本編19_2019.3.5

文字数 9,538文字

VSゼロ戦の亡霊
2019.03.05_(083)(019)(38=11,9,12)

視点#深津

深津:「お前の倅はもう死んでいたが、その孫がいたぞ、大野(おおの)!・・これが百貫にも肥えていた奴でな!?全くお前はガリガリだったっていうのに、不思議なもんだ!」
深津:「これは・・お前の故郷の酒だ。飲め」

朝方のここは、途方もなく静かだな。何も聞こえない。昇ろうとする朝日で、世界は色付いていくのにここは白黒だったんだ。
大野はいい奴だったよ。酒が入ればいつも裸で阿波踊りをする、豪快で気が利くし、手が早いのが傷だが、いつも女房の話をしていた。だからあいつにはこういう話と酒を盛ってやる。あの大戦で俺たちは・・今や戦神になったと笑ってやった。
大野だけじゃない。馬渕(まぶち)、田安(たやす)、宇藤(うとう)に北村(きたむら)少尉。全員の名前がここにあって、めでたく神になったらしい。もちろん俺もだ。
靖國で神となった戦友に、俺ができることはたかが知れている。今という時代の情報を拾ってはここで語る。俺にはそれがげん担ぎになっていた。それらを繰り返して、俺は1人の退屈を埋めていたのだろう。
情報を集めれば集めるほど、ここが俺達のいたあの大日本帝国だったことを知らしめて来る。
そうなると、とたんに現実的な俺が現れて、こう言うんだ。『お前は何者だ?』と。その度にひどく孤独の中を俺はいるのだと思う。
孤独というのは、いくつか種類がある。
ゼロ戦というのは、1度飛び立てば10時間くらいは給油もなく飛び続ける。その間、俺は1人の旅だ。夜間飛行ともなれば、信じられるのは高度計の針。それだけが俺の命を支える。そういう本当の孤独もあるが、この時に俺が感じていたのは、それとは別物だった。だがそのどれも根本は同じ。要は1人を想像してしまう時だ。それはきっとどんな偉人にも少年少女にも、耐えられない死の窮屈さだ。
孤独とは何だろうな?俺にはよく分からないが、孤独じゃない時があったことを思い出させるから、これは感情の様相だ。盲に暗闇の恐怖は伝わらないだろ?それと同じだよ。孤独は人間をしているから、想像してしまうんだ。俺は人なのか知らないけどな。
そう考えてしまうのは・・最近はめっきりと東京ゲンガーをよく消失するようになったからだ。だからこそあいつら(東京防衛)の技能が必要な理由だが、俺がもう薄々と感じている事実がある。奴の遊戯は終わろうとしている。奴の薄気味悪い感情はほとんど希薄になっていっている。喜ばしいことだが、だが違う。消滅しているのではなく、その気配の数がより広範囲に、濃く漂う。希薄になったのは、なくなったからじゃなく、あまりに混雑してノイズのような感じだからだ。これまでの暇つぶしの形は潜めて、純粋な暴力がチラチラと垣間見せる。それがどんな意味があるのか分からない。だが俺と奴との都合はもう終わる。そう思えるのは不思議だが、そうだと心は言っている。奴の限界が近いのか、それとも別の変態か。どっちにせよ残された時間はあと僅か。東京ゲンガーもだが、街の雰囲気も今日は違う。東京防衛かどうかはその時の俺には分かる由もないが、人は完全に辺りから払われていたのだろう。戒厳令下の、静寂だ。俺には懐かしい空気だったから、直ぐにそうだと理解したよ。これが決戦だと。俺はもう準備を終えようと盃を飲み干した。
せっせと友に酌むのは、俺が俺であった形を確認するため。俺が生きた時代を象るためだ。

@@@

よゐ:「お前が、東京ゲンガーか?」
深津:「あ?誰だ?」

目の前にいる幼児にそう尋ねられた。それは人に見えたがすぐに違うと理解。人にしては、異常な気配と怒気がありありと俺に向けられている。こいつは限りなく俺に近いが、もっと意味不明な者だと理解した。それがキラキラと白髪をなびかせて、朝焼けの中に俺を見つめて立ち塞がっている。
俺が気になったのはもう1つ、その腕に抱えられた小動物だ。それを少女は傍に置くと、その大きめのネズミみたいな生き物も俺をジッと見つめて動かない。

