時の狭間にて

文字数 9,792文字

 ここはとある戦場、どこもかしこも魔法と剣のぶつかりあう音が聞こえる。荒れ地でぶつかりあう血肉の争いをよそに無愛想な少年が一人、機械仕掛けの杖を引きずりながら歩いている。目的も無く行くあてもない彼はその何万回も見たその光景に一人ため息をついた。
 何故争いは続くのか?最初の頃はエンデガも時空操術を使い戦争を止めようとしたりした。しかし、今となっては諦めている。彼らが争いを止めることはないからである。そうだと知った日から彼は助けることを止めた。
 エンデガは喧騒から逃れるべく、時を飛ばすことにした。彼にとって、このくらい造作もないことだった。
「うん?」
 エンデガが違和感に気づき、周りを見る。彼のいた場所はとても奇妙な所だ。上も下も関係なく網目模様の空間が見渡すかぎり余すことなく地の果てまで広がり、至る所に無数の歯車が配置されている。それらはギコギコと音を立てながら規則正しく回っている。エンデガの立っている場所の足下にはなにもない。にもかかわらず奈落の底へ落ちず立っていられるのは一体、どういう原理だろうか?
 時空操術が失敗した、というのはありえないだろう。数え切れない回数使ったのだから断言できる。しかし成功したとして数年で戦場がこんな奇天烈な世界になることがありえるだろうか?
 
「いらっしゃーい歓迎するわよ!」
 その答えはすぐそこにあった。エンデガは空を見上げる(そもそもここに空という概念があるのだろうか?)と、そこには褐色肌の女性が一人ニコニコしながら浮かんでいた。彼女は大きな機械仕掛けの時計の上に足を組んで座っていた。頭に生えている山羊の角が印象的、恐らく悪魔の類だ。
「なんなんですか?」
「うわぁ!無愛想で素っ気なーいもっと笑顔で生きなさいよう」
 エンデガの返しに対して女はうざいテンションで話し続ける。
「ここはどこですか?僕はあなたと話す気はありません、元の場所に帰してください」
「嫌よ、私はあなたとお話するためにここに招いたんだから。だから私とお話するまで返しませーん」
「話すなら今しただろ」
「私はーあなたの事をーもっと知りたいのーだからあなたへの興味が尽きるまで帰・し・ま・せ・ん」

