第1話
文字数 664文字
桜の枝が緩やかにしなっている。まだ空気は冷たい。
そこへ烏が一羽降り立った。
そんな風景は桃色のキャンバスに黒いシミが落ちたようだった。
「倉木さんっ。」
ぼんやり外を見ていた倉木の細い肩が竦んだ後、ぎこちなく振り返った。
瞳が忙しなく揺れている。
「廊下にいたところごめんね~。明日当番だから、日直日誌渡したくて。」
そう言って日誌が手渡される。
「あ、ありが、とう…木梨さん。」
日誌を持ちながら、応じる声は今にも消え入りそうだった。
木梨は気にとめなかったのだろうか、彼女の顔には自然な笑みが浮かんだ。
「ごめんなんて言わないの。そういえば名前、覚えててくれたんだね。
あのさ、良かったらさん付け無しで沙耶って呼んで!」
そう言われて、倉木はぎこちなく頷く。
彼女の耳より少し下で切られた黒髪が軽く顔にかかる。
笑顔のまま、木梨も外に切れ長の目を向ける。
「5階からの眺めって良いよね~、階段上るのは辛いけど。」
木梨の柔らかな髪が風になびく。
「そういえば、倉木さんは小学校の時のあだ名ってある。」
「え、えーっと…特に無かったかな。」
うつむいたままの彼女は、ぼそぼと答える。
「そっか、じゃあ名前は倉木杏だから…そのまま杏はどう。
なんか響き可愛いいじゃん。」
沙耶が小首を傾げる。
それにうなずいた杏は、どうにか笑みを浮かべていた。
沙耶は顔をほころばせた後、慌てた様子で
「あ、こんな時間!また明日!」と手を振って一目散に帰って行った。
杏は返事をするタイミング見失い、少しの間ぼんやりと立っていた。
そこへ烏が一羽降り立った。
そんな風景は桃色のキャンバスに黒いシミが落ちたようだった。
「倉木さんっ。」
ぼんやり外を見ていた倉木の細い肩が竦んだ後、ぎこちなく振り返った。
瞳が忙しなく揺れている。
「廊下にいたところごめんね~。明日当番だから、日直日誌渡したくて。」
そう言って日誌が手渡される。
「あ、ありが、とう…木梨さん。」
日誌を持ちながら、応じる声は今にも消え入りそうだった。
木梨は気にとめなかったのだろうか、彼女の顔には自然な笑みが浮かんだ。
「ごめんなんて言わないの。そういえば名前、覚えててくれたんだね。
あのさ、良かったらさん付け無しで沙耶って呼んで!」
そう言われて、倉木はぎこちなく頷く。
彼女の耳より少し下で切られた黒髪が軽く顔にかかる。
笑顔のまま、木梨も外に切れ長の目を向ける。
「5階からの眺めって良いよね~、階段上るのは辛いけど。」
木梨の柔らかな髪が風になびく。
「そういえば、倉木さんは小学校の時のあだ名ってある。」
「え、えーっと…特に無かったかな。」
うつむいたままの彼女は、ぼそぼと答える。
「そっか、じゃあ名前は倉木杏だから…そのまま杏はどう。
なんか響き可愛いいじゃん。」
沙耶が小首を傾げる。
それにうなずいた杏は、どうにか笑みを浮かべていた。
沙耶は顔をほころばせた後、慌てた様子で
「あ、こんな時間!また明日!」と手を振って一目散に帰って行った。
杏は返事をするタイミング見失い、少しの間ぼんやりと立っていた。