十五 祝いの打上げミサイル

文字数 1,518文字

 露国と中国の隣国侵略と領海侵攻の横暴が続いた。
 表向き、EUと環太平洋環インド洋連合国・PRIORUNは、これら国家の横暴を、経済的制裁という抑止に留めたまま、侵略された国家に軍事支援と経済支援した。つまり、侵略された国家を使って代理戦争を続けた。


 二〇三二年、十一月二日、火曜、〇九〇〇時過ぎ。
 警察庁警察機構局特捜部はハッカー集団を偽り、民主主義世界のハッカーたちに、有能なハッカーしか浸入できない特種ネットワークで呼びかけた。

「一党独裁政権と称する独裁国家の横暴を食止めたい。我こそはと思う志ある者は、我らの元に集え!」
 集ったハッカーたちは、他国のスパイか否か徹底的に調査された。

「君たちの任務は、地球の民主主義を守り、民主国家を救って地球に民主主義の惑星にする事だ」
 ハッカー集団のボスを騙る、防衛省防衛局対潜入工作員捜査部の東条一等陸尉の指示で、集ったハッカーたちは、朝鮮のコンピューターネットワークに浸入した。

 彼らはミサイル発射をコントロールするコンピューターシステムをハッキングして、誘導システムを書き換えた。
 朝鮮はもちろん、民主主義世界のみならず、中国も露国もこれらのハッキングに全く気づかなかった。


 二〇三二年、十一月十二日、金曜、〇九〇〇時過ぎ。
 中国で全国統一党大会が開かれた。首都の大会会場に、書記長をはじめとする全国の中国共産党幹部が集った。
 書記長は、第二次大戦で分離した台湾は我が国家のものであり、併合する、と演説した。

 一方、露国では、第二次大戦を勝利した祝典が開かれた。
 大統領は、党員たちが集った会場で、隣国への軍事侵攻を正当化する演説をしていた。

 朝鮮の国家元首は、これら二つの国の主張に賛同し、中国の全国統一党大会と、露国の第二次大戦を勝利祝典を祝して、日本の東側の太平洋上と、フィリピン北側の東シナ海へ、核弾頭や爆薬弾頭に代る、チタン合金の弾頭を積んだ大陸間弾道ミサイル・ICBM を数十発を放った。

 発射されたICBMは放物線を描いて飛翔し、いったん大気圏外へ出て、大気圏内に再突入する。核弾頭や爆薬弾頭を搭載していなくても、理屈は神の杖と同じだ。


 二十発のICBM は中国の首都の全国統一党大会会場と政府へ飛翔した。
 二十発のICBMが露国の祝典会場と政府へ飛翔した。
 残りの銃数発のICBMが、朝鮮政府と国家元首の居住地に飛翔した。

 朝鮮の国家元首は慌てた。
「ミサイルを自爆させろ!」
「コントロールできません!」
 大陸間弾道ミサイル・ICBMは、静止軌道から落下するだけの神の杖とは異なり、その速度はマッハ二十を超える。超音速のICBMは迎撃されること無く、正確に、朝鮮政府と国家元首の居住地と、中国と露国の二国の目標地点へ飛翔した。

 朝鮮のICBMが落下に転じると同時に環太平洋環インド洋連合国・PRIORUNの宇宙ステーションから神の杖が放たれた。
 ICBMと神の杖で、朝鮮政府と国家元首の居住地を中心に、半径二十キロ圏内がクレーターに変った。
 中国全国統一党大会会場と政府を中心に、半径三十キロ圏内がクレーターに変った。
 露国の祝典会場と政府も、半径三十キロ圏内がクレーターに変った。

 一報を受けた中国反政府組織は、いっせいに蜂起した。
 露国のボスコノフは隣国国境から、解法軍をモスクワへ侵攻させた。


 これで、一党独裁政権の国家が民主国家に移行したかと思えたのは、ほんの一時だった。前政権の残党と称する新たな大統領と書記長が、小国に転じた中国と露国を、ふたたび大国にしようと、その機会を狙っていた。

(ⅩⅡ Another Universe 太陽系の侵略者① サイボーグ 了)
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