 なんて身勝手な奴なのだろうか?さすがは悪魔。勝手に呼び出して興味が無くなるまで居続けなければいけないとは。
 エンデガは面倒くさそうに頭をかきつつその場で腰を下ろした。
「_________手早くしてください」
「そんなに早く返さないわよ♪あたしはそんな浮気性じゃないんだから。私の名はエルロージュこれからよろしく」
 むしろさっさと自分への興味を無くしてほしいそんなエンデガの願い叶わず何時間経ってもエルロージュは彼を帰す気配すらない。
「・・・・・・」
「あら、それが例の時空操術なの?確かにとんでもない力だけど同じように時間干渉できる私には効かないわよ?」
 いよいよ強行突破に打ってでるも彼女もエンデガと同じような時間を操る能力を持っているため相殺された。
「なんなんですか?一体」
 いつもはめったに怒ることすらしないエンデガの堪忍袋の尾も今は切れそうだ。
「さっきも言ったとおりよ、あなたとお話したいの。そうそう、あなたのその時空操術どういう経緯で手に入れ」
「_________もういいです、早く返してください」
「つれないなあ、お互いに時間を操れるという共通点を持つ者同士気が合うと思ったんだけどなあ」
「合うわけない、僕とあんたは違う」
「ふーん、どこが?」
「僕はあなたのように興味本位で人の運命を変えたりしない、みだりに時間を操ろうとは思わない」
 エルロージュはエンデガに一方的に話しかけている間、様々な生物の運命に悪戯感覚で介入しているという話をした。
 ある魔族に干渉しバナナの皮を踏ませ転ばせたりある旅人を森で一週間迷わせたりと全て悪趣味な悪戯程度の干渉だ。しかし、時をむやみやたらに操って運命を歪めているのも事実である。個人で誰にも迷惑をかけず使う分にはいい、だがそれらに他人を巻き込むことはエンデガにとって許されない事だった。
「そう、でもあなただってさっき戦争の真っ只中で時を跳ぼうとしたじゃない、あれはなんだったの?」
「______僕は戦争を何度も見るのは好きじゃないから、それだけです」
「つまり、戦争の最中にいたくないから逃れようとして戦争後の世界まで時を越えようとしたってこと?しょぼっ!」
「_________いいんですよ、しょぼい位で。僕らの持っている時間操作の術は世界では禁忌とされているもの使うにしてもそれくらい」
「うーん、そう。まあ私とあなたの考えが違うことは認めるわあ」
「分かったならもう出してくれないか?僕とあんたじゃ話は合わないんだからさ」
「でもねえ、私あなたのこと気になるしい_________ああ、そうだ!」
 エルロージュはなにか名案を思い浮かべたとばかりの笑顔を見せ指を鳴らしたと同時に空間にあった歯車が一斉に動きを変えた。どことなく耳障りの悪い軋んだ音が響くなか、空間の中に一人の金髪の幼女が姿を表した。
「久しぶりねえ、ウィブサニア」
 エルロージュは親しげに彼女に話しかける。
「久しぶり、エルロージュ」
 対するウィブサニアも軽く会釈しながら返事を返す。
「そーんな畏まらなくていいのよお_________ふーん今日は子供の姿なのね」
「ええ、また因果が変わったの」
「_________それで、こいつはなんだ?どうして呼んだ?いちから説明してくれよ」
 状況に追いつけていないエンデガはエルロージュに問いかける。
「この娘はエルロージュ、あなたや私と同じ時間や運命を司る者。あなたが私と根本的に合わないというからね代わりに話し相手になれそうな人を探してきたのよ」
「余計なことを……」
 エンデガとしては一刻も早くここから出たいのだが。エルロージュはともかく呼びだされた相手が不憫でならない。少しでも会話をするべきか。_________もっともなにを話せばいいのかという話だが。
「えっと、そこにいるのは……」
 エルロージュと呼ばれる少女はエンデガに目を向ける。
「・・・・・・!!」
 彼女は咄嗟に目を背け、俯いた。
「あら?あらあらあら」
 その反応が予想外だったのかエルロージュは驚いた様子を見せた。
「もしかしてあなた達お知り合い?なんかあったの?」
「いや、知らないよ僕は。あんな娘見たことない。いきなり嫌われてるようだけど、話し相手になれるの」
 エンデガからすれば身に覚えもないのに初対面の相手に拒絶されているのだ、不快感も感じる。
「ウィブサニア、あなたはどうなの」
 少女は頭を横に振った。
「いえ、なんでもありません。つい、動揺を。その人とは今日初めて会いました」
 どこか含みのある言葉だったがエンデガも追求する気はないので無視した。ウィブサニアは改めてエンデガと向き合った。だがどことなく距離を置かれている気がする。絶対に彼女との間になにかあったと思うが少なくともエンデガの記憶には無い。
「改めまして彼はエンデガ、私たちと同じように時を操ったり観測する事ができるいわばお仲間でーす」
「いつの間にお前らに仲間扱いされるのは不本意だ、というかこのまま続けるのか」
 意味深なハプニングがあったにも関わらず普通に話を始めるあたりこの悪魔は空気が読めない。明らかになにか地雷がありそうな2人を積極的に関わらせようとしている。
「_________それは分かりましたが、それでどうしろと」
 どことなく気まずい雰囲気が流れている。
「いやー私ねそこのエンデガ君って少年に今日会ってさ彼、妙な時間を操る能力を見せたからさ連れてきて色々聞いてみたの」
「あなたは相変わらずですね」
 エルロージュ、奴はこんな事をしょっちゅうやっているらしい。そのうち誰かに目を付けられて討伐されそうだ。
「でもさあ、彼ったら他人の歴史や運命に干渉するなだのうるさくてさあ挙げ句の果てには私とあなたは違うから話は合わないとか言い出すのよお。だ・か・らあなたと会わせたら話も盛り上がるかなあ、と。あなたも似たような考えだったわよね?」
 ウィブサニアは返答に迷った様子だったが黙っているわけにもいかないのか口を開いた。
「いいえ、違いますよ」
 またしても意外な反応にエルロージュは大きく口を開けた。
「あら、そうなの?でもあなたも運命をむやみに変えるなっていっつもあたしに言ってたじゃない。それが運命の観測者の役割だって」
「いえ、私は生まれた時から全ての運命を見通し、見届けてきた。その人が例えどんな辛い人生を歩むのを分かっていようと私は彼らを応援し見守ることに徹している。その宿運に介入したことは一度だってありません。人の身にとってこんな力を持ってはいけないのだから」
「あら、ならエンデガ君とおんなじ考えじゃない」
 エルロージュは不思議そうに尋ねた。確かにエンデガの考えも殆ど同じようなものだ。
「_________彼はこの考えを最初から持ってはいない。彼は元々いろんな者の因果律を捻曲げてきた。そんな彼がこの主張をするのが_________許さない
 語尾が強い、エンデガに対する強い否定。
「へえ、エンデガ君もそーいうのをやってきたのねえ若い頃はやんちゃしてましたあ!的な?うん、でも君まだまだ若いねえ外見」
 往々にして時を操る人間は妙に若い。身体の年齢が止まっていたりそもそも「人間」というカテゴリーから変質していたり。それらは代償なのかもしれない。この世界の「禁忌」に触れてしまった故に。