謎のネズミのような生き物:「・・・」
深津:「・・・」
謎のネズミのような生き物:「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ー!!!」
深津:「・・何これ?」
よゐ:「この生き物はビーバーというそうじゃ。かわいいじゃろ?乃木がくれたんじゃ!」

深津:「・・お前は何だ?人に見えるが、俺と同じ・・死人か?」
謎のネズミのような生き物(ビーバー):「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ー!!!」
よゐ:「妾のことは何とでも呼ぶがよい。お前のような下賤には如何様に呼ばれても、思うところもない。死してやっと、少しは溜飲が下る」
深津:「よっぽど嫌われているんだな、あいつ。まあ、言い訳に聞こえると思うが、俺は東京ゲンガーとは別物だ」
よゐ:「戯言じゃが・・聞いてやろう」
深津:「俺の名前は深津。お前の言う東京ゲンガーとは根本は同じだが、別の存在だ」
ビーバー:「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ー!!!」

よゐ:「少し手合わせ願おうか?そうすれば少しは互いを理解できるじゃろ?」
深津:「そうか。なあ、お前はなぜ俺の前に姿を表す?」
よゐ:「妾は人を導く者じゃ。文句があれば出向いてやる。逃げも隠れもせぬさ。お前とは違う」
深津:「ふふふ。面白いな、やっぱり。文句があれば面と向かって言う、か。お前とはもっと早く会いたかったぜ。・・なあ名前を教えてくれないか?」
ビーバー:「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ー!!!」
深津:「うるさいな!?何だ、その生き物は?!」

よゐ:「・・倉持 よゐ、妾の名前じゃ。それとそのビーバーは妾の『ぺっと』じゃ!暴言は許さぬ」
深津:「『よゐ』ね・・。俺を始末したいんだろ?じゃあやることは決まっているな!俺から行くぞ!」

理解した。よゐには、邪気はない。だから仇を前にしても正々堂々と恨みを口に出す。見た目以上に幼く稚拙な考え方だが・・どうして、全く筋が通っている。
俺はピクリとも動かないよゐの前で地中から飛び出したゼロ戦に持ち上げられるようにして離陸。よく喜劇団がやる軽技みたいな曲芸だが、俺は割と気に入っている。こうして戦火は切って落とされた。よゐの宣戦布告を受理したということだ。

@@@#久慈

ビーバー:「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ー!!!」

叫びたいのは俺の方だ。
頭を抱えて項垂れるも、今やもう事が治まるのを待つ他ない。
よゐの暴走は警戒していたはずだったが、ここまで奔放であるとは、認識外だった。
単身で深津に接触を図る。ビーバーを与えて懐柔できたと思っていたが、見当違いだった。
この時の俺が1番気にしていたのは、よゐが殺されることもだが、深津を退治してしまうこともあった。作戦のほとんどは、深津を無力化しての捕縛のために組まれている。
というのも、博士も東京防衛も、深津は東京ゲンガーとは異なるという見解で一致している。しかし、全く同じオーラを発していることから、完全に無関係じゃない。むしろ現段階で考えられる最も東京ゲンガー攻略において大事なファクターだ。その情報を得ることができれば、もしくは協力を得ることができれば、格段に前進する。
そのための作戦なのだ。討伐できればいいだけの話じゃない。それをよゐに説明しても、どこ吹く風であった。あれは前触れだったか。
何回目かのビーバーの遠吠えが聞こえた時、あのエンジン音が唸りを上げる。俺は顔を上げて様子を見た。よゐはそのままに地中から飛び出たゼロ戦で深津は舞い上がって一瞬で見えなくなる。そう、2人は手出しすることなく別れたのだ。
こんなしょうもないことで、ちょっと嬉しくなったのが悲しい。

