四大天使のクリスマス
文字数 11,537文字
四大天使みんなでクリスマスパーティーをしよう。そう言い出したのは四大天使の問題児であるラファエルだった。ラファエルの鶴の一声で四大天使は揃ってクリスマスパーティーをやることになった。
最初はガブリエルがラファエルを止めようとしたがラファエルの「シュクレのケーキが食べれるよ?」の一言で黙らせた。
ガブリエルは伝説のパティシエシュクレの作るスイーツが大好きであるのは四大天使周知の事実なのだがラファエルはそれを口実にガブリエルを釣って賛成側に持って行った。
ラファエルは釣ったという自覚は無さそうなのがたちの悪い所だ。ラファエルは四大天使最年少ゆえに他の四大天使たちに可愛がられている。子供特有の純真さや可愛げのある性格だからか皆ラファエルに甘いのである。
気分屋のウリエルは「別にいいんじゃないですかねえ~」と特になにも考えずに賛成側に。
多数決を前にミカエルに勝ち目は無く、クリスマスパーティーを行うことが決まってしまった。
「プレゼント交換会?」
「うん、僕たちでねプレゼントを持ち寄って、交換しあうの!だからウリエル達もプレゼント持ってきてねえ!」
「プレゼントと言われてもなにを持ってきたらいいのですか?」
ミカエルは聞く。
「それはじぶんで決めるの―!相手がどんなプレゼントなら喜ぶのかな―とか考えるの」
クリスマスパーティーの内容も大半をラファエルに勝手に決められた。本来、立場的に上なのは総指揮官のミカエルなのだが残りの四大天使達が揃ってやる気満々なので止める事が出来なかった。
「天界の最高指揮官である四大天使がこんな事をしていていいのか?」
「そんな事言っちゃってミカエルも内心うきうきですよね?」
「そんなわけないだろう!ウリエル、私は真面目に考えているのだ」
「そうお?ミカエル別にそんなに嫌がってたわけじゃないでしょう。本当に嫌がってたならすぐ止める事だってあなたならできるし」
「別に、クリスマスパーティーが嫌いだというわけではない!」
「ならいいじゃない?四大天使にも息抜きは必要よ。ミカエルだって前にゼルエルと一緒にバカンス行ってたんでしょ?」
「・・・・・・確かに大切ではあるが」
ウリエルとミカエルはとても仲がいい、というわけではないが四大天使の中では親密な間柄だ。ガブリエルとは天軍の方針を巡って対立した時以来犬猿の仲だしラファエルは性格のそりがあわない。まともに付き合えるのがウリエルしかいないと言った方が正しいだろう。
今日はプレゼント交換会とやらで持っていくプレゼントを探しに下界に降り立ったのだ。ボイコットしてもよかったのだが、私も決まったからには真面目にやる主義だ。やらなければならないからわざわざ出向いているだけだ。決して浮ついた気分で買いに行っているわけではない。
「ミカエル、顔緩んでる。なんだかんだ言って楽しそうじゃない」
「断じて違う」
ミカエルは慌てて顔をきりっとした表情に戻して否定したが、もう時すでに遅くウリエルにくすくすと笑われる始末だ。
「そうそう、クリスマスパーティ―のことなんだけど四人だけでやるのも寂しいなあってことでラファエルちゃんが天軍のみんなにも参加してもらおうって声をかけてるの。だから当初の予定よりももっと賑やかになりそうに」
「なに!?聞き捨てならないぞ?そんな話私はなにも聞かされてない」
「ミカエルは絶対に反対してくるだろうからってラファエルちゃん達が勝手に決めたのよ」
「おいっ!確かに反対すると思うがだからといってな」
「まあまあ、いいじゃない。天軍のみんなでやるクリスマスパーティ、楽しそうじゃない?」
「ぐっ、それは___確かに楽しそうだが・・・・・・」
「ミカエルもこの際肩の力を抜いて気楽に楽しみましょう」
「______分かった。私もそうしよう。天軍の皆にもこの1年よく働いたし休息を与えるべきだな。だが羽目を外しすぎても困る。だから、監視も兼ねて私も付き合おう。それでいいな?」
「ミカエルも素直に楽しめばいいのに」
意固地になってなどいない。クリスマスパーティーに付き合うのも今回限りだ。今回は天軍の天使たちの士気も高められそうだから認可しているだけだ。私個人が楽しみにしているわけではない。
クリスマスパーティー当日
「メリー、クリスマス!」
「うおおおおおおおお」
クリスマス当日、いつもであれば天使たちがせわしなく出入りし、厳粛な雰囲気が漂っていた天軍の詰所もいたるところが派手な装飾で彩られ神聖さもなにもあったもんじゃない無法地帯となっていた。天軍の天使たちが我先にと勝手に飾り付けをしたため配置もめちゃくちゃ、飾り付けのセンスは皆無に近い。入口には無難にクリスマスリースが飾り付けられていると思いきや一体どこから持ってきたのか謎の巨大おっさんサンタ人形がぴかぴかと装飾を光らせながらお出迎えする。サンタ人形は「メリークリスマス、オディッセウス!」と喋る男の声を連呼していた。壊れているのか所々音声が途切れ途切れになっているが恐らく、そう言っている。
床には飾り付けのボールや雪の結晶が所狭しと散乱している。当日まで飾り付けを続け、そのまま後片付けもせずに始めたのだろう。あまりの無秩序っぷりにミカエルは怒髪天を突き抜け、無の感情になった。呆れてものも言えないというか、一周回って冷静になったというか。
「我が誇り天軍の姿か、これが?」
「ミカエル様、これはミカエル様直々に止めなければいけません」
「ああ、そうだなゼルエル」
ミカエルはゼルエルとともにクリスマスパーティーの会場に足を踏み入れた。多忙ゆえに遅れるとラファエル達には連絡していた。着いてみれば四大天使がいるのにこの有様、監督責任くらいは果たしてほしいものだ。
「おいっ!そこっ、楽しむのはいいが散らかってるものを片付けろっ」
「ひっ」
その辺で寝転がっている天使二人にミカエルは景気よく怒声を飛ばす。クリスマスパーティーの楽しげな空気の中怖い上司の怒声を浴びせるのは申し訳ないとは思うが天軍にも秩序というものはある。
ミカエルが来たことで空気はぴりっとなった。彼女が四大天使の総指揮官となっている理由といってもいい。天軍を纏めるリーダーはこうでなくてはならない。
(ミカエル様、相変わらず凛々しくて素敵です!)
