2019.1.19_シーン導入3_長谷川博士と久慈

文字数 1,013文字

視点#長谷川

無機質な廊下には区別のつかない部屋がいくつもある。病院の大部屋を想像するような感じだ。その中の一つに私はいる。広くはないが、これでもラボの中で一番陽当たりのいい席を陣取ったつもりだ。
午後の最初の仕事はメール処理と決めている。それは長く習慣化していることで理由を尋ねられても困る。しかし今日は少しいつもと違う。テープレコーダーで行灯さんとの会話ログを聞きながら受け取ったこの手紙をどうするかで悩んでいたからだ。
ここSSS財団【グローバルインジゲーター(GI=2^0)】は怪異現象について秘密裏に研究している財団だ。なぜ秘密裏かというと単純だ。財団の理念は今の文明の積極的な維持活動であり、そのために異常現象を管理・収容が基本行動である。公にできないものを研究対象としているからだ。そして理念のための手段に正義もない。目標達成のために人的資源の消費も公然と行われている。
その中でもちろん収容対象である行灯さんとの過度な接触は、よろしくないということを私は百も承知の事実だ。自分も長く財団にいる。それでもその手紙を受け取り、今に至っている。手紙の内容もあいまいで、危惧しているある異常性の危機感とだけでは、とても調査部に依頼できる代物じゃない。渡された手紙には、新宿近くの廃ビルの大まかな住所があり、しかし改めて見ても霊的な感覚のない自身ではまるで解決はない。少なくともやはりその方面の研究室に渡した方がいいのかも知れないと考えていた。

米山:「あっ博士~!手紙ってあります?」

米山君はそう言ってラボにやって来る。ここにいるのはほとんどが博士だ。そのように呼べば皆一瞬頭を上げて米山君を見て、下げる。止めろと言ってもずっと米山君は変わらなかった。そうこうしているうちに、ここにいる誰もが諦めてしまった。彼女は意に返さずに独特のスキップのような歩法で、そして行灯さんから授かったものを見つけると嬉しそうによかったと安堵する。
米山:「それ貸してもらってもいいですか~?」
長谷川:「・・なぜ?」
米山:「それ心霊調査室に渡しに行くんですよ~?もう約束もしてしまいましたから」

一体何を悩んでいるのか馬鹿らしく思えるほどの行動力。その手紙をかすめとると、米山君はそれを持っていってしまう。
午後の暮れは迫ろうという。その陽だまりが長い影でデスクを暖かくしている。それが嵐の前の静けさであったと私は振り返る。
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