ヨシトモ:「帰って来たよ。よゐちゃんが」
久慈:「ああ、俺は疲れたよ。先に戻るから、何とか処理しておいて」
ヨシトモ:「・・無理だよ。よゐちゃん、僕のことを召使いが何かと勘違いしているから。言うことを聞いてくれるわけがない」
久慈:「これがこの国の明暗を分かつ戦いか・・」
ヨシトモ:「あきれるなよ。僕だって、かなりドキドキしたんだから。でも、ま!上手く切り抜けたし、ここからは作戦通りに行けるよ!?」
久慈:「・・やっと作戦のスタート位置にやっと着いただけたぞ?喜んでいられるか」

そうは言っても、ここから作戦通りにはなる。
元々、東京防衛が入念に準備していたものだから、俺たちの参加は補助でしかない。
・・それでも俺は緊張していた。もちろん、俺も当事者だ。それは揺るがないし、東京ゲンガーを倒す事に俺は命も懸ける。それが少し和らいだ気がした。肩の荷が少し楽になった気がしたよ。馬鹿みたいだが、俺は先の敗北を根底に引きずっていたんだな。変に緊張感を持つよりは身体も頭も働いていたんだろうな。よゐのおかげだなんて口が裂けても言えないが。
・・とにかく!俺は、自分でも驚くぐらい、いいパフォーマンス状態だったんだ。

よゐ:「見たか!?あやつめ、あんな所に戦闘機を隠し持っておったぞ!」

『パシン(頭を叩く音)』

よゐ:「痛っ。・・何をするんじゃ?!久慈!妾をぶつなんて、痴れ者じゃぞ!」
久慈:「ごめんなさいは?」
よゐ:「・・ん?なぜ妾が謝る?むしろ貴様の方こそ―――」

『パシン(頭を叩く音)』

よゐ:「なっ!1度ならず2度も・・妾を誰と心得ておる!?」
久慈:「いいかよく聞け。俺はお前の従者でもないし、召使いでもない。同じ作戦に同意した兵隊だ。つまり同門で同列だ。お前の独断による行動で、作戦が灰塵に帰すところだったんだ。それを叱責してなぜ悪い?」
よゐ:「それは―――」
久慈:「ごめんなさいは?」
よゐ:「う~~!う~・・!ご、ごめんなさい」
久慈:「よし。じゃあ、本陣に戻るぞ」
ヨシトモ:「すげ~!久慈さん、本当に謝らせたよ!」
久慈:「お前もだ。作戦の指示系統は守れ。何でここにいる?」
ヨシトモ:「うっ、ど正論だね。だけど僕としては、深津を1度確認しておく必要があったからね」
久慈:「・・作戦は理解しているよ。まあ、月並みの言葉だが、頑張れよ」
ヨシトモ:「うん。頑張るよ・・久慈さん達もね。これからどうする?」
久慈:「俺はこのままよゐと共に、奴を目視できる所まで移動する。あそこだ」
ヨシトモ:「東芝ビル・・」
久慈:「そうだ。あそこからなら、東京全体を見渡せる。今なら動くものはない。必ず見つけ出せる」
ヨシトモ:「了解。そっちこそご武運を」