ミカエルの後ろをついていくゼルエルは内心そう思いながらも表情はミカエルと同じく険しい顔で取り繕った。ミカエル様の傍につく護衛である以上、ミカエル様と一心同体にならなければならない。私の所為でミカエル様が他の天使からなめられるようなことがあれば一大事である。
がしゃああん、というなにかが壊れた音が背後から響いた。
「______何事だ?」
「いえ、大丈夫ですミカエル様。我々が片づけます」
さっきとは打って変わって真剣な顔つきになった天使達はミカエルにびしっと敬礼すると音の発生元へと向かっていった。
ミカエル様を怒らせると怖いというのを天軍の天使は皆知っている。ミカエルはいわば四大天使の中でも恐れられている。怒れば手を付けられない。天軍の天使達に誰を恐れている?と聞いたら魔界の著名な魔族や魔王達よりもミカエルと答えるだろう。本当に相対するかも分からない恐怖より身近にある恐怖の方が怖い。
しかし、ゼルエルはそれでいいと思っている。彼女は天軍の締め付け役だ。彼女がいるからこそ天軍の統率はとれているのだ。教師や親が子供から嫌われることがあるのと同じだ。ミカエル様は怖いが、それは相手を無意味に怖がらせているわけではない。だからこそこうしてミカエルに従える者も多いのだ。このゼルエルもその一人、身も心もミカエル様に捧げる身。
「ジングウルウベエルジングルベエル」
「これは?」
先ほどなにかが壊れた音がした場所からなにやら歌が聞こえてくる。
「鈴がなるう!」「おい、誰か止めろ。誰だこのみょうちきりんな人形を置いた奴は?」「分かりません!」
先ほどの人形から出た声のようだ歌っている男?には悪いが音痴だ。音程が本来の歌とずれまくっている。
「ぷっ」 「えっ?」
ゼルエルがミカエルの方を見ると、顔を手で覆っていた。
「ミカエル様?」 「こほん」
ミカエルは軽く咳払いすると手を放し、鋭い眼差しをゼルエルに向けながら「なんでもないです」とだけ言って先に歩を進めたのでゼルエルはこれ以上追及のしようが無く、ゼルエルは黙ってミカエルの後をついていく。ゼルエルの聞き間違いでなければミカエル様は笑いを堪えきれず噴き出したのではないかと______いや、これは失礼だ。ミカエル様はこんな下らないことで笑ったりはしない。では、見間違えかなにかだろうか。
「そこもはしゃぎすぎだ!」
ミカエルの怒りの声がまたしても飛ぶ、その声でゼルエルは意識を現実へと引き戻し疑問に思ったことはひとまず頭の片隅に置いておくことにした。
その頃、ミカエル以外の四大天使はクリスマスパーティーを存分に楽しんでいた。
「ガブリエル、シュクレの作ったカップケーキがあるよ!沢山あるよ!」
「ええ、そうですね。是非頂きましょう」
ガブリエルはラファエルとともにシュクレが作ったカップケーキの食べ比べに勤しんでいる。ウリエルもアラーチェと楽しんでいた。
「ウリエル様、あれはなんでしょうか?」
「あれはですね、クリスマスツリーですよ。クリスマスに決まって置かれる飾りをつけたもみの木です」
ウリエルのお付きアラーチェはこの世界の常識に疎いのでミカエルに度々こういう質問をする。
「どうしてクリスマスツリーなんて物を飾るのですか?」
「そうですね______大きな樹というのはユグドラシルや生命の樹のように神聖なものや象徴として扱われる事が多いでしょう?クリスマスもそれらに倣ってクリスマスツリーという樹を飾るようになったのですよ」
「成程、流石ウリエル様博識ですね」
ちなみにこれはウリエルが答えに困って適当に考えたものなのだがアラーチェはその答えで満足したようだ。
「ねえ、ミカエルはまだ来ないの?」
ラファエルがウリエルに通算5回目の同じ質問を問いかける。
「そうですね、ミカエルも多忙の身ですしまだ時間がかかると思いますよ」
「むう、あんまり遅いとミカエルの分の料理も全部無くなっちゃうよ」
「ミカエルにこのシュクレの作るスイーツは勿体ないですよ」
抱えるだけクリスマスの料理(殆どはシュクレの作ったスイーツだ)を抱え込んでいるガブリエルは言う。
「そんなひどいよ、ガブリエル。ミカエルにも食べさせてあげようよ」
「食べさせる食べさせない以前に肝心の本人がいないですからね、あちらが拒否しているならどうにも・・・・・・」
「まったくどいつもこいつもなっとらん!」
「あっ・・・・・・」
聞き覚えのありすぎる怒りの籠もった声だ。エントランスから聞こえる。
「噂をすればなんとやら」
「ウリエル、ラファエル、ガブリエル!お前たちもだ」
ミカエルがパーティー会場に現れた。
「まあまあ、落ち着いてくださいミカエル」
「そうよ、一度頭を冷やして冷静になりなさい」
ガブリエルは冷気の塊をミカエルに当てる。
「ガブリエルっ!」 「少しは頭を冷やせたかしら?」 「頭を冷やすってそういう意味じゃないだろ!」
ガブリエルとミカエルの間に火花が散る。
「二人とも喧嘩やめてよ!」
いがみ合いにラファエルが仲裁に入る。
「はあ、二人ともこんな所で喧嘩しないでくださいね、最年少のラファエルに説教されるなんて恥ずかしいです」
「分かっている」 「分かっています」 「ふんっ!」
「それで?楽しむのはいいがこれは目に余るぞ」
「私はそれでいいと思いますよ、こんな体験そうそうありませんし新鮮で楽しいですよ」
「新鮮、か」
詰所の中も各自思い思い持ってきた物が無造作に置かれていて確かに他ではお目にかかれない光景だった。ミカエルは溜息をつく。
「もういい、後で片付けをきちんとするなら許可する。今日限りだ」
「イエーイ!やったあ僕はミカエルの事信じてたよ」
「ラファエルは私がなにを言おうと勝手に動くだろ」
「えへへっ、そうだっけ?」
「お前は少しは自分の行動に自覚をもて」
「はいはい、それでは改めてクリスマスパーティーを楽しみましょう、ほらミカエル」
「うっむごっ、なんだこれは、ケーキか?」
「ああ、貴重なケーキがあ・・・・・・」
ウリエルにケーキを口に突っ込まれるミカエルに食われて悔しそうにするガブリエル、そんなミカエルを遠くから「あんなミカエル様も素敵!」と思いながら見ているゼルエル。四大天使ラファエルは幼馴染のヘミエルや同じ師団の天使達とわいわい楽しんだ。
「プレゼント交換会か・・・・・・」
「ミカエル様はなにをプレゼントに選んだのですか?」
チキンをほおばりながらゼルエルがミカエルに聞く。
「そうだな、無難なものというかそういうものを選んだ」
「無難なプレゼント、ですか?もし私がミカエル様のを当てたら私に言ってください、一生大切にしますから」
山積みになったプレゼントボックスの山をラファエルが風の力で浮かして持ってくる。ラファエルはサンタのコスチューム一式を身に着けている。男天使達が一斉に色めきたつが、ラファエルは気にも留めていない。
「じゃあ、みんなが用意したプレゼント!一人一個までだからねっ!」
席に座って今か今かと待っていた天使達が一斉に群がる。
「わっわっ、みんな押さないで!順番に」
「まったく、順番決めもしないからそんなことになる」
「まったくです、ミカエル様が決めればこんなことにはならなかったはずです。______ミカエル様は行かれないのですか?」
「いや、私は最後でいい。四大天使たるものが皆を押しのけてプレゼントをとるのはみっともない」
「僕のはこの、大きなプレゼント!大きいし当たりに決まってるよ!」
ラファエルは真っ先にこの中で一番大きいプレゼントボックスを手にしていた。
「ウリエル様、私のプレゼントは万年筆ですね」
「まあ、なんて実用的」
ウリエルもアラーチェとプレゼントを選び、とっくに宴会の席に戻っていた。天使達が一斉に集まっている時は席に座っていた筈なのだがいつプレゼントをとったのだろうか?もしかしてなにかの力を使った?