「……ええ、僕は昔やったことがあります。その結果、多数の人の運命を狂わせた。その中には_________とにかく僕は禁忌を侵した。だからあれ以降、僕はそれを封印した。他人の運命を操るのを止めました。そして他人がするのも」
「あちゃー、つまりそれが原因で他人の人生を変える奴が嫌いになったのかー」
「でも、それは過去の自分を見て見ぬふりをしているだけでしょう」
 納得したようなエルロージュ、それに対してウィブサニアは辛辣だ。
「珍しっ、ウィブサニアはこんな怒りっぽくないのにあなたよっぽど非道いことしたのねえ」
 くすくすと笑いながら煽る。まさかこんな状況になることを分かっていたんじゃないだろうなという疑念が生まれる。そして、エンデガは言われ放題で面白いわけがない。
「_________なんですか、いきなりこんな場所に飛ばされて挙げ句の果てにはこんな分かりきった事を言われ……僕は知らなかった!時を操るというのがこんなにも罪深い事だったって!だから、僕はその体験から僕は」
「でも、あなたが歪めてしまった人々の人生は変わることはない」
「_________________________________!!」
 分かっている。しかし他の者から弾劾されたことは今までない。エンデガが時を自在に行き来できる事を知ってる者など殆どいないのだから。
「そんなの、今は分かって」
 時空操術はなにもかも思い通りにはならない。例えば変えることのできない運命もある。しかしそれに気づいた時にはもう、遅かった。彼はあまりにも多くの人間を元の歴史から「改変」してしまった。中には名前も知らない他人のものですらも。
「_________あ、ああ」
 彼女達の言うとおり自分のことを棚にあげているだけかもしれない。それでも、彼は彼女達の言葉を否定したいともがく。
「だけど、だったらなんで、それをエルロージュに言わない。あいつだって変えているだろう!!」
「確かにエルロージュもどうかとは思うわ、もっと自重しなさい」
「えへへー怒られたあ」
「でも、エンデガあなたとは違う。彼女は悪戯はすれど致命的な歪みは起こさないし深くは介入しない。誰かを殺したり誰かだけを助けるために力をふるうことはない」
 言葉の茨が心に突き刺さる。ここから逃げ出したい。しかし、できない。ここはエルロージュの作り出した空間の中、頼りの「時空操術」も使えない。そもそも、何故この機に及んで僕はまたこの術を使おうと考えた?まさか、僕はまだ真の意味で反省していないのか。
「あなた達もエルロージュも言ったようにある意味お仲間じゃないですか、なんで、僕をそこまで否定するんだ」
「それも違う」
「どこがあっ!!!!」
 つい、似つかわしくない怒鳴り声をあげてしまった。
「私は生まれつきこの力を持っている。望んで得たわけでもない。生まれた時からこの宿命は決まっていた。人の運命を観測することを。でも、あなたは元々持っていたわけではない。選択肢があった。いくらでも」
「・・・・・・」
 そうだ、僕だって時空操術を手に入れようとする間考えたことがあった。もしかしたら他の選択肢があったんじゃないかと。それでも、結局自分の道を疑うことはなかった。後戻りしようとは思わなかった。その先に必ず明るい未来が待ってるはずだと。
「エルロージュは」
「あたしは生まれた時からずーっとここ時の狭間にいるわあ、まああたしも生まれつきと言えるかしらあ」

