第9話

文字数 1,127文字

何だかんだで、城田さんや中谷くんが声をかけてくれることが多くなった。
不思議で仕方ないが、気付くと3人でいることが多くなった。
今日も委員会の後、一緒に帰る予定だ。

「うわ。」
前を歩いていた啓が、いきなり足を止め大きな声を上げた。
突如現れた人影を見て口が開いていた。
人影の正体である真子の歓声が上がる。
ついさっきまで柱の陰で待ち構えていたようだった。
「わーい、大成功。啓君、見事に引っ掛かりました。ただ今真子、参上しました!」
真子が誇らしげに敬礼をしている。

啓は眉間にシワを寄せ、吐き捨てる。
「何だよ、お前委員会はどうしたんだ。待てよ、真子の事だからサボったのか。」
真子は目の端を吊り上げ、言い返し始める。
「失礼ね、もう委員会は終わりましたー。本当、啓はさ、そういうとこ…」
すぐさま啓が杏の後ろへ移動する。これではまるで盾では無いかと思う。

「ちょっと!杏を取られてたまるもんですか。杏ちゃんは私の大事な子なんだから。」
すかさず真子が啓を指差しながら言う。
杏は取られるというより、盾な感じがすると思ったが
続く2人のやり取りに、耳を傾ける。

「お前誰だし。いつ産んだんだよ。」
「ふん、その返しは甘いわね。もう少しひねりが必要ね。」
「うわ、ウザいわー。わざわざ付き合ってやったのにその上からの態度。」
「啓には言われたくないわね。」
まるで漫才みたいな息が合ったやり取りに、思わず杏は感心してしまう。

途端に下校のチャイムが鳴る。
「あ~あ、明日までに理科のレポート終わらせなきゃ。」
眉間にシワを寄せた真子の言葉に、杏は慌てて言う。
「あ、しまった。教室にレポート、ケースに入れたまま忘れて来ちゃった。」
「あぁ、真子のボケがとうとう杏にうつったか。それなら、仕方ない。」
啓はわざとらしく宙に両手を広げ、首を振る。

真子は啓を睨むように見返す。
「うるさいよ、啓。杏、良いから取って来なよ。待っててあげるから。」
「ありがとう。急いで取って来る。」
杏はそんな2人のやり取りに微笑んだ後、足早で教室へ向かう。

階段を一段飛ばしで駆け上り、教室の前で息をつく。
ドアに手を掛けようとした瞬間だった。室内から自分の名前が聞こえ、
反射的に手を引っ込めた。
「あのさ、杏の事どう思う。」
ドアを通して冷めた舞の声が、廊下に聞こえて来る。
「正直言うと、空気読めてないし、…絡みにくすぎだよね。」
「うわ、舞きつー。」
沙耶のふざけた口調に不服そうな舞が返す。

「じゃあ、そういう沙耶はどうなのよ。」
「確かに、ちょっとねって感じだよね~。」
すぐに楽し気な笑いが湧き起こる。

サーッと頭から血の気が引いていく。
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