#07 デート

文字数 2,404文字


 今日は沢木くんと、念願の初デート!
 

 そして、私の誕生日♡



 待ち合わせは、お昼の1時。

 場所は、駅の南口の時計台の下で。

ルルルン♪
 1時まで時間がまだあるから、めっちゃ気合いいれてメイクしていこう!

 それに、初デートは大切な思い出にしたいから、いつもよりちょっと大人っぽく────。


 そうだな、髪でも巻いていこうかな?


憂、憂っ! 今日いっしょに────!
 了がノックもせず、部屋に飛び込んできた。
え?
あ……。
い……、
ケーキ食べに……行きま……せんか?
……やぁ────っ!! 了のバカ! バカバカバカッ!! 早く出てって!!!
 バッと、床にしゃがみ込む。


 もぉ~、泣きそう。

 了に、了に……見られた……。


 下着姿、見られちゃった────っ!!!


で、なんで了もここにいるわけ?
律子さんに、憂のこと“よろしく”って頼まれてるし、変な男に引っかかってやしないか、相手の男を見極めにきた。
“変な男”って……、ご心配なく、沢木くんは、絵に描いたような真面目な好青年だから。誰かさんみたいに急にキスしてきたり、抱きついてきたり、ノックもしないで女子の部屋に入ってくるような人じゃないから安心して。
まだ今朝のこと引きずってんのかよ。だから、“ごめん”って言ってるじゃん。てか、隠すほど胸なんかないくせに
はあ⁉ なにそれ、サイテーッ! やっぱ見たんだ……、下着だけじゃなく、そこまで……っ!
気になるんなら牛乳飲めよ。栄養が行き届いてないっていうんなら、俺が直接もんで────。
結構ですっ‼
ちぇっ。あんなに、お風呂にいっしょに入った仲だっていうのに。
ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと、誤解されるような言い方しないでよっ! いつの話よ、幼稚園くらいまででしょっ! 沢木くんには、そんな話、絶対にしないでよっ!
さあ、どうしよっかな?
てか帰れ。お願いだから、帰って。私、このデートに人生かけてんだからっ!
人生かけてるなら、俺だってそうだよ。そう簡単に、憂を渡すわけにはいかない。
了……。

 どうしたらいいんだろう。


 了の気持ち、すごくうれしい……。


……高梨、遅くなってごめ──んっ!

 沢木くんが、大きく手を振ってやってきた。



 うわぁ~。

 私服姿の沢木くんだ!


カッコイイ♡
は?
ごめん。待ったよね? 電車、乗り越しちゃって。
 制服のときと雰囲気が違う。

 どうしよ、うまくしゃべれるかな……?
ううん。わ、私も今来たとこ。
はあ⁉ なに言ってんだよ、30分前からいるだろっ!
ちょっ、ちょっと了……!
しかも、待ち合わせの時間、とっくに過ぎてるし、どんだけ時間にルーズな奴なんだよっ。
了、やめてっ! 嫌いになるよっ‼
…………っ!
了? ……ああ、きのうの。君も来てたんだ。
フン。
遅れたことは謝るよ。今日のことを考えたら、緊張して眠れなくて。電車で揺られてるうちに、つい寝入っちゃって……。ホント、ごめん!
そんな、全然気にしないで。それより……、私のほうこそ、ごめんね。了、くっついて来ちゃって……。
別にいいよ。高梨の()()()なら、俺も仲良くしたいし。
は?
あ……。
……あれ、違うの?
あははは……。
それより、映画見に行こうぜ。どーせ、ノープランなんだろ?
 スタスタと歩いていく了。




 はあ⁉


 なんでアンタが勝手に決めてんのっ⁉


ご、ごめんね、沢木くん。了、感じ悪くて……。
いいよ、ほんとノープランだったから。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 なんなのこれ……。


 せっかくのデートが台無しじゃない。


夏といえばホラーだろ? なんで恋愛もんなんだよ。
だって、この映画ずっと見たかったんだもん。


「もう二度と恋愛はしない」と誓ったヒロインの前に、ある男性が現れて、二人は恋に落ちるの。だけど、ヒロインは亡くなった恋人にまだ想いが残っていて、またその男性も自分のライバルがこの世にいない人だと知って、なにも告げずにヒロインの前から去っていくの。そして何年かして、二人は偶然にも異郷の地でめぐり合うって話!

そこまであらすじ知ってるなら、見る必要ないじゃん。


俺は森の中にキャンプに来ていた家族が、突然、深い霧に包まれ、ゾンビがあちらこちらから出てきて絶叫し、逃げ回るという恐怖の夏休みが見たい。

はあ⁉ なんでそんな後味が悪いもの、見なきゃなんないのよ! 絶対、恋愛もの! 恋愛には障害はつきもの! 二人がそれをどうやって乗り越えてハッピーエンドになるのか、その過程を見たいの! ホラーを見たければ、おひとりでどうぞ。ねっ、沢木くん?
えーと……、上映時間いっしょだしね…………。
そこまで言うなら、恋愛もの見てやるっ!
じゃ、見る映画は決まったことだし、了はポップコーンとジュース買ってきて!
はあ⁉
あったり前でしょ~。了はオマケみたいなもんなんだし、それに────。
なんだよ?
“私の下着、見たでしょ?”
 了の耳元でボソッと言うと、了の顔がみるみる真っ赤に染まっていく。
……なっ!
私はオレンジジュースね。沢木くんは?
じゃ、お茶系を……。
はいはい、わかりましたよ。
じゃ、よろしくぅ~。
 ニコッと勝ち誇った笑みで、手をひらひらと振って了を送り出す。


 了とのやり取りを見ていた沢木くんが、思いつめた顔をして口を開く。

仲良いんだね。
な、なに言ってんの。全然仲良くなんか……!
(はた)から見れば恋人同士みたいだよ。なんか()いちゃうな……。
えっ?
 妬いちゃう?

 カァと赤くなる私の前に、了がポップコーンとジュースをトレーに乗せて戻ってくる。
憂。ほら、買ってきたぞ。……憂、どうした?
な、なんでもない。早くジュースちょうだいっ!

 沢木くんが変なこと言うから……!


 了の手からジュースを奪い、一気にストローを吸い込んだ。
あっ!
ゔっ……! ゲホゲホッ!
……それ、俺のコーラ。
言うの、遅いっ! 私のオレンジはぁ~。
…………。
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登場人物紹介

高梨 憂

紫月 了


憂の幼なじみ

憂のことがずっと好き

沢木くん


サッカー部所属

憂の彼氏

幼い頃の憂

幼い頃の了

憂のお父さん(雅也)

憂さんのお母さん(律子)

了のお父さん(恭介)

了のお母さん(江梨子)

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