@@@#深津

始まったか。
俺は飛び去りながら、地上にいる人間を数えた。感じる気配はほとんどない。完全な過疎。ここは何もない箱庭の中に、人形の見せ物の如き有り様。
すぐに察するさ。非戦闘員の退避は国防の倫理。どうやら俺を敵と見なして、行軍するのだと。
別に悔しくもないな。俺の憂いはあくまでも、俺個人の望みだから。国が俺を仇敵にしても俺には関係ない。むしろ俺のような亡霊に備え、立ち向かう仕組みが俺には、嬉しく思う。十分にこの国は俺の憂いに応えている。次は俺が答える番だ。
俺がもう1度街を見下ろしたのは、一通りの感想を終えてからだった。最初、やけに増えたカラスかと思ったが、そうじゃない。この上空まで俺のゼロ戦を目掛けている。カラスにしては速くそして高くまで。
で、だんだん白けた輪郭がはっきりとすると、更に奇怪な物だ。
骨董品のような赤い飛行船。俺が教習時代には、すでにおもちゃのような代物だった欧米戦争の時の戦闘機だ。それが3つ隊列を組んで、凄く小さくて小人が操っている!俺は今生で1番に驚いたぜ!?
だが、性能は本物だ。埃を被った展示品じゃない。ニスがきらめくほどに輝く新調品だ。俺の顔は凄くニヤけていたと思う。よく北村少尉に注意された。馬鹿げた事態の時に俺は喜々にしてしまう。悪い癖だが、だから俺は部隊で1番長く生きると田安に笑われたよ。実際そうなった。
そうだな・・戦争で生き残るにはどんな能力が必要だと思う?
技術でも技能でも質実剛健でも臆病者でもない。危険かどうかが分かるかだ。ほとんど直感で表現が難しいが、それを持っているかだ。技術とか性格とかはその後についてくる。だから俺は撃墜されたことはただの1回もない。
あの時は俺のその感覚が言っていた。あれが異常であることもだが、その速度だ。速すぎる。現代の戦闘機ならまだしもゼロ戦に追いつける運動能力を持った機体なんてあり得ない。
だがその速度、楽に追いつかれる。俺は追いつかれるその少し手前、先頭の戦闘機が引き金を引くその間際、俺は、軌道の変更によって弾道から外れて空を切る。
それと同時に霊体に戻り、急旋回。物理法則から解放されたのなら空気抵抗なんてものもなくなる。もっと言えば、この機体は自由に速度を瞬く間に変速でき、慣性もなく停止する。如何に追跡者の俊敏性に優れても、物質であるのなら、超えられない壁だ。俺はその3機の後方で実体に戻る。
中々に腕のいいパイロットだ。もう理解したんだな?陣形を立て直すためにてんでバラバラの方向に梶を切って、フラップが大きく動いているが、この速度だ。その所作で動き出すよりも早く俺の機関銃が火を吹く。相手は小さい。当たってしまえば、まるで紙くず。すれ違いざまの一触で終わりだ。
3機は簡単に爆発して、散っていく。煙が少し尾を引いて残るが、それも長く残らない。

今の動きの仕組み?
そりゃ俺も徹底的に調べたさ。この体については。
俺は霊体と実体を任意で切り替えられる。実体の時はそのままだが、霊体になれば壁抜けだって思いのままだ。そもそも物理的な制限もない。だからさっきのようにその場制動もできるし、それによる反動もない。だが物理的な干渉がないから破壊的特性は実体に戻る必要があるがな。
・・俺にも理由は分からないが、それを利用することにした。慣れれば霊体での操作は単純だ。それは想像の中で行えるものだと思うと分かりやすい。とはいえ、少なからずの練習は必要だった。こんな動きができるようになったのも割と最近だからな。
だが、それを言ったら、あいつら(小人の戦闘機)の方がよっぽど俺よりたちが悪いぜ?

俺が落ちていく炎上する機体を見ていた。目を疑う光景だったよ。
そこに広がるのは、さっきと似たような時代の飛行船がうぞうぞと雲海の上を覆っていた。
俺は溜息を覚えたね。その編隊の群れは一個大隊かそれ以上、かつてあった全ての亡霊がここに集まってきたのかと思えるほどのあらゆる国家が作った船団だ。それが小さいながらも俺を監視するように後方待機でゾロゾロとついてきている。さっきとの違いは、戦闘体制維持のまま待機していることだ。あまりに不気味な静かな進軍。これが俺を見張っている。どうやら俺が挑む相手は巨大な敵だ。この世界そのものだ。俺は世界に歯向かうことになるのか。だが俺は奴らがその圧力差で潰しに来ない理由を推測する。
・・そうか霊体の俺を倒す術はないんだな?そう考えたなら、やるべき行動は1つ。俺は敵の群れに突入する。そうすると、それらはまるで、雑魚の群れだ。ゆらゆらとしながら、俺が近づくと、スッと空洞を作り出し、俺を通すのだ。通り抜ければまた元に戻り、空洞は埋め尽くされていた。そしてそのまま、相変わらずに俺を監視するまとわりつく視線。どうやら俺の予想は正しかった。この船団の目的は俺の監視役で直接な戦闘の意思はないようだ。少しうすら怖く思えたのは、これだけの大軍がただの監視役として、存在していること。雲の下では、さっきまでと同じように街が広がっている。

