はぁ~、なに格好つけてんだ俺は。自信なんかねぇーっていうのに。
「将来、了のお嫁さんにして。憂の一生の一生のお願いだかんねっ!」
思いが一緒なら大丈夫だって、安心しきってた。
たかが子供の頃に交わした約束だけどさ…………。
こんなことだったら、毎月来る憂の手紙にちゃんと返事を書くべきだった。いつの間にか来なくなるし…………!
今、好きなのはアイツ、か……。
寝たフリしてたら、あの野郎、憂の手なんか握りやがって。憂も憂で、うれしそうにしてるし。……今は、ただの幼なじみでいてやるよ。
冷蔵庫の中に、駅前のケーキ屋で買ったイチゴショートを入れる。
「憂の夢はね、大好きなケーキをた~くさん食べることなんだよ」
「……イ、イチゴショートッ! だーかーらー、イチゴショートが食べたいって言ってるでしょっ!!」
……ホント、わがままな奴。やべぇ、ちょっとダリィかも…………。
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来るっ!
沢木くんの顔が近づいてくるっ!!
未知の世界への憧れと、緊張…………。
自分も合意の上だけど、沢木くんにホテルに連れ込まれ、次のステップへ踏み出すことにしたの。
怖いけど、きっと大丈夫。
初めは痛いっていうけど、みんなそれを乗り越えて大人の女性になっていくんだから。
ベッドの端に座って、沢木くんと初めてのキスを交わす。
唇にふわりと優しく触れ、よろこびを感じた瞬間、沢木くんの舌がヌルっと唇の隙間から滑り込んできた。
えっ!?
口の中を
舐め回すかのように、
執拗以上に舌を
絡めてくる沢木くん。
なにこのキス……!
こんなの知らないっ!!
沢木くんの体を押しのけようと抵抗するものの、沢木くんに両手を押さえつけられ、そのままベッドに倒れ込む。
やだ、このまま…………!
スカートの中に手が侵入してきた途端、ありったけの力を振り絞って沢木くんを払いのけた。
乱れた格好のまま、私は逃げるようにしてその場から駆け出していた。
どうしちゃったの、私。
土壇場になって怖くなっちゃった……。
沢木くんとならいいって思ってたのに…………!
キスさえしちゃえば、エッチなんてどうってこともないって思ってた…………!
……了。
なんでこんなときに、了の顔が浮かぶんだろう…………!
カチッと廊下の電気をつけ、2階を見上げる。
了……。
そのまま洗面所へと向かう。
パシャパシャと顔を洗い、鏡に映る自分を見つめる。
唇に、まだ沢木くんの感触が残ってる……。
……怖かった。
自分でも望んでいたことなのに、震えが止まらない。
次、会ったとき、どんな顔して会えばいいんだろう……。
嫌われちゃった、かな?
ガチャ。
冷蔵庫を開けてすぐに、見覚えのある箱が目に入ってきた。
これ……、
駅前のケーキ屋さんの‼
あっ、そういえば…………!
「……イ、イチゴショートッ! だーかーらー、イチゴショートが食べたいって言ってるでしょっ!!」
「ったく、早く帰って来ないと、全部食っちまうからな」
了、本当に買ってきてくれたんだ……。
中を開けると、イチゴショートが6個。
……バカ。いくらなんでも、これは多すぎでしょ。誰がこんなに食べんのよ。
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そーっとドアを開けてみると、暗闇から聞こえてくる了の寝息。
もう寝てんのっ!?
まだ8時前だっていうのに……。
ま、いっか。ケーキのお礼は明日にしよっと。
了の異変に気づく。
廊下の明かりから、ぐったりと汗をかき、苦しそうにもがく了の姿が浮かび上がる。
了っ!
すぐに了のもとへ駆け寄り、額に手を伸ばすと……。
「……りょ、了! もしかして、迎えに来てくれたの!?」
────私のせいだ。
雨の中、私のこと探し回ってくれたから…………。
冷すものを取ってこようと、了のそばを離れようとしたそのときだった。
はぁはぁと息苦しそうに呼吸をしながら、了が私の腕をぐっとつかむ。
……了────。
へ、平気ってあのね……。冷やすもの取ってくるから。あと、汗もかいてるから着替えなきゃだし……。あ、薬はちゃんと飲んだの?
もしかして、飲んでないのっ⁉
いい? 薬持ってくるから、大人しく待ってて!!
────心臓が止まるかと思った。
胸を押さえながら、階段を駆け降りる。
了に腕をつかまれたとき、バカみたいにドキドキした。
どうしちゃったの私…………。
あのね、なに子供みたいなこと言ってるのっ! 飲まないと、熱下がんないよっ。
はぁ!? もう、人がこんなに心配してんのに、どーゆー神経してんのよ。まさか、錠剤、飲めないわけでもないでしょ⁉
バッと、布団をかぶってふてくされる了。
やだ、了にこんなカワイイ一面が?
了がバッと振り向いた瞬間、了の唇にグッと強く押し付ける。
────ゴ……クン……。
ゆ、憂……。今の反則だぞっ! 薬、入れてくるなんて……!
顔を真っ赤にする了。
私だって驚きだよ。
自分がこんなに大胆なこと仕出かすなんて……!
そ、そうでもしないと、薬飲んでくれないでしょ。私の貴重なキス、返してよっ!
恥ずかしくて、了の顔が見れない。
バカバカバカ、なに言ってんのよ私っ!
さらに、顔がカァと熱くなる。
おまけに、バクバクと心臓まで高鳴り出し、治まりがきかない。
どうしよう、聞こえちゃう……。
そう思っている間に、了が私の耳たぶをパクッと軽く噛む。
ビクッと体を震わす私を、後ろから包み込むようにギュッと抱きしめる了。
首筋から肩にかけて這うようにキスをしながら、了が甘くささやく。
了? ……やっ、了、了、了ぉっ!! バカバカバカ、ふざけないでよっ!!!
了の腕を振りほどこうと、バタバタと
もがく私。
いつもならグーで殴りつけてやるところなのに、了がこんなに強いなんて……。
押さえ付けられている手から、だんだんと力が抜けていく……。
────あ……。
唇が重なる。
沢木くんとは違う、優しい優しいキス。
深く深く、濃厚に────。
唇が離れたときには、魔法にかけられたかのように、目を潤ませ了を見つめている私がいた。