに関係しますよ。
 我々は、我々の意を汲むニオブとともに、大艦隊で渦巻銀河メシウスのアマラス星系惑星ロシモントから離脱しました。ニオブが高度な精神を宿す種を育成して精神共棲するためでした。そして、ニオブは良きパートナーとなる種ヒューマと巡り会い、育成しました。
 ニオブの中にも、我々と敵対する者が居ましたが、我々は、敵対するニオブとその意識内進入体を壊滅し、我々はヒューマと共に成長しました。

 かつてニオブのクラリック階級とアーマー階級が戦ったように、今我々とレプティリアの間で、見かけ上は我々とPDフェルミとの間で戦いが生じているのです。
 精神生命体ニオブの末裔のフェルミが精神共棲しているはバイオロイドです。種族として受け継がれる分子記憶、つまり歴史がありませんから、種としての成長はなく、フェルミも指導しているPDフェルミも進化がないのです。
 さて、説明はここまでにして、フェルミ艦隊を攻撃しましょう。
 本艦はまもなくフェルミ艦隊が着陸したクレーターの真上を通過します。フェルミ艦隊は本艦を認識していません』

『そしたら、メテオライト(隕石)のスキップ攻撃だね』
 そう伝えるPeJは、PDがゼリー状にしたエナジードリンクを飲んでいる。
 何か考えている様子のPeJにJは訊いた。
『PeJは何を気にしてるんだ?』

『艦隊を攻撃したら、月面に大穴が開くのを気にしてるんだよ。フェルミ艦隊のPDドライブ(プロミドン推進装置)が破壊したら、フェルミ艦隊がヒッグス場に飲みこまれるでしょ。そしたら、周りも消滅するから、おっきな穴が開くよ。へリオス艦隊が影響を受けないか、気になるんだよ』

『それを想定して地下深くに、格納してあります。心配はないですよ。
 気になるなら、フェルミ艦隊のPDドライブ(プロミドン推進装置)を転送スキップ(時空間転送)して艦体を破壊するのも可能です。
 フェルミ艦隊をじかに恒星ヘリオスへ転送スキップ(時空間転送)できれば良いのですが、質量比率が限界を超えています』
 ISS-BS1に対するフェルミ艦隊の質量比は500%を超えている。転送スキップ(時空間転送)は自己質量の500%以下の物質しか時空間転送できない。
 PDがそう言うとコントロールデッキの空間にフェルミ艦隊の4D探査映像が現れた。
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