「しかしラファエル様もウリエル様もとっくにプレゼントを取っていますが?」
「・・・・・・あいつらは仕方ない。まったく、あいつらに配慮というものは無いのか?」
ミカエルは苦い顔をしながら呟く。
「あっ、でもガブリエル様も待っていらっしゃいますね。天軍の中でもミカエル様と肩を並べるといわれるだけはありますね」
「うっ」
見ると確かにガブリエルもまだプレゼントを受け取ってる様子がない。待ってるようだ。まさか私と同じく最後に取ろうとしてるのでは?よりにもよってあいつが自分と同じ考えをしているとは思いたくない。だから、早く行けっ!行ってくれ!
「そろそろ、私も行きますがいいでしょうかミカエル様?」
「ああ、混雑も大分収まってきたようだしもういいぞ。安心したぞ、お前が部下を無視して我先にと駆け出したりしたら困るからな。まあそこはお前だからあまり心配はしてなかった」
「はい、ミカエル様の御心は私の心ですから。それでは行ってまいります」
ゼルエルはそう言うと、プレゼントの山へ歩き出した。早歩きというか半分走っているようにも見えたが。まあここまで我慢してくれたのだ無理もあるまい。私の心を汲み取り尊重してくれる彼女はミカエルにとっては頼もしい部下である。
「ミカエル様、ミカエル様、ミカエル様」
ミカエルから離れたことでようやく歯がゆい状況から解放された。周りにはばれない様一見、なんにも気にしていないような表情を出しながら周りに不信感を持たれぬよう落ち着いて歩いているように見せながら出来るだけ速くプレゼントの山へ向かう。
ようやく、着いた。本当であれば最初の天使たちのように駆け出したかった。その衝動をなんとか抑えていたがもう抑えきれない。ゼルエルは必死に目を左右にせわしなく動かしプレゼントの山全体を確認する。勿論、お目当てはミカエル様のプレゼントだ。
最初に駆け出した天使達の目当ても恐らく四大天使のプレゼント。あの時誰かに取られていたらおしまいだ。そこは私とミカエル様の間の運命力を信じるほかない。
心頭滅却、心頭滅却、心頭滅却、ミカエル様のプレゼントはどれだ?
「これだっ!」
ゼルエルが手にしたのは凝った装飾も一切ない赤色の包装の小包だ。ミカエル様ならこれを選ぶとゼルエルが勝手に想像して決めた。どうかそうであってくれと思いながらゼルエルはミカエルのいる場所に戻る。
「ミカエル様、ミカエル様の出したプレゼントはこれでしょうか?」
「いや、全然違う」
(がああああああああああああああんん)
私、明日切腹します。いや、ミカエル様が悲しむので実際にはしませんがそういう気分です・・・・・・。ミカエル様の前なのでがっくりした表情はできなかったが心の中は沈んでいる。
「ははは、私のでは無かったがこれの中身は一体なんなのだ?」
「え―っと、これはなにかの置物でしょうか?」
出てきたのは二匹のカップルのような装いの犬と猫をかたどった置物だ。
「なにやら紙も入ってるぞ。どれどれ、この置物を自室に置いておくと想い人との関係が上手くいくようになります。だそうだ。よかったなゼルエルいいものを貰ったじゃないか」
「はい、そうですね。変なのよりはましです」
「で、ゼルエルにはそういうのはいるのか?」
「ああ、いや、今話すことでもないでしょう」
「そうか、まあいい。いづれ教えてくれ私も応援している」
いや、私はミカエル様を慕っているだけであってそういう関係になりたいとは。プレゼントもそう、あれだ憧れの人からサインを貰いたいみたいなそういう感情だっただけで。しかし何故今否定をしたんだ?自分でも分からない。まあ、いい。想い人は取り敢えず「ミカエル様」だと解釈しておこう。そうすれば来年、私はミカエル様ともっとお近づきになれる。あれっ?でも、私はもうミカエル様の側近という十分すぎる位置にいるのでは。これ以上お近づきになるといったらそれってもう・・・・・・。ゼルエルは必死に顔を平静に保ちつつ心の中で自分の劣情と格闘していた。
「あら?私のプレゼントはゼルエルちゃんが受け取ったのね」
「ウリエル様が送ったのはあれですか?」
「そう、いいじゃない?クリスマスにぴったりなものでしょう」
「そうなのですか?」
「ええ、それにしてもゼルエルちゃんって恋人の類はいるのかしら」
「どうでしょうか?私は聞いたことありませんが。本人は恋愛に無縁そうな人ですし」
「そういう人にこそいたりするものよ。今度聞いてみようかしら?」
そんなウリエルとアラーチェのやり取りをよそにプレゼントの山は着々と消えていく。
(早く行けっ!ガブリエル)
プレゼントの山もあと少しだというのにガブリエルミカエル双方動く気配なし。ミカエルはガブリエルの様子を時々ちらちらと横目で見るが動こうとしていない。あいつと同じ考えだとは思いたくない。
「プレゼント残り2つ!まだ受け取っていない人は誰かなあ?」
場内に響くラファエルの声にミカエルははっとした。
(しまった・・・・・・)
こんなことをやってる間にもうこんなに。
プレゼントの山は綺麗さっぱり無くなり、もうプレゼントボックスは2つ残されているばかりだ。ミカエルはそ―っとガブリエルの方を見る。______やっぱり持っていない。気まずい。しかも今ガブリエルと目があった。お互いに目を逸らしたが目が合ってしまったという事実は崩れない。最悪だ。
「ミカエルとガブリエルまだもらってないの?早く早く!」
そんな内情知ったことかとラファエルがプレゼントをぶんぶんと振り回しながらミカエル達に呼びかける。仕方ない、これ以上天軍の皆に待たせるのはいけないだろう。
覚悟を決めてプレゼントを目指す。ガブリエルの方も歩き出したように見えたがあえて無視。二つのプレゼントは赤い包装の長い包みとリボンで結ばれた袋のような包みがある。
私より先にガブリエルがプレゼントへ向かう。この気まずい状況を早く終わらせたいということだろうか。向かう先は・・・・・・ミカエルはガブリエルから目を離しもう一つのプレゼントに向かう。
誰のプレゼントか天使達がざわめく中、ミカエルとガブリエルがプレゼントを手に持つ。目線がガブリエルと合う。私とガブリエルの仲は悪いがこんな天軍が一堂に会する場で喧嘩するほど分別に欠く真似はしない。
「「こほん」」
両者咳払いで誤魔化しながら視線を再び逸らし元の席に戻る。咳払いの部分までシンクロするのはいただけない。まるで似た者同士とでもいいたげだ。あちらがわざと被せてきたと思う事にした。
