2019.1.19_シーン導入1_よゐ

文字数 1,044文字

あやめとよゐ【グローバルインジゲーター(GI=2^5)】が保護される。

視点#店長

風はまだ師走のことを忘れ切れていないようだった。吹く木枯らしが頬を引き締める。三ヶ日が落ち着いて、スーパーは飾り縄や門松を仕舞い日常品に変わる。そうして昨日は遅くまで日曜日の特売の広告の支度をしていたから、今になって気が抜けたのだろう。大きなあくびして私は駐車所に車を停めてスーパーに赴くのだ。
午前8時。すでに平日となった今日は日常になっていたから、はあ〜と息を手に、擦り暖めながら冷たくなったシャッターにビクつきながらもガラガラと開ける、と同時にすぐに店の中の異変に気付いた。説明の難しい違和感だ。だが感じとった何かの違和感は十部に警戒をさせて、シャッターを開けるのに使う鉄棒をもって、奥へと向かった。奥の事務室だ。そこに煌々と灯る。いよいよ、もう片手に持ったスマホの指が緊急のダイヤルに向かう。扉が少し開いていて、奥に気配がある。ゆっくりと近づけばさらに濃くなる。息を殺してその隙間から瞳を覗かせる。一瞬肝を冷やした、そこにいたのは人の形をした獣だったから。

声にならない悲鳴を抑えて、何とか義務感とか責任感から、向き直した。蛍光灯の無機質な白色でパイプ椅子と折り畳みのテーブルとロッカーだけがある。その事務室の一角に獣はいた。しかし改めて見直せば少女だった。その少女が睨んだからそう感じたのだろう。

謎の少女:「お主はここの店主か?」

そう臆することのない尊大な力強いセリフ。それでハッとなったことで遅まきながら、そこにいるもう1人の少女の存在に目が行った。ひどく憔悴しきっている。腕の中でせわしなくも弱々しく動く呼吸。

謎の少女:「お主に頼みがある。妾は盗人ではない。お主にも何ら危害を加えるつもりはない。あやめを救ってほしいのじゃ」

家出か何か?そう思えても仕方がないことだが、そこにある心からの懇願に、私は考えるよりも先に救急の手順をたどる。エアコンを付けて着ていたジャケットを脱いで被せた。熱を測り経口補水液を店先から持ってきて唇につけてなめさせる。理由や正体を探るよりも衰弱している彼女のことを想うと、救急車を呼んだ。きっとそうしたのは、自身に同じ頃の子がいたからだろう。
そこでやっと落ち着いたころに救急車のサイレンがくるのが分かった。店長はそばで裾を引く無事なほうの少女を見た。

謎の少女:「すまぬ」

師走が終わり、平成が終わり、新しい元号が始まる前のことだった。
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