#04 了と嫉妬

文字数 1,355文字

それにしても、調子くるうなぁ。制服姿の高梨しか見たことなかったから、今日はちょっと緊張する。

そ、そう?

 そんなこと言われると、余計恥ずかしくて沢木くんの顔、見れないじゃん。

 ちらりと見ると、頬を赤く染めてポリポリとかく沢木くんの姿に、さらにキュンとさせられる。

 私、超贅沢(ぜいたく)な時間を過ごしているような気がする。

 ボタボタと雨の滴が傘に落ちるなか、傘から滑り落ちるように、沢木くんの肩にかかる。


さ、沢木くん、肩が……!
いいの、いいの、高梨が濡れなければっ。

 はははと笑う沢木くんを見て、胸がドキンと高鳴る。

 そっか、私が濡れないようにしてくれてたんだ。

 沢木くんの優しさに触れるたび、どんどん好きになっていく自分がいる。


そういえば俺らさ……、デートらしいこと、まだ一度もしたことがなかったよね。明日とあさって、空いてる?
う、うんっ!!
よかった。夏休みも、練習がみっちり入っててさ、この機会逃したら、いつデートができるかわかんないし。それに……、高梨が買ったっていう服、早く見てみたいから!
 沢木くんはそう言って、私が両手で大事そうに抱えている紙袋を差した。


 ……うそみたい。

 夢で見た、沢木くんとのデートが実現しちゃうのっ!?


 早く家に帰って、了に自慢してやろうっと!


あ、あのさ、高梨……っ!
うん。
 急に立ち止まり、真剣な表情を見せる沢木くん。

 目をぱちくりして、次の言葉を待つ。
……今夜、高梨の家に泊まっていい?
え?
 それって…………、


 つまり、そういうことだよね?

あっ、いや、ごめんっ! 今の、やっぱ忘れて。ダメだよな、親の不在中に男を連れ込むなんて……。あははは……。
……ダ……!
…………。
ダメじゃない……。ダメじゃないけど…………。


(なんて言おう、今ウチに了がいること……!)

 ザァ────ッ。

 さっきよりも雨足が強くなるなか、私たちのまわりだけ雨音が消えたかのように静まり返った。
……今日はやっぱ、やめとくわ。だけど、“ダメじゃない”ってことは、高梨も……、俺とそうなってもいいって思ってるってことだよね?
う、うん……。
 私は頬を赤らめながらコクリとうなずくと、雨が降る街中で、まるで映画のワンシーンのように、沢木くんの顔が近づいてきた。


 次の瞬間なにが起きるのか、私は胸を弾ませながらゆっくりと目を閉じた。



 ピシャ、ピシャッ!


 恥ずかしさと緊張が入り交じるなか、水の跳ねる音が耳に入ってくる。慌ただしく、それは次第にゆっくりと、私と沢木くんの前でピシャリと止まった。


……憂!
 了の声を聞いた途端、現実に引き戻されるかのように、唇が遠のいていった。

 目の前に、息を切らした了が視界に入る。
……りょ、了! もしかして、迎えに来てくれたの!?
誰?
あ、えーと……。
バーカ。偶然通りかかっただけだって。
え?
じゃあな、早く帰れよ。
 了はそう言って、私たちの前を横切る。


 足早に去っていく了の背中を追いながら、傘をさしているもう片方の手に未使用の傘を持っていることに気づいた。



 まさか……!


ちょっと、了……っ‼


…………。
 人込みのなかに消えていく了の後ろ姿を追いながら、伸ばしかけた手をたらんと下ろし、(こぶし)に力を込めた。




 ────了のバカっ!


 素直に“迎えに来た”って言いなさいよっ!!!



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登場人物紹介

高梨 憂

紫月 了


憂の幼なじみ

憂のことがずっと好き

沢木くん


サッカー部所属

憂の彼氏

幼い頃の憂

幼い頃の了

憂のお父さん(雅也)

憂さんのお母さん(律子)

了のお父さん(恭介)

了のお母さん(江梨子)

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