席に座り、袋に巻かれたリボンを取りプレゼントを開ける。こういうのはさっさと見るに限る。ミカエルはプレゼントの中身をすぐ見ないと気が済まないタイプだ。
プレゼントの中身は美しい氷を模したデザインの小さいネックレスだ。なるほどこれは綺麗なデザインだ。送り主のセンスはいい。普段から身につけるのは難しいが、このデザインなら社交場やらで身に着けて行けそうである。普段はそういうのには毛ほど興味が無いがせっかく贈られてきたものなのだ、使っていこう。
プレゼントの中身はともかく、一つ納得いかないことがある。ミカエルは元の席に戻りプレゼントの赤い包装を開き丁寧に開封しているガブリエルを見る。開封せずともウリエルにはその中身が分かる。何故ならあれはミカエルが贈ったプレゼントだからだ。
(いや、なんであいつがっ!?どうして最後まで残っていた。折角頑張って選んできたというのにっ)
ガブリエルの手に入れたプレゼントの中身は腕時計だった。これはまた実用的なプレゼントだ。見た感じ、値はそこまで張るような品物ではないが、デザインはよく出来ており少なくとも安物っぽさはない。選んだ者のセンスはいい。これなら日常的に使ってもいいだろう。しかし、今はそんなことはどうでもいいという気分だ。何故なら目の前で気にくわないことが起きているからだ。
ミカエルが持っているあのネックレスは自分が用意したプレゼントだ。よりにもよってミカエルがあれを手にした。いや、二つ残った時点で結末は決まっていた。自分のプレゼントを取るという選択肢もあったが、ミカエルが自分のプレゼント目掛けて歩き出したので行くに行けなかった。そもそも自分のプレゼントを取りに行くのはいくらなんでもこの交換会の意味を損なう。もう一つ他人の物があるのは分かっているわけでそんな中自分の物をとるのはどうなのだろう?と思った。結果、ガブリエルはもう一つのプレゼントを手にするしかなかった。
まあそのプレゼントを手にしなければ今頃この腕時計は手に入らなかったわけだが。ガブリエルはプレゼントである腕時計を見つめる。悪くない、これが手に入ったならばミカエルに自分のプレゼントを貰われても後悔は無い。そうガブリエルは思う事にした。
「クリスマスパーティーもあっという間に終わってしまいましたね」
「やだやだっ!終わりたくない」
「ラファエルも駄々をこねないの」
ラファエルがどことなく不機嫌なのはあの大きなプレゼントの中身が大きなサンドバッグだったからだ。男ならともかく女性の天使には無用の長物だ。大きければいいというものじゃない。この点ではミカエル達の貰ったプレゼントの方がましである。双方、自分のプレゼントを一番あげたくない人物に貰われたという不満点はあるが。逆に一番いいものを手に入れていたのはウリエルだ。「主神ラーの治める黄金郷への旅行券」ぶっちぎりの当たりを引いていた。
「機会があったら行きましょうかね。前から気になってたんですよ」
「ウリエルはいいよな、特に不満も無くいいプレゼントを貰えて」
「あら?ミカエルも結構いいもの貰ってるじゃない?そんな大きな不満とか出るもの?」
「いや、そういうことじゃなくて______いや、なんでもない忘れてくれ」
「?」
幸いウリエルはプレゼントの中身を知らない。ミカエルとプレゼントを探しにに行った時もお互いプレゼントをなににしたかは言わなかった。交換会の楽しみが無くなってしまうからとかでだ。だから彼女には嫌な意味での奇跡が起きたことは知られていない。
ウリエルに聞かれたら絶対に面白がられて一生の語り草になる。しかも近くにいるガブリエルに聞かれる可能性もある。言わぬが花、禍根は残さぬよう一生、プレゼントの送り主については言わないようにしよう。
「ミカエルは一度きりって言ったけど僕は毎年やりたいっ」
「そうですね、もう天軍の恒例行事にしてもいいんじゃないですか?」
「こんなのを恒例行事にするか!もういいだろ。ラファエルはプレゼントのこと引きづってるだけだろうし」
「そうですね、プレゼント交換とかもういいです」
ガブリエルもどちらかといえばシュクレのスイーツが目当てだったからか反対しているようだ。いや、意見まで被るのは流石に。
「ガブリエルがそう言うなら私はパーティー賛成派で」
「はあっ!?あなたが言ったことでしょうが」
「なんかここまで同じ考えなのは不気味だしな」
「なにそれっ!?」
「まあまあ、でも年に一度クリスマスくらいこういうイベントがあってもいいじゃないですか。それにミカエル達もプレゼントいいもの貰えなかったんでしょう?なら次にリベンジするというのもいいんじゃないかしら?」
「・・・・・・リベンジ」
流石に来年も同じことが起こるとは思えない。次のプレゼント交換会でこのことを水に流すということも______流石にそんなことは出来ないと思うが。
「ガブリエルもご希望なら毎年のクリスマスパーティーでシュクレのスイーツを出すくらいするけどどう?」
「うっ・・・・・・なら、仕方ないわね。その代わり絶対よ」
ガブリエル、あっさり陥落。
「ミカエル総指揮官、あなたはどうですか?」
ウリエルの問いかけにミカエルはクリスマスパーティー会場の楽しそうな天軍の天使たちを見る。私も、なんだかんだ楽しかった。こんな催しが毎年あったっていいかもしれない。
「______分かった、ミカエルの名のもとに天軍ではこれから毎年クリスマスパーティーを開くことを宣言する」
「やったあああああ!!」
ラファエルの歓喜する声をあげた。天軍の天使達もそれに倣い大きい歓声を上げた。
「それじゃあっパーティーも終わったことだしみんな帰ろっ」
「おおおおっ!」
ラファエルは天軍の天使たちと共に帰路へ着こうと出口に行こうとする。
「おいまてっ」
ラファエルの耳を誰かに掴まれる。
「ミ、ミカエル?なあに?」
ラファエルが恐る恐る振り返るとミカエルが険しい表情を浮かべてる。
「やり残してることがあるよな?」
「や・・・・・・やり残してること?」
ラファエルは咄嗟にとぼけるが、ミカエルの表情は変わらない。いや、怒りの形相に一歩近づいた気がする。
「私は約束したはずだ。パーティーは許可するが、後でちゃんとここの片づけをしろとな」
「はっははっそんなことミカエル言ったっけ?」
ラファエルは冷や汗をたらしながら眼下のクリスマスパーティーの会場を見る。ものがごちゃごちゃに散乱している。量を鑑みてもどれくらいの時間がかかるだろうか?想像したくもない。パーティーでもう体はくたくたなのだ。だが______。
「言ったぞ?」