 分かってしまった。この空間に集う三人、全員が時を操る冒涜者。しかしエンデガと他の二人の間には深い溝がある。定められた運命か自分で選んだ運命か。エンデガが彼女達に時間を歪めることに対してなにか言う権利など最初から無かった。

「……だからって」
 それでもエンデガは怒りに染まっていた。彼がこの時空操術を欲した理由は家族と会いたかったからだ。もう一度話したかったからだ。禁忌を犯してでもそうしたかった。その、気持ちまで否定されるのは許せなかった。
「家族と再会したかったから、そんな、理由が、あっても、だめだと?」
「ええ、結果的にその家族のみならず様々な人に影響を与えてしまったからですそれも悪い方向に」


 エンデガの心は爆発した。
「なら、なんでもっと早く言ってくれたんですか!もっと早くそれに気づいていれば、僕は正しく居続けられたんだ!あんたは、他人の辿る人生を見れるんだろう?なんで、僕を助けなかった!そうすれば間違わずにすんだ、そう、済んだんだ……」

 いつの間にかエンデガは泣き出していた。年甲斐もなく。少し時が経ち泣き止んだ時、ウィブサニアの方を見ると、なんと彼女も泣いていた。エンデガと違って涙が一筋、頬を伝う程度のものだったが。顔はとても悲しそうな表情だった。
 エンデガは何故、と言おうとした矢先どんっ!と大きな爆発音が響いた。鼓膜が破れそうな音、耳を塞ぐも押さえ切れない。頭がくらくらする。

「なんだ、次は一体?」
「あら、私も知らないわよ。なにかしら?」
 エルロージュに疑惑の目を向けるも彼女もなんなのか分からないようだった。
 そこにはカプセル状のなにかが浮かんでいた。そうこうしているうちにカプセルの扉が開き中から人が飛び出してきた。

「はっはー!到着、二千年後の世界ぃ!!うん?」

 それは白衣を着た女性だった。女性はあたりの奇妙な空間を見回しなんともいえない表情をつくった。
「うん、いやあ、なにこれ。二千年後はこんな事になっているのかあ、いやあこれはもしかしてだけどもしかすると世界滅んでる?」
「違うわあ、ここは時の狭間。時間の交わる交差点よお」
「おっ、第一未来人発見!接触を試みる。あなたは誰?言語、分かるのか?」
「私はエルロージュよ、さっきも言ったとおりここは時の狭間、二千年後の世界じゃないわ」
「ほう、そうなのか。時の狭間とはいったい、ともかく私も自己紹介しなければな。私はアルキメデス!見てくれの通り天才科学者だ」
 自分で天才と言うあたり自尊心が高そうだ。恐らくなにも知らずにこんな変な空間に来たというのに妙に適応力が高い。エンデガでも最初ここに来た時は内心もっと慌てていたと思うのだが。なんなんだ、次から次へと。まさかとは思うがこいつも時間を操る類の力を持っているのだろうか?時空操術を自慢に思ったことも誇らしげに思ったこともはないがここまで多く同じような力を持つ者がいるとこの術の価値も大きく下がりそうだ。 
「ふーん、それであなたはなんでこの空間に来れたの?」
「む、それはだなあちょっと未来を見てみようとこの「タイムマシン4号」を使ったらここに来ただけだ。……ふうむ、どこに問題があったのだ?ごにょごにょごにょ……」

