第12話

文字数 1,109文字





あのガーリンソンとの一触即発の日以来、ラルフに親しげに話しかける少年が現れた。

「やあ、ラルフ」

「誰?君」

「ナイトハイト。ナイトハイト=エーベルバッハ。よろしくね」

肌は白く、髪は金髪の肩まで伸びたおかっぱ。その上、声も高い。名前がミシェルやロビンだったらいよいよ騙されていただろう。彼、ナイトバイトはまるで女の子のようだった。

「ああ…よろしく…もしかして君も平民かい?」

貴族が平民に話しかけるはずがない。ラルフは同じ平民ーーといっても自分はそこら辺の平民にすら話しかけられるような身分じゃないがーーに出会えたと思い嬉しくなった。

ラルフは気丈に振る舞ってはいたものの、内心、学校での時間はとても孤独で心細く思っていた。

「すまないが、僕は貴族だよ」

そうかい。ラルフはがっかりした。

「貴族様が僕に何のようで?」

「何って、君、こないだガーランとやり合っていたじゃないか。まさか平民の君が子爵のガーランに楯突くなんて、僕は見ていてとても興奮したよ」

風がそよいだ。穏やかな春の日だった。

「ラルフ、僕と友達になってくれないか?」



ラルフは耳を疑った。このお嬢は今友達って言ったよな?

貴族と平民だ。ありえない。が、さっきからこのナイトハイトがいやに親しげな事も既にしてありえない。

「どうした?だめなのか?」

「いや…」

「じゃあ友達だな、ラルフ」

「…いや待て。君は僕と関わっても大丈夫なのか?僕と関わったら君も他の貴族に白い目で見られることになるぞ」

言っててラルフはひどく惨めに思った。
貴族の中に一人混じる自分の場違いさと、貧民である劣等感と、それらによって、本心では友達が欲しいにも関わらず、今自分の手でその願望を打ち砕かなければならないことに。

「大丈夫。僕の家はこの中で一番貧しいから」

おっと、君を除いてね。
ナイトハイトは自分の立場に引け目も感じずそう言った。

「男爵の中でも最底辺の男爵さ。もはや平民といっても差し支えないよ。それでね、僕は君に勇気をもらったんだ。他の貴族にはない意地があるような気がしたんだ。
他の貴族と話すより、僕は君と話してみたいんだ。だって奴ら本当に上部だけなんだぜ?奴ら何話すと思う?紅茶について議論し合うんだよ、全く。それに天使とどうすれば仲良くなれるか、これを永遠に話し合うんだ。理解し難いよ」

ラルフは思わず笑ってしまった。随分前にキャシーに会った時以来笑ってなかった気がする。

ラルフは紅茶を飲んだことがないからナイトハイトの辟易っぷりを共感することができなかったが、彼が今まさに友達のように話しかけてくれることが嬉しく、自然と笑みが溢れた。

「それはそれは。君も大変なんだね、ナイツ」

「そうさ、ラルフ」
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