今のミカエルはそんな理由で免除したりはしてくれなさそうだ。
「アツッ」 「わあ!?」
嫌な予感を察した天使達が出口に我先にと向かおうとしたが会場の出入り口の扉が炎に包まれる。炎をつかさどるミカエルの力によるものだ。これでもう会場から出れる者はいない。
「全員会場の片づけだっ!終わるまで陽の目を見れないと思えっ」
神にミカエルに慈悲というものは無かった。
クリスマスパーティー後、ミカエルによる地獄の後片付けが待っていたのはまた別の話である。
最初はガブリエルがラファエルを止めようとしたがラファエルの「シュクレのケーキが食べれるよ?」の一言で黙らせた。
ガブリエルは伝説のパティシエシュクレの作るスイーツが大好きであるのは四大天使周知の事実なのだがラファエルはそれを口実にガブリエルを釣って賛成側に持って行った。
ラファエルは釣ったという自覚は無さそうなのがたちの悪い所だ。ラファエルは四大天使最年少ゆえに他の四大天使たちに可愛がられている。子供特有の純真さや可愛げのある性格だからか皆ラファエルに甘いのである。
気分屋のウリエルは「別にいいんじゃないですかねえ~」と特になにも考えずに賛成側に。
多数決を前にミカエルに勝ち目は無く、クリスマスパーティーを行うことが決まってしまった。
「プレゼント交換会?」
「うん、僕たちでねプレゼントを持ち寄って、交換しあうの!だからウリエル達もプレゼント持ってきてねえ!」
「プレゼントと言われてもなにを持ってきたらいいのですか?」
ミカエルは聞く。
「それはじぶんで決めるの―!相手がどんなプレゼントなら喜ぶのかな―とか考えるの」
クリスマスパーティーの内容も大半をラファエルに勝手に決められた。本来、立場的に上なのは総指揮官のミカエルなのだが残りの四大天使達が揃ってやる気満々なので止める事が出来なかった。
「天界の最高指揮官である四大天使がこんな事をしていていいのか?」
「そんな事言っちゃってミカエルも内心うきうきですよね?」
「そんなわけないだろう!ウリエル、私は真面目に考えているのだ」
「そうお?ミカエル別にそんなに嫌がってたわけじゃないでしょう。本当に嫌がってたならすぐ止める事だってあなたならできるし」
「別に、クリスマスパーティーが嫌いだというわけではない!」
「ならいいじゃない?四大天使にも息抜きは必要よ。ミカエルだって前にゼルエルと一緒にバカンス行ってたんでしょ?」
「・・・・・・確かに大切ではあるが」
ウリエルとミカエルはとても仲がいい、というわけではないが四大天使の中では親密な間柄だ。ガブリエルとは天軍の方針を巡って対立した時以来犬猿の仲だしラファエルは性格のそりがあわない。まともに付き合えるのがウリエルしかいないと言った方が正しいだろう。
今日はプレゼント交換会とやらで持っていくプレゼントを探しに下界に降り立ったのだ。ボイコットしてもよかったのだが、私も決まったからには真面目にやる主義だ。やらなければならないからわざわざ出向いているだけだ。決して浮ついた気分で買いに行っているわけではない。
「ミカエル、顔緩んでる。なんだかんだ言って楽しそうじゃない」
「断じて違う」
ミカエルは慌てて顔をきりっとした表情に戻して否定したが、もう時すでに遅くウリエルにくすくすと笑われる始末だ。
「そうそう、クリスマスパーティ―のことなんだけど四人だけでやるのも寂しいなあってことでラファエルちゃんが天軍のみんなにも参加してもらおうって声をかけてるの。だから当初の予定よりももっと賑やかになりそうに」
「なに!?聞き捨てならないぞ?そんな話私はなにも聞かされてない」
「ミカエルは絶対に反対してくるだろうからってラファエルちゃん達が勝手に決めたのよ」
「おいっ!確かに反対すると思うがだからといってな」
「まあまあ、いいじゃない。天軍のみんなでやるクリスマスパーティ、楽しそうじゃない?」
「ぐっ、それは___確かに楽しそうだが・・・・・・」
「ミカエルもこの際肩の力を抜いて気楽に楽しみましょう」
「______分かった。私もそうしよう。天軍の皆にもこの1年よく働いたし休息を与えるべきだな。だが羽目を外しすぎても困る。だから、監視も兼ねて私も付き合おう。それでいいな?」
「ミカエルも素直に楽しめばいいのに」
意固地になってなどいない。クリスマスパーティーに付き合うのも今回限りだ。今回は天軍の天使たちの士気も高められそうだから認可しているだけだ。私個人が楽しみにしているわけではない。
クリスマスパーティー当日
「メリー、クリスマス!」
「うおおおおおおおお」
クリスマス当日、いつもであれば天使たちがせわしなく出入りし、厳粛な雰囲気が漂っていた天軍の詰所もいたるところが派手な装飾で彩られ神聖さもなにもあったもんじゃない無法地帯となっていた。天軍の天使たちが我先にと勝手に飾り付けをしたため配置もめちゃくちゃ、飾り付けのセンスは皆無に近い。入口には無難にクリスマスリースが飾り付けられていると思いきや一体どこから持ってきたのか謎の巨大おっさんサンタ人形がぴかぴかと装飾を光らせながらお出迎えする。サンタ人形は「メリークリスマス、オディッセウス!」と喋る男の声を連呼していた。壊れているのか所々音声が途切れ途切れになっているが恐らく、そう言っている。
床には飾り付けのボールや雪の結晶が所狭しと散乱している。当日まで飾り付けを続け、そのまま後片付けもせずに始めたのだろう。あまりの無秩序っぷりにミカエルは怒髪天を突き抜け、無の感情になった。呆れてものも言えないというか、一周回って冷静になったというか。
「我が誇り天軍の姿か、これが?」
「ミカエル様、これはミカエル様直々に止めなければいけません」
「ああ、そうだなゼルエル」
ミカエルはゼルエルとともにクリスマスパーティーの会場に足を踏み入れた。多忙ゆえに遅れるとラファエル達には連絡していた。着いてみれば四大天使がいるのにこの有様、監督責任くらいは果たしてほしいものだ。
「おいっ!そこっ、楽しむのはいいが散らかってるものを片付けろっ」
「ひっ」
その辺で寝転がっている天使二人にミカエルは景気よく怒声を飛ばす。クリスマスパーティーの楽しげな空気の中怖い上司の怒声を浴びせるのは申し訳ないとは思うが天軍にも秩序というものはある。
ミカエルが来たことで空気はぴりっとなった。彼女が四大天使の総指揮官となっている理由といってもいい。天軍を纏めるリーダーはこうでなくてはならない。
(ミカエル様、相変わらず凛々しくて素敵です!)
