第8話

文字数 1,167文字

何だか居たたまれなくなり、1人学校の裏側へと向かった。
影になった裏側は、校舎内からは死角になっている。
そんなところに階段を見つけた。
階段後ろの校舎内への扉は、ところどころ錆ついていて開かれることが無さそうだ。
校舎を背にしてゆっくりと階段へ腰を下ろした。
もう沙耶と舞ともほぼ別行動となるだろう。
避けられているということが、紛れもない事実となったのだから。

そよ風が通り過ぎると、校庭に同じ図書委員の中谷啓が見えた。
昼休みに他の男子と遊んでいたのだろう。
一緒にいた男子に手を振って別れると、啓はなぜだかこちらへ向かって来てた。
そして少しスペースを空け左隣に腰を下ろした。
ためらいがちに、中谷が口を開く。
「…元気なさそうだけど…何かあった。」

なんて答えれば良いかも分からず、一瞬沈黙が訪れる。
まるで無視しているみたいだと思い、慌ててまとまらない答えを返す。
「…うーん、少し疲れて。教室って人間が数人以上、存在しているし。」
啓は一瞬何と言ったか分からないという不思議そうな表情を浮かべた。

直後、笑いをこらえたような顔で、相槌を打って来た。
「そうだよな。確かにたくさん人間がいるよな。疲れるのも分かる。」
笑うのを抑えようとして肩が震えている。
彼は男女問わず仲良い人が多い。
そういえば、この前図書室に来た城田さんともよく話していた。
リア充と言っても過言では無いのではないか。

「自分と違ってクラスに自然に溶け込めてるし、何で分かるなんて言うの。」
余計な事を考えていたら、思わず本音が零れてしまった。
ごめん。と慌てて言う。

「実際は、そうでも無いかもなんだよな。」
陰ったその横顔を即座に見た。
「えっ。」意外な言葉に思わず目が丸くなる。
「うまく言えないんだけど、なんていうかさ、話してる時は楽しいんだ。
でも俺は周りの顔色を見て意識的に合わせちゃう癖があって、
後でどっと疲れるんだよね。」
苦笑いを浮かべ一瞬の間の後、さらりと言った。

「だから、それを変だとしたら俺も同じだな。
まぁ、お互いもうちょい肩の力が抜けたら良いんだろうな。」
啓は杏の目を見てにっと白い歯を見せて笑った。
杏はそっと伏し目がちになった。

「あ!そう言えば、真子が感謝してたぞ。本丁寧に探してくれたって。」
杏は驚いた。
「え、結局本、見つけられなかったのに。」
「なんか頑張る気力湧いたって言ってたから、結果オーライなんじゃないか。」
「そうなのかな。」
たいしたこともできてないのに、感謝なんて受け取って良いんだろうか。
でも嬉しくて、口角が自然と上がってしまう。

「でも、ま、頼まれても無いのに勝手に言っちゃったから秘密でよろしくな。」
そういうものなのかと、杏は意外に思いつつも了解するのだった。
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