#10 好き

文字数 2,223文字

おはよ。
 太陽の日差しとともに、了の顔が飛び込んでくる。
おは……。
 もぞもぞと目を擦りながら体を起こす私の前に、上半身裸の了。
えっ……?
ん?
 眠気なんて一瞬で吹っ飛ぶ。

 了の部屋に、了のベッドの上……で朝を迎えたということは…………。


 私……、

 まさか、了と……しちゃった?



 シャワーを浴びてきたのか、了の体からボディソープのにおいが漂う。
きのうの憂は、大胆めちゃくちゃかわいかったよ。憂()、シャワー浴びてきたら?
えっ?
 それって、やっぱり……っ!!

 そーっと、布団の中をのぞく私。
プッ! バ~カ、冗談だって。
へっ……?


 正直、途中からの記憶が、ない……っ!



じゃ、時間巻き戻すね♡
「憂、もしかして俺にホレた?」
「……バ、バカ! そんなわけないでしょっ!!」
 了が突然、服を脱ぎ捨てる。
「ちょ、ちょちょちょっと、なんで服()ぐのよぉ~! 早く着て~」
「だって憂、体()いてくれるんでしょ?」
「え……」
「ほら♡」
 私の反応見て、絶対楽しんでるっ!



 了の引き締まった体を見て、ゴクリと息をのむ。


 どうしよう、目のやり場に困る……。


“着替えなきゃ”とは言ったけど、拭くとは言ってないしっ!」
「いっしょでしょ♡」
「い、いっしょじゃない! 元気そうだし、自分でやったら?」
「俺、病人よ?」
「どこが“病人”なんだか……。もぉ、しょうがないなぁ……」
 了の胸に手を伸ばす。


 ()らしたタオルで、体を拭いていく。

「……憂」
「え?」
 突然、了に手をつかまれると、そのままベッドに押し倒される。



 あ……。


「もう、限界……」
 了の顔がゆっくりと近づいてくる。



 了…………。


 キスされると思った瞬間、了の顔がストンと胸の上に落ちてくる。



 えっ、ちょっ……!

 

「りょ、了……?」
 胸に顔をうずめたまま、何の反応もナシ。


 かわりに聞こえてきたのが、スースーという寝息だけ。




 ……寝ちゃった、の?

 

「…………なんだぁ……」
 ちょっぴり残念に思っている自分がいる。


 了とならシテもいいって、私────。



 気持ちよさそうに眠る了を、さらに引き寄せるかのように抱きしめ、私もそのまま目を閉じた…………。



ね、思い出した?
(む、無意識だから……っ! 自分から、了を抱きしめて寝ちゃうなんて! まさか、“大胆でかわいかった”ってそういうこと⁉)

あれれ、こっちも思い出しちゃったみたいだね。

「……ん」


(……なんか、柔らかい…………。む……胸っ⁉

 そっか、あのまま寝落ち、ってやつか。



 ……ダサッ。(反省)




 まだ日が昇る前。


 むくっと起き上がって、気持ちよさそうに眠ってる憂のほっぺたをツンツンと突っついてみる。


 や、柔らけ~。

「…………ん……」
「憂……」
 無防備な姿を見た途端、憂のその唇に思わずキスをしてしまった。


 ()れるだけでよかったのに……。

「……了……」
 アイツ、寝ぼけながら俺の名前呼んで……。
「……もっと……」
 寝ぼけながら、俺のこと抱きしめてくるから……っ!


 歯止めがきかなくなった俺は、何度も何度も何度も……、憂と繰り返しキスをした。


 

(……ヤバッ。思い出すだけでも興奮する。あのときの憂はめちゃくちゃエロくて、大胆でかわいかった)
ねぇ、了……。
ん?
私……、自分でもよくわかんないんだけど。了とのキス……、嫌じゃなかった。
えっ⁉


(まさか、寝ぼけてなかった……?)

()()()、了にキスされたとき……嫌じゃなかった。
(なんだ、きのうか……)
…………。
それって、俺のこと……好き、ってこと?
わ、わかんないよ。でも、好き……なんだと思う。了の一言でうれしくなったり、苦しくなったり……。キ、キスされたときも、ストップサインでなかったし…………!
 恥ずかしくてうつむく私を、了がグイッと(あご)を引き寄せる。



 ……了────?


じゃあさ……、もう一度試してみる?
え?
俺で、いっぱいにさせてやるよ。

 そう言って、目の前に迫ってくる了の顔。




  試す?


  そうすれば、ちゃんと答えが出る?




  ────唇が触れる、そう思った瞬間……。




  ブルブルブルと、鳴り出す私のスマホ。


……ちぇっ。タイミングわり~。
 ポフッと、枕に顔をうずめる了。



 ……私、期待してた。



 やっぱり、了のことが……好き……?



“きのうはごめん。今日、会いたい。会って、直接話したい”

 スマホを見て、思わずため息がもれる。



 どうしよう。


 きのうの夜から、ずっとラインがきてた……。

……はあ。
おいおい、それが彼氏に対する態度かよ。きのうとは()()()変わりよう……。
誰のせいだと思ってるのよ。
え……、俺?
そうだよ、了のせいじゃない。了が突然、現れたりするから……。それまでの私は、沢木くんのことでイッパイだったのに……! 私の心、かき乱すようなことばかりして────‼
……それって、俺のことが“好き”って言いたいの?


 好き?



 了のことが、好き?



……()…………。
 “好き”って言う前に、了の指に(さえぎ)られる。


 私の唇に人差し指を当てて、その先を言わせようとしない。

俺は、今も昔も変わらず、憂だけだよ。憂の気持ちが俺に向くまで、俺はずっと辛抱(しんぼう)強く待つつもりでいたのに……。
……了。
責任なら、いつでも取ってやるし。今はちゃんと彼氏に会ってこいっ!
…………わ、わかったよ。


 そうだよね、ケジメをちゃんとつけなきゃ。



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登場人物紹介

高梨 憂

紫月 了


憂の幼なじみ

憂のことがずっと好き

沢木くん


サッカー部所属

憂の彼氏

幼い頃の憂

幼い頃の了

憂のお父さん(雅也)

憂さんのお母さん(律子)

了のお父さん(恭介)

了のお母さん(江梨子)

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