ミカエルの後ろをついていくゼルエルは内心そう思いながらも表情はミカエルと同じく険しい顔で取り繕った。ミカエル様の傍につく護衛である以上、ミカエル様と一心同体にならなければならない。私の所為でミカエル様が他の天使からなめられるようなことがあれば一大事である。
がしゃああん、というなにかが壊れた音が背後から響いた。
「______何事だ?」
「いえ、大丈夫ですミカエル様。我々が片づけます」
さっきとは打って変わって真剣な顔つきになった天使達はミカエルにびしっと敬礼すると音の発生元へと向かっていった。
ミカエル様を怒らせると怖いというのを天軍の天使は皆知っている。ミカエルはいわば四大天使の中でも恐れられている。怒れば手を付けられない。天軍の天使達に誰を恐れている?と聞いたら魔界の著名な魔族や魔王達よりもミカエルと答えるだろう。本当に相対するかも分からない恐怖より身近にある恐怖の方が怖い。
しかし、ゼルエルはそれでいいと思っている。彼女は天軍の締め付け役だ。彼女がいるからこそ天軍の統率はとれているのだ。教師や親が子供から嫌われることがあるのと同じだ。ミカエル様は怖いが、それは相手を無意味に怖がらせているわけではない。だからこそこうしてミカエルに従える者も多いのだ。このゼルエルもその一人、身も心もミカエル様に捧げる身。
「ジングウルウベエルジングルベエル」
「これは?」
先ほどなにかが壊れた音がした場所からなにやら歌が聞こえてくる。
「鈴がなるう!」「おい、誰か止めろ。誰だこのみょうちきりんな人形を置いた奴は?」「分かりません!」
先ほどの人形から出た声のようだ歌っている男?には悪いが音痴だ。音程が本来の歌とずれまくっている。
「ぷっ」 「えっ?」
ゼルエルがミカエルの方を見ると、顔を手で覆っていた。
「ミカエル様?」 「こほん」
ミカエルは軽く咳払いすると手を放し、鋭い眼差しをゼルエルに向けながら「なんでもないです」とだけ言って先に歩を進めたのでゼルエルはこれ以上追及のしようが無く、ゼルエルは黙ってミカエルの後をついていく。ゼルエルの聞き間違いでなければミカエル様は笑いを堪えきれず噴き出したのではないかと______いや、これは失礼だ。ミカエル様はこんな下らないことで笑ったりはしない。では、見間違えかなにかだろうか。
「そこもはしゃぎすぎだ!」
ミカエルの怒りの声がまたしても飛ぶ、その声でゼルエルは意識を現実へと引き戻し疑問に思ったことはひとまず頭の片隅に置いておくことにした。
その頃、ミカエル以外の四大天使はクリスマスパーティーを存分に楽しんでいた。
「ガブリエル、シュクレの作ったカップケーキがあるよ!沢山あるよ!」
「ええ、そうですね。是非頂きましょう」
ガブリエルはラファエルとともにシュクレが作ったカップケーキの食べ比べに勤しんでいる。ウリエルもアラーチェと楽しんでいた。
「ウリエル様、あれはなんでしょうか?」
「あれはですね、クリスマスツリーですよ。クリスマスに決まって置かれる飾りをつけたもみの木です」
ウリエルのお付きアラーチェはこの世界の常識に疎いのでミカエルに度々こういう質問をする。
「どうしてクリスマスツリーなんて物を飾るのですか?」
「そうですね______大きな樹というのはユグドラシルや生命の樹のように神聖なものや象徴として扱われる事が多いでしょう?クリスマスもそれらに倣ってクリスマスツリーという樹を飾るようになったのですよ」
「成程、流石ウリエル様博識ですね」
ちなみにこれはウリエルが答えに困って適当に考えたものなのだがアラーチェはその答えで満足したようだ。
「ねえ、ミカエルはまだ来ないの?」
ラファエルがウリエルに通算5回目の同じ質問を問いかける。
「そうですね、ミカエルも多忙の身ですしまだ時間がかかると思いますよ」
「むう、あんまり遅いとミカエルの分の料理も全部無くなっちゃうよ」
「ミカエルにこのシュクレの作るスイーツは勿体ないですよ」
抱えるだけクリスマスの料理(殆どはシュクレの作ったスイーツだ)を抱え込んでいるガブリエルは言う。
「そんなひどいよ、ガブリエル。ミカエルにも食べさせてあげようよ」
「食べさせる食べさせない以前に肝心の本人がいないですからね、あちらが拒否しているならどうにも・・・・・・」
「まったくどいつもこいつもなっとらん!」
「あっ・・・・・・」
聞き覚えのありすぎる怒りの籠もった声だ。エントランスから聞こえる。
「噂をすればなんとやら」
「ウリエル、ラファエル、ガブリエル!お前たちもだ」
ミカエルがパーティー会場に現れた。
「まあまあ、落ち着いてくださいミカエル」
「そうよ、一度頭を冷やして冷静になりなさい」
ガブリエルは冷気の塊をミカエルに当てる。
「ガブリエルっ!」 「少しは頭を冷やせたかしら?」 「頭を冷やすってそういう意味じゃないだろ!」
ガブリエルとミカエルの間に火花が散る。
「二人とも喧嘩やめてよ!」
いがみ合いにラファエルが仲裁に入る。
「はあ、二人ともこんな所で喧嘩しないでくださいね、最年少のラファエルに説教されるなんて恥ずかしいです」
「分かっている」 「分かっています」 「ふんっ!」
「それで?楽しむのはいいがこれは目に余るぞ」
「私はそれでいいと思いますよ、こんな体験そうそうありませんし新鮮で楽しいですよ」
「新鮮、か」
詰所の中も各自思い思い持ってきた物が無造作に置かれていて確かに他ではお目にかかれない光景だった。ミカエルは溜息をつく。
「もういい、後で片付けをきちんとするなら許可する。今日限りだ」
「イエーイ!やったあ僕はミカエルの事信じてたよ」
「ラファエルは私がなにを言おうと勝手に動くだろ」
「えへへっ、そうだっけ?」
「お前は少しは自分の行動に自覚をもて」
「はいはい、それでは改めてクリスマスパーティーを楽しみましょう、ほらミカエル」
「うっむごっ、なんだこれは、ケーキか?」
「ああ、貴重なケーキがあ・・・・・・」
ウリエルにケーキを口に突っ込まれるミカエルに食われて悔しそうにするガブリエル、そんなミカエルを遠くから「あんなミカエル様も素敵!」と思いながら見ているゼルエル。四大天使ラファエルは幼馴染のヘミエルや同じ師団の天使達とわいわい楽しんだ。
「プレゼント交換会か・・・・・・」
「ミカエル様はなにをプレゼントに選んだのですか?」
チキンをほおばりながらゼルエルがミカエルに聞く。
「そうだな、無難なものというかそういうものを選んだ」
「無難なプレゼント、ですか?もし私がミカエル様のを当てたら私に言ってください、一生大切にしますから」
山積みになったプレゼントボックスの山をラファエルが風の力で浮かして持ってくる。ラファエルはサンタのコスチューム一式を身に着けている。男天使達が一斉に色めきたつが、ラファエルは気にも留めていない。
「じゃあ、みんなが用意したプレゼント!一人一個までだからねっ!」
席に座って今か今かと待っていた天使達が一斉に群がる。
「わっわっ、みんな押さないで!順番に」
「まったく、順番決めもしないからそんなことになる」
「まったくです、ミカエル様が決めればこんなことにはならなかったはずです。______ミカエル様は行かれないのですか?」
「いや、私は最後でいい。四大天使たるものが皆を押しのけてプレゼントをとるのはみっともない」
「僕のはこの、大きなプレゼント!大きいし当たりに決まってるよ!」
ラファエルは真っ先にこの中で一番大きいプレゼントボックスを手にしていた。
「ウリエル様、私のプレゼントは万年筆ですね」
「まあ、なんて実用的」
ウリエルもアラーチェとプレゼントを選び、とっくに宴会の席に戻っていた。天使達が一斉に集まっている時は席に座っていた筈なのだがいつプレゼントをとったのだろうか?もしかしてなにかの力を使った?