 最後のほうでアルキメデスはぶつぶつ言いながら設計図らしきものを取り出した。言っている言葉は科学に疎いエンデガ達にとって意味不明だ。どうしたものかという状況の中エルロージュはうきうきしながら話しかける。彼女は思わぬ出来事にむしろわくわくして楽しんでそうだ。

「面白そうだしこの人にもこの命題について質問してみようかしら。ねえ、アルキメデスちゃんあなたは過去や未来へ行って人々の運命を変えてしまうことをどう思うのかしらあ」
「うん?私は哲学は専門外なのだが」
 アルキメデスは難しそうに顔をしかめる。
「ふむ、ただまあ私は別にいいと思っているぞ」
「_________それは何故?」「どうしてだ」
 エンデガとウィブサニアの声がはもった。お互い驚いたように顔を見合わせる。
「うーむ、そうだな上手く言葉には表現できないが」
 アルキメデスは図面から目を離す。
「私はタイムパラドックスというものがあると考えている。仮に歴史を大きく変えたとしてもどこかで元の歴史まで修正されるのではないかと。もしも大きくずれたとしても世界が分岐するだけだとね。だから少し歴史が歪んだとして問題は無いと。まあこれはただの仮説だからどちらにせよ研究しないことには分からないのだが。だが、仮に違うと分かったのなら。その時にまたこの問題を考えよう。そこで時を渡るのは禁じたり問題点を直していく。もっとも、最初から問題が起きないように努力はするべきだがね」
「それは、起きてからでは遅いのでは?そのタイムパラドックスというのが違ったら歴史が改変されるんです。人々の運命が変わってしまうのです」
「それもそうだ。議論は重ねるしリスクマネジメントもしっかりする。問題は起きないよう徹底すべきだ。それでも問題は起きるかもしれない。特にこの問題は非常に根が深い。人によって大きく意見が異なるし正解もない。タイムスリップなんて人智を超えた技術で手を出さないほうがよいかもしれないとも。私も彼らの意見を否定する気はない。人にはそれぞれ意見があってしかるべきだろうし私にとって理解できなくてもそれが他の人には共感できるかもしれないしなにより真実は分からないからね。だがね、これは私の科学者としての性分なのだがなにもしないなにも分からないというのを許せないのだ」
「許せ……ない?」
「ああ、許さない。なにも分からないままにしておくのは。本当かどうか確かめたいのさ理屈はどうこうというより。科学は先人たちの知りたいという好奇心が積み上げてきたものだ。立ち止まればそこで終わってしまう。このタイムパラドックスという考えも誰かがタイムスリップの理屈を知りたいと思って考えた結果生み出された予想図なのだから。私はその予想図が本当に正しいのか知りたいのさ。知りたいのなら試すしかないのさ。だからこうして今試している。もっとも、失敗してこうなってしまったが。いやしかしどうしたものか。」