@@@#中嶋

今日は気温が上がるな。私は街の様子をオフィスビルの一等の会議室で見て考えていた。
巨大なコンピュータがカリカリと一斉に演算をしていて、とても熱気が出ている。私はパイプ机にモニターをいっぱい並べて方々の状況を見ながら、ネットをつなげている。そこに映し出されているのは、ヴィジュアルマッパーによる東京ゲンガーの活性状況、よゐちゃんの能力で呼び出した飛行船団に取り付けられたカメラの映像で深津の動向、部隊の現在地、これだけでも十分に作戦は機能しているし、順調だ。だが、もう1つのモニターには、今回の作成においてある大御所の拠点につながっている。それはこの国の怪異現象に対する警察部隊の1つ。ゼロ室だ。

ナヴ:「全員が作戦位置につきました」
中嶋:「・・そうだな。では次の作戦フェイズに移行する。迎撃パトリックのセーフティキーを解除」
高見沢:「了解・・OK、セーフティキー解除完了」
長谷川:「順調そうですね」
ナヴ:「ええ、最初こそ瓦解の危険がありましたが、今のところ、何も問題ありませんね」
長谷川:「ふふ。手厳しいですね・・ですが、彼女の誘導のおかげでこうして深津を街に引き落とすことに成功しました」
乃木:「何も心配ないさ。よゐが失敗したら、俺が時間を戻すだけだよ」
よし子:「でもよゐちゃんの能力で呼び出しているんでしょ?あれだけの大軍を・・あれらって結局何なの?」
長谷川:「我々もよくは分かっていません。分かっているのはすべて実在した兵器だということです。第2次世界大戦以前までのものに限られていますが・・サイズ以外はどのような科学的調査の結果からも本物であるということです。呼び出せる数や種類については正直分かっていませんでしたが・・ここまでとは」
中嶋:「まさに・・神話の力だな」
よし子:「でもだったら、1人でなんとでもなったんじゃないの?東京ゲンガーもゼロ戦の亡霊も」
高見沢:「それが・・この世界に実在しているのならね・・」
長谷川:「私たちも完全に彼女の能力の底を知らないが・・能力から考えるに、霊的なオブジェクトに対抗する力はないのではないかと思う」
ナヴ:「主流の科学では東京ゲンガーを捕らえる手段も倒す方法もありませんからね。彼女の能力は確かに戦争力を具現化できる。だがそれは対人に特化した力。今回は相手が悪いだろう」
よし子:「物理特化型は特攻型にすこぶる相性が悪いからね~」
高見沢:「ゲームの話だけど、的を射た表現。それが正しい。だから私たちには特攻タイプを攻め落とす力が必要。そのために『汎用型幽体衝撃波(GGI)PAC-3』があるからね」
長谷川:「なにそれ?PAC-3?対空ミサイル?そんなものあるの?」
ナヴ:「それは絶対に他言不要でお願いします。国際法令違反ですので」
長谷川:「・・確か、あなたは国際超常管理会の出身でしたね。ではこれは・・いや、これ以上は止めておきましょう」

中嶋:「これまでの調査から、深津という怪異には2つの性質を持っている。素体とスピリチュアル体だ。この2つを高速でスイッチングできる技術を持っていること、これまでの怪異現象とは完全に一線を期している」
長谷川:「うん。だからこそ、深津はよゐに対抗するためにスピリチュアル体を駆使せざるを得ない。そこを狙うということですね?」
中嶋:「・・深津という人間だったころの資料を見たことはありますかな?」
長谷川:「いえ・・さすがにそこまでは」
中嶋:「戦中のことですので、戦績について特定できるものは見つかりませんでしたが、彼が所属した部隊の履歴は見つかりました。彼が所属していたのは最も苛烈な最前線です。にも関わらず、彼の出動回数は異常な数字です」
長谷川:「それは・・つまり?」
高見沢:「ゲームで言ったらチートレベルのパイロットだったってこと」
中嶋:「敗戦国でなかったら、英雄だった程の勇士です。しかも深津には現代の情報文明に適合しているような節があり、貪欲に情報を入手しているとの報告だ。このことから、想像される人物像は情報戦に長け、柔軟な発想ができると思われる。長引けばこちらが不利。よゐの能力が見破られる前に、短期決戦に持っていきたい」