「しかしラファエル様もウリエル様もとっくにプレゼントを取っていますが?」
「・・・・・・あいつらは仕方ない。まったく、あいつらに配慮というものは無いのか?」
ミカエルは苦い顔をしながら呟く。
「あっ、でもガブリエル様も待っていらっしゃいますね。天軍の中でもミカエル様と肩を並べるといわれるだけはありますね」
「うっ」
見ると確かにガブリエルもまだプレゼントを受け取ってる様子がない。待ってるようだ。まさか私と同じく最後に取ろうとしてるのでは?よりにもよってあいつが自分と同じ考えをしているとは思いたくない。だから、早く行けっ!行ってくれ!
「そろそろ、私も行きますがいいでしょうかミカエル様?」
「ああ、混雑も大分収まってきたようだしもういいぞ。安心したぞ、お前が部下を無視して我先にと駆け出したりしたら困るからな。まあそこはお前だからあまり心配はしてなかった」
「はい、ミカエル様の御心は私の心ですから。それでは行ってまいります」
ゼルエルはそう言うと、プレゼントの山へ歩き出した。早歩きというか半分走っているようにも見えたが。まあここまで我慢してくれたのだ無理もあるまい。私の心を汲み取り尊重してくれる彼女はミカエルにとっては頼もしい部下である。
「ミカエル様、ミカエル様、ミカエル様」
ミカエルから離れたことでようやく歯がゆい状況から解放された。周りにはばれない様一見、なんにも気にしていないような表情を出しながら周りに不信感を持たれぬよう落ち着いて歩いているように見せながら出来るだけ速くプレゼントの山へ向かう。
ようやく、着いた。本当であれば最初の天使たちのように駆け出したかった。その衝動をなんとか抑えていたがもう抑えきれない。ゼルエルは必死に目を左右にせわしなく動かしプレゼントの山全体を確認する。勿論、お目当てはミカエル様のプレゼントだ。
最初に駆け出した天使達の目当ても恐らく四大天使のプレゼント。あの時誰かに取られていたらおしまいだ。そこは私とミカエル様の間の運命力を信じるほかない。
心頭滅却、心頭滅却、心頭滅却、ミカエル様のプレゼントはどれだ?
「これだっ!」
ゼルエルが手にしたのは凝った装飾も一切ない赤色の包装の小包だ。ミカエル様ならこれを選ぶとゼルエルが勝手に想像して決めた。どうかそうであってくれと思いながらゼルエルはミカエルのいる場所に戻る。
「ミカエル様、ミカエル様の出したプレゼントはこれでしょうか?」
「いや、全然違う」
(がああああああああああああああんん)
私、明日切腹します。いや、ミカエル様が悲しむので実際にはしませんがそういう気分です・・・・・・。ミカエル様の前なのでがっくりした表情はできなかったが心の中は沈んでいる。
「ははは、私のでは無かったがこれの中身は一体なんなのだ?」
「え―っと、これはなにかの置物でしょうか?」
出てきたのは二匹のカップルのような装いの犬と猫をかたどった置物だ。
「なにやら紙も入ってるぞ。どれどれ、この置物を自室に置いておくと想い人との関係が上手くいくようになります。だそうだ。よかったなゼルエルいいものを貰ったじゃないか」
「はい、そうですね。変なのよりはましです」
「で、ゼルエルにはそういうのはいるのか?」
「ああ、いや、今話すことでもないでしょう」
「そうか、まあいい。いづれ教えてくれ私も応援している」
いや、私はミカエル様を慕っているだけであってそういう関係になりたいとは。プレゼントもそう、あれだ憧れの人からサインを貰いたいみたいなそういう感情だっただけで。しかし何故今否定をしたんだ?自分でも分からない。まあ、いい。想い人は取り敢えず「ミカエル様」だと解釈しておこう。そうすれば来年、私はミカエル様ともっとお近づきになれる。あれっ?でも、私はもうミカエル様の側近という十分すぎる位置にいるのでは。これ以上お近づきになるといったらそれってもう・・・・・・。ゼルエルは必死に顔を平静に保ちつつ心の中で自分の劣情と格闘していた。
「あら?私のプレゼントはゼルエルちゃんが受け取ったのね」
「ウリエル様が送ったのはあれですか?」
「そう、いいじゃない?クリスマスにぴったりなものでしょう」
「そうなのですか?」
「ええ、それにしてもゼルエルちゃんって恋人の類はいるのかしら」
「どうでしょうか?私は聞いたことありませんが。本人は恋愛に無縁そうな人ですし」
「そういう人にこそいたりするものよ。今度聞いてみようかしら?」
そんなウリエルとアラーチェのやり取りをよそにプレゼントの山は着々と消えていく。
(早く行けっ!ガブリエル)
プレゼントの山もあと少しだというのにガブリエルミカエル双方動く気配なし。ミカエルはガブリエルの様子を時々ちらちらと横目で見るが動こうとしていない。あいつと同じ考えだとは思いたくない。
「プレゼント残り2つ!まだ受け取っていない人は誰かなあ?」
場内に響くラファエルの声にミカエルははっとした。
(しまった・・・・・・)
こんなことをやってる間にもうこんなに。
プレゼントの山は綺麗さっぱり無くなり、もうプレゼントボックスは2つ残されているばかりだ。ミカエルはそ―っとガブリエルの方を見る。______やっぱり持っていない。気まずい。しかも今ガブリエルと目があった。お互いに目を逸らしたが目が合ってしまったという事実は崩れない。最悪だ。
「ミカエルとガブリエルまだもらってないの?早く早く!」
そんな内情知ったことかとラファエルがプレゼントをぶんぶんと振り回しながらミカエル達に呼びかける。仕方ない、これ以上天軍の皆に待たせるのはいけないだろう。
覚悟を決めてプレゼントを目指す。ガブリエルの方も歩き出したように見えたがあえて無視。二つのプレゼントは赤い包装の長い包みとリボンで結ばれた袋のような包みがある。
私より先にガブリエルがプレゼントへ向かう。この気まずい状況を早く終わらせたいということだろうか。向かう先は・・・・・・ミカエルはガブリエルから目を離しもう一つのプレゼントに向かう。
誰のプレゼントか天使達がざわめく中、ミカエルとガブリエルがプレゼントを手に持つ。目線がガブリエルと合う。私とガブリエルの仲は悪いがこんな天軍が一堂に会する場で喧嘩するほど分別に欠く真似はしない。
「「こほん」」
両者咳払いで誤魔化しながら視線を再び逸らし元の席に戻る。咳払いの部分までシンクロするのはいただけない。まるで似た者同士とでもいいたげだ。あちらがわざと被せてきたと思う事にした。
席に座り、袋に巻かれたリボンを取りプレゼントを開ける。こういうのはさっさと見るに限る。ミカエルはプレゼントの中身をすぐ見ないと気が済まないタイプだ。