 アルキメデスはそう言うと再び目線を設計図に落としひたすら考えていた。アルキメデスは天才科学者らしいが普通の人間だ。エンデガ達時の観測者と違って真相を知るわけではない。だから彼らとは考えが大きく異なるのだろう。
 それでも彼女は彼女なりの考えを持っていた。相対する意見にも理解を示しながら。失敗の可能性も頭の中に入れながらそれでも知りたいという欲求が彼女を突き動かす。家族を救いたいという一心で時間を操る事を決めたエンデガ、産まれた時から時の観測者の運命を背負った二人とも違う。理解しても共感はできないだろう。でも彼女は言った。人にはそれぞれ意見があると。
「_________僕はあまり共感できません。人の運命を変えるなんて、元の歴史を改竄するなんてしたくないしさせたくない」
「そうか、それが君の意見か。私とは違うね。でもそれが君の人生から導き出した答えなのなら否定はしないさ。でも私は私の道を信じる。その先に成功があると信じて。間違ってたなら反省し次に生かす。人生は失敗してそこで終わりじゃないんだからな」
「僕は、そう、時を操れるんです。それで、そうした結果多くの人を不幸にした。だから僕はそうして欲しくない」
 エンデガは少し震えた声で告白した。アルキメデスは彼の言葉に顔を上げ目を丸くした。
「君、時を操れる?とても気になるのだが。そうか、それが君の経験測か。一考の余地はあるな。その意見はとても参考になる。詳しく聞かせてほしい。タイムスリップの問題点が分かるかもしれない」
「諦めはしないのですね?」
 ウィブサニアが口を挟む。
「ああ、彼はタイムスリップで多くの人を不幸にしてしまった。それは明確な失敗だ。だからこそ、彼の歩んだ経験を知りそれを元に私は今度は皆を幸せにするタイムスリップを作りたいのだ!」
 彼女がタイムマシンを作るという夢は止まることはないだろう。それはエンデガやウィブサニアの考えとは大きく反する。好奇心があっても安易に手を出すのは御法度な技術だ。でも彼女は人々を幸せにしようともしている。そういう思いもある。

 _________彼女も一つの考えなのだろう。この空間にいる者はみんな考えが違う。致命的な失敗を犯し、それをきっかけに人の運命を変えるのに否定的になったエンデガ。生まれた時から人々の宿命が見えそれでも干渉せず見守ることを選んだウィブサニア。人々の運命を見て、ときには触れ合いちょっとした悪戯をしてその様子を鑑賞する。楽しむことを選んだエルロージュ。様々な考えを聞いたうえで自分の心を貫き通しタイムマシンの完成を目指すアルキメデス。
 誰が正しいのかは分からない。みんなそれぞれの道を歩むのだろう。

 またしても大きな爆音が響いた。
「これ、は」
「ありゃりゃ、アルキメデスちゃんのタイムマシンとやらが来たせいでこの空間に穴が開いちゃったのね」
 エンデガ達の周囲の無機質な背景がボロボロと崩れはじめ大きな穴が開いた。穴の先には真っ白な光しか見えないがどこに繋がっているのだろうか?
「これ、僕たちはどうなるんだ?」
「むう、とうとう私もここまでか。私の人生、一片も悔いはないっ!」
 アルキメデスは腹を括ったと言わんばかりに目を瞑る。
「諦めるの早すぎだろ。死を受け入れるの早すぎだろ。さっきの演説であんたの事ちょっと尊敬しかけたがあんたも頭のねじどっか外れてないか」
「大丈夫よお、この穴に落ちても時の狭間に招待されるまえの場所に戻るだけよ。残念、私はもっとお話したかったのにい」
「……そうかお別れか」

 エンデガ達は穴の中に沈んでいく。エルロージュだけはその場に留まっていた。
「またねぇ!」
 エルロージュは帰還するエンデガ達に手を振った。彼女はとても満足気だった。

「エンデガ、私はあなたの事を悪く言いすぎたわごめんなさい」
 隣にいたウィブサニアは申し訳なさそうにしていた。
「いや、僕も悪かったよ」
「また今度会ったときはもっとお話しましょう」
「そうだな、そうすることにするよ」
 今度の機会はいつになるか分からないが、お互い寿命という概念がほとんどない者同士いつかきっと再び会うだろう。
「いやあ、今日は驚かせてばかりだ。時の狭間とは?時間を操れる者がいる。興味が尽きないな」
 アルキメデスは相変わらず興味津々に周囲を見渡しながらぶつぶつと呟いている。
 程なくしてエンデガ達三人は光に飲み込まれ、消えた。


 彼らには共通点がある。しかし、それぞれの考えは違う。この遭遇を経て彼らの考えはどうなりこれからどういった道を歩むのかそれは読者の想像に委ねることとする。

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 アプリの逆転オセロニアで今開催しているストーリー決戦「ウィブサニア」を読むと今回の話はより楽しめるかもしれません。
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