@@@#深津

俺が制空権を破棄したのは、終わった後でも間違いではないと思っている。俺もこの敵の作戦元帥にしても、街への被害を最小にしたいという思惑は一致している。制空権でちまちまと攻防してみろ。いくら返り討ちにしても無尽蔵な敵の補給能力じゃ、終わらない不毛な争いになる。それが敵の策中であるなら、単独での行動である俺には敵の思惑に従う必要はない。街から遠ざける目的なら猶のこと。このまま拮抗状態になったら、敵に時間を与えてしまう。戦争において、考える時間を与えるというのは最悪だ。だから俺が考えるのは、敵の拠点をたたく。どこかにある指揮拠点をたたく。戦争は将棋と同じだ。雑兵がいくら奪われようとも関係ない。戦争は続く、王将が詰まれるか参りましたと言わせるまで。単騎の俺は空に張り付けられるわけにはいかなかった。地上の王と同じ目線で撃ち抜く。それが俺のやり方だ。

@@@

俺は街の中を雷鳴のように、街を駆け抜けていく。
4~5機の百舌の名を冠したドイツの名機だ。
いくら撃墜してみてもすぐに補填され、攻撃のために近寄ろうものなら、奴らは自爆するつもりか体当たりを試みる。
ラチが開かないので、引き離そうと上に下に時には、摩天楼のその内側に逃げ隠れてみてもすぐに見つけ出し、上空で旋回している。
長い鬼ごっこだよ。だが直に終わる。
この指揮者が何を狙っているかは知らないが、俺には目的があって逃げ続けている。それを悟らせないように追い込まれたフリをして近づいたり離れたりを繰り返して。

これほどの大都会にはそれ相応の人がいる。しかし、今ここは全く場違いなほどに閑静にある。・・だが0人ではない。俺には人の生気と言うのがよくわかるんだ。それを糧にしているから。目ざとく俺はそれを視界に捉えてしまう。普段は賑やかな雑踏が閑静であればなおさら目につく。
どうやら品川宿を中心に何里かの範囲で人は払われて俺を囲んでいる。ここの外は相変わらず、人で溢れていることだ。
そりゃあ、そこに逃げ込めば、あいつらも追っては来られない。だが、それは非戦闘員を巻き込んでしまうだろう?そして仮にこの追跡者が無差別に攻撃したら?事故で巻き込まれたら?
俺は軍人だ。いかなる道理も民間人を巻き込む選択は許されない。
・・それに俺は1人だ。敵はあえて少数でいて、中核はそこにある。虎穴に入らずんば虎子を得まい。

この封鎖された領域で俺は敵の数を数えていた。何十人かいるのだが、そのほとんどが通信兵のようだ。俺を見張り連絡を取り合い、位置を補填しているのだろう。
敵の拠点は、田町の駅にある複合施設のビルヂングの上だ。そう思う根拠はいくらかある。ここが東京ゲンガーの発現した場所であること、点在している人員がそこに近づくにつれて濃くなること、船団がちょうど真上に陣取っていること、何より俺を捕らえるためにそこから発せられる摩訶不思議な電波が俺の意識を向けさせるからだ。きっとそれが俺の居所を捕らえ続けている機関なのだろう。
だが、こうして居場所を顕にしている。それは自信故か?どちらにせよ俺は突っ込むがな。
それと同時に人以外の気配もいくらかある。それもそうか、他陣営の偵察の何人かはいるだろうな。ほとんどが取るに足らない程の謙虚に振る舞っているが、ある1人だけ別格だった。そいつはまるでわざとやっているかのようにギラギラと存在を照りつけている。

それが誰だって?もう分かるだろ?
今日最初に俺に接触してきた幼女、よゐだ。

GGI and BBA refers to


Author: k-cal


Title: SCP-1083-JP -


Source: http://scp-jp.wikidot.com/scp-1083-jp



CC BY-SA 3.0

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