プレゼントの中身は美しい氷を模したデザインの小さいネックレスだ。なるほどこれは綺麗なデザインだ。送り主のセンスはいい。普段から身につけるのは難しいが、このデザインなら社交場やらで身に着けて行けそうである。普段はそういうのには毛ほど興味が無いがせっかく贈られてきたものなのだ、使っていこう。
プレゼントの中身はともかく、一つ納得いかないことがある。ミカエルは元の席に戻りプレゼントの赤い包装を開き丁寧に開封しているガブリエルを見る。開封せずともウリエルにはその中身が分かる。何故ならあれはミカエルが贈ったプレゼントだからだ。
(いや、なんであいつがっ!?どうして最後まで残っていた。折角頑張って選んできたというのにっ)
ガブリエルの手に入れたプレゼントの中身は腕時計だった。これはまた実用的なプレゼントだ。見た感じ、値はそこまで張るような品物ではないが、デザインはよく出来ており少なくとも安物っぽさはない。選んだ者のセンスはいい。これなら日常的に使ってもいいだろう。しかし、今はそんなことはどうでもいいという気分だ。何故なら目の前で気にくわないことが起きているからだ。
ミカエルが持っているあのネックレスは自分が用意したプレゼントだ。よりにもよってミカエルがあれを手にした。いや、二つ残った時点で結末は決まっていた。自分のプレゼントを取るという選択肢もあったが、ミカエルが自分のプレゼント目掛けて歩き出したので行くに行けなかった。そもそも自分のプレゼントを取りに行くのはいくらなんでもこの交換会の意味を損なう。もう一つ他人の物があるのは分かっているわけでそんな中自分の物をとるのはどうなのだろう?と思った。結果、ガブリエルはもう一つのプレゼントを手にするしかなかった。
まあそのプレゼントを手にしなければ今頃この腕時計は手に入らなかったわけだが。ガブリエルはプレゼントである腕時計を見つめる。悪くない、これが手に入ったならばミカエルに自分のプレゼントを貰われても後悔は無い。そうガブリエルは思う事にした。
「クリスマスパーティーもあっという間に終わってしまいましたね」
「やだやだっ!終わりたくない」
「ラファエルも駄々をこねないの」
ラファエルがどことなく不機嫌なのはあの大きなプレゼントの中身が大きなサンドバッグだったからだ。男ならともかく女性の天使には無用の長物だ。大きければいいというものじゃない。この点ではミカエル達の貰ったプレゼントの方がましである。双方、自分のプレゼントを一番あげたくない人物に貰われたという不満点はあるが。逆に一番いいものを手に入れていたのはウリエルだ。「主神ラーの治める黄金郷への旅行券」ぶっちぎりの当たりを引いていた。
「機会があったら行きましょうかね。前から気になってたんですよ」
「ウリエルはいいよな、特に不満も無くいいプレゼントを貰えて」
「あら?ミカエルも結構いいもの貰ってるじゃない?そんな大きな不満とか出るもの?」
「いや、そういうことじゃなくて______いや、なんでもない忘れてくれ」
「?」
幸いウリエルはプレゼントの中身を知らない。ミカエルとプレゼントを探しにに行った時もお互いプレゼントをなににしたかは言わなかった。交換会の楽しみが無くなってしまうからとかでだ。だから彼女には嫌な意味での奇跡が起きたことは知られていない。
ウリエルに聞かれたら絶対に面白がられて一生の語り草になる。しかも近くにいるガブリエルに聞かれる可能性もある。言わぬが花、禍根は残さぬよう一生、プレゼントの送り主については言わないようにしよう。
「ミカエルは一度きりって言ったけど僕は毎年やりたいっ」
「そうですね、もう天軍の恒例行事にしてもいいんじゃないですか?」
「こんなのを恒例行事にするか!もういいだろ。ラファエルはプレゼントのこと引きづってるだけだろうし」
「そうですね、プレゼント交換とかもういいです」
ガブリエルもどちらかといえばシュクレのスイーツが目当てだったからか反対しているようだ。いや、意見まで被るのは流石に。
「ガブリエルがそう言うなら私はパーティー賛成派で」
「はあっ!?あなたが言ったことでしょうが」
「なんかここまで同じ考えなのは不気味だしな」
「なにそれっ!?」
「まあまあ、でも年に一度クリスマスくらいこういうイベントがあってもいいじゃないですか。それにミカエル達もプレゼントいいもの貰えなかったんでしょう?なら次にリベンジするというのもいいんじゃないかしら?」
「・・・・・・リベンジ」
流石に来年も同じことが起こるとは思えない。次のプレゼント交換会でこのことを水に流すということも______流石にそんなことは出来ないと思うが。
「ガブリエルもご希望なら毎年のクリスマスパーティーでシュクレのスイーツを出すくらいするけどどう?」
「うっ・・・・・・なら、仕方ないわね。その代わり絶対よ」
ガブリエル、あっさり陥落。
「ミカエル総指揮官、あなたはどうですか?」
ウリエルの問いかけにミカエルはクリスマスパーティー会場の楽しそうな天軍の天使たちを見る。私も、なんだかんだ楽しかった。こんな催しが毎年あったっていいかもしれない。
「______分かった、ミカエルの名のもとに天軍ではこれから毎年クリスマスパーティーを開くことを宣言する」
「やったあああああ!!」
ラファエルの歓喜する声をあげた。天軍の天使達もそれに倣い大きい歓声を上げた。
「それじゃあっパーティーも終わったことだしみんな帰ろっ」
「おおおおっ!」
ラファエルは天軍の天使たちと共に帰路へ着こうと出口に行こうとする。
「おいまてっ」
ラファエルの耳を誰かに掴まれる。
「ミ、ミカエル?なあに?」
ラファエルが恐る恐る振り返るとミカエルが険しい表情を浮かべてる。
「やり残してることがあるよな?」
「や・・・・・・やり残してること?」
ラファエルは咄嗟にとぼけるが、ミカエルの表情は変わらない。いや、怒りの形相に一歩近づいた気がする。
「私は約束したはずだ。パーティーは許可するが、後でちゃんとここの片づけをしろとな」
「はっははっそんなことミカエル言ったっけ?」
ラファエルは冷や汗をたらしながら眼下のクリスマスパーティーの会場を見る。ものがごちゃごちゃに散乱している。量を鑑みてもどれくらいの時間がかかるだろうか?想像したくもない。パーティーでもう体はくたくたなのだ。だが______。
「言ったぞ?」
今のミカエルはそんな理由で免除したりはしてくれなさそうだ。
「アツッ」 「わあ!?」
嫌な予感を察した天使達が出口に我先にと向かおうとしたが会場の出入り口の扉が炎に包まれる。炎をつかさどるミカエルの力によるものだ。これでもう会場から出れる者はいない。
「全員会場の片づけだっ!終わるまで陽の目を見れないと思えっ」
神にミカエルに慈悲というものは無かった。
クリスマスパーティー後、ミカエルによる地獄の後片付けが待っていたのはまた別の話である。