ああ、愛しき我が子たちへ

文字数 1,942文字

拝啓

お元気ですか?

今あなた達はどこを飛んでいるのでしょうか?
陸の上?海の上?
それとももしかしたら私の想像だにしない場所にいるかもしれません

そこでなにをしていますか?

元気に飛び回っていますか?

そうであって欲しいです。
そうでなければ早く元気になってほしいです。

もしかしたらもう家庭を持ち、私のように母親にもしくは父親になっているかもしれません。

母親になる我が娘達には母親の私から伝えたい。

夫はよく考えて決めなさい。

私も若い頃は色んなのとつるんでいたけれども夫は慎重に選んだわ。

夫は人生のパートナー。

生半可な気持ちで選んじゃだめよ。

力強く 
猛々しく 
優しくて
信頼できる
なによりあなた達が心から大好きだと思える

一生、ずっと寄り添えるような男を選びなさい。

私は母親だから父親になる息子たちにあまりアドバイスは出来ないけど、1つだけ言える事がある。

妻と仲良くしなさい。

…さっきと言っている事が同じ?

でもとっても大切な事よ。

不仲だと産まれてくる子供達にも迷惑がかかるし

あなたもそんな家族嫌でしょ?

…ああ…でも
自分の心を偽れとは言わないわよ。

不満があるなら妻に相談したっていいのよ。

時には…意見の対立で喧嘩する事もあるかも。

私だって夫と喧嘩した事あるもの

でも、本当に愛し合っているなら仲直りはすぐにできるわ

最後に

有名にならなくても、強くなくてもいい。

私の願いはたった一つ。

我が子達が幸せであればそれでいいの。

最後に



大母竜テレジアは大空を飛んでいる。
テレジアは浮いている真っ白な雲の中を通り抜けた。

太陽の光に目を細め、テレジアは下を向いた。
眼下には見渡す限り大きな大陸が広がっている。

我が子達はあの中のどこかで暮らしているのだろう。


竜は大人になったと認めた子供達を手頃な場所に置いていく。

知っている事があってもあえて子供達にはなにも言わない。
子供達にはこの世界を自分の力で旅をさせる事で知恵をつけさせる。

それが出来ないものはドロップアウト。
自然界でのドロップアウトとはすなわち死ぬという事だ。

自立させる為、竜はあえてなにも語らない。
テレジアが無言で立ち去る時、子供達は泣いていた。
大きな声でお母さん!お母さん!…と。

親と子供はこれ以降二度と会えない。
偶然、会うこともあるというがその確率は限りなく低い。

今の子たちは私の事をどう思っているのだろうか?

母竜は心の中で叫び、別れを惜しんだ。
言いたい事が沢山あった。
別れの言葉だけでも言いたかった。
せめて・・・一言でも。

それからというもの届く事の無い手紙を彼女は心に綴っている。

「テレジア、どうかしたか?」

併走している夫の竜が話しかけてきた。

「なんでもないわ」

子供達が旅立って一年。
私もそろそろ子供達から自立しなければ。


その時、テレジアははっとした。

「あれは・・・」


眼下の森の木々の間を小さい竜が飛んでいた。
白い飛竜だった。
大きさ的に旅立って一年の若い竜だ。

テレジアがそこまで考えた時、飛竜は木々に隠れた。

竜同士が会うと縄張り争いが発生する事が多々ある。
故にまだ弱い若竜は他の竜の気配を察すと争いに巻き込まれないように隠れるのだ。

どうもあの竜は見覚えがある気がする。
まさか・・・

「テレジア、そんなに目を見開いてどうしたのだ?」

テレジアは答えた。

「今、私の子供がいた気がするの」

「そうか・・・だが接触は止めておけ、再会した後ずっとつきまとわれたらあの別れの意味がないからな」

「私たちの子供がそんな事をすると思うの?」

「念の為だ、私も我が子を信じてはいるが接触はいかんだろ。
それに親離れして一年だ。彼らも覚悟はできているはずだ。よもや我々が戻る必要もない」

「じゃあこうしましょう」

テレジアは提案した。

「認識できない遠い場所から大きな声をあげるだと?」

「接触の禁止といっても直接接触だけでしょ?この方法なら大丈夫でしょう」

「むううう」

「あなたも本当は別れを惜しんでいたじゃない?大丈夫よ一言喋るだけだから」

「・・・分かった、一言だけだぞ?」

雲の中でテレジアはホバリングの状態で停止した。
思いっきり息を吸う。
テレジアが全力で叫べばここから辺りの地上一帯まで声が響くだろう。

「愛してる!!」

辺り一帯に響く。
横を見ると夫も叫んでいた。

・・・やっぱりあなたも同じ気持ちだったじゃない。

我が子達よさようなら。

敬具

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