#82 黒き森の伝説
文字数 8,654文字
「それ、もしかして本物のドラコーンの卵?」
ルブルムが俺の手の中を覗き込む。
ドラコーン……ルブルムからもらったカエルレウム師匠の本棚の知識を思い出す……って、ドラゴンのことか!
その写本は古いものだったからドラコーンって古い表現で記述されていたけど、このへんの言葉ではドラゴンの方が通りがいい。
というか、どうして俺、この卵石をルブルムにちゃんと見せていなかったんだ。
ロービンからは「魔術師が喜ぶもの」って聞いていたのに。
「ロービンがくれたんだ。お父さんからもらったって言ってたよ」
「使い魔にするの?」
ルブルムが「使い魔」という表現を使ったことで、カエルレウム師匠の蔵書内にあった情報を思い出す。
魔術師は強い信頼関係にある自分以外の生命体と『使い魔契約』を行うことができる。
『使い魔契約』を行うと、互いの位置を把握、五感の共有、魔法代償を預けることが可能になるが、使い魔が傷つけば、契約者本人の寿命の渦も傷つくことになるという表裏一体の魔術。
強い信頼関係を築くためには、生まれたときから一緒に過ごすのが特に有効で、対象の生物が卵生の場合、卵から育てる魔術師も少なくないという。
ドラコーンの卵は、産み落とされたあと、仔が生まれても良い環境が条件を満たすまでずっと石に擬態して成長を止めておくという記述も、その使い魔のとこに書いてあった。
そして、孵化条件を満たさなければずっと石のような状態で保存され続けるということは、運搬や取引にも適しているということで、その希少性もあり、魔術師のみならず王侯貴族からも非常に人気が高かった……そんな記述があったのを思い出す。
ルブルムは自分で読んで蓄積した知識だから簡単に思い出すことができるけれど、俺の場合、読んだ記憶を共有してもらっただけだから、今みたいにキーワードを元に記憶を検索してヒットして初めて、もらった知識をようやく思い出せるという回りくどさ。
いや……そうじゃないだろ。
キーワードをもらってアクセス可能ってことはだよ……検索キーワードをうまく設定できさえすれば、今みたいに後手に回らずに思い出せるってことだよな。
ドラゴンの別名……ドラコーン、ドラコ、ドラーコ……おおおっ、出てくる!
ドラゴンの卵の孵化、ドラコーンの卵の孵化、ドラコの卵の孵化……あったあった!
ドラゴン周りの文献は、古い写本が多いから、現在の一般的なラトウィヂ語をキーワードに思い出そうとしても引っかからないことが多いんだな。
で、その内容は……ドラコの卵は熱ではなく魔法代償を与えて孵化を促す……と。
ああ、そういうことか。
ゴーレムは日々、維持だけでも魔法代償を消費するって聞いていたから、毎晩、寝る前にゴーレム起動用の紅魔石 に魔法代償を補充していたんだけど、魔法代償の減りがやけに早いなとは思ってたんだよな。
最近は、寝る前だけじゃなく、朝昼晩のポーに魔法代償 をあげるときにも補充していたくらい。
「使い魔契約するときって、カエルレウム師匠に許可をいただく必要ってある?」
と、聞いてから気付く。
「あ、俺、『使い魔契約』の魔術は教えてもらってないや」
そう。今の俺にあるのは知識だけ。そういう魔術で契約をする、っていう。
「大丈夫。私、知っているから教えられる。カエルレウム様は、よく考えて使いなさいって教えてくれたから、禁止はしていない」
確かに。使い魔を攻撃されたら、俺の寿命の渦まで減っちゃうんだもんな。
やにわに、ルブルムが俺の手を取り魔法代償を集中する……伝わってくる。『使い魔契約』の魔術が……なるほど……こんな感じの魔術か。
ポーと契約したときの『契約の儀式』を構成する魔法と一部似たところがある。
もっともあっちは、複数人数で魔術を補助する魔術も発動していたから、全容はつかめてないんだけどね。
「ありがとう、ルブルム。伝わった」
「あとは、孵化を待つだけ。魔法代償は一度にたくさんあげてもダメで、少しずつずっと続けるのがいいって書いてあった。ドラゴンの親は、卵の周りに魔石をたくさん置くんだって」
魔石とドラゴンにそんな関係があったのか。
それなら、ドラゴンの卵石を持っていたロービンが、魔石を産出するスノドロッフの近くに住んでいるのも偶然ではないんだろうな。
俺は、紅魔石 に魔法代償を補充し、再び鞄へとしまった。
「そうそう。使い魔との意思疎通で気づいたんだけど、『遠話』って、距離が離れていても発動に必要な魔法代償って変わったりするの?」
「変わらない。どちらかが発動すると相手の持つ『遠話』が反応して、その反応が消える前に相手も発動すれば『遠話』が通じる」
「そしたら、『遠話』までの複雑なことしないで最初の相手へ反応送るだけくらいなら、単純な魔法にできるんじゃない?」
「……ある。その魔法はある。二本の枝を交差するように重ねて『発見報告』という魔法をかけると、片方の枝を折ったとき、もう一方の枝も折れるの。私やアルブムが寄らずの森を見回りして、魔物の発見をカエルレウム様へお知らせするときに使った」
「それだっ!」
詳しく聞くと、上に置いたほうの枝が発信側で、下に置いた方の枝が受信側。
効果時間は一日ほどしかないようだが、魔法が切れる前に発信側に同じ魔法を重ねてかければ、効果は継続するらしい。
ちなみに『遠話』が格納されている魔術師免状も、『遠話』を使わなくとも、一ヶ月に一ディエスは魔法代償を消費するんだって。
家電でいう待機電力みたいなものか。
連絡手段を確保できたことで方針が決まった。
ショゴちゃんは、ニュナムから二つ目の共同夜営地から、一日弱かけてマンクソム砦へと向かう。
騎馬二人はそのまま街道を進み、三つ目の共同夜営地から折り返して、さらに一日かけてマンクソム砦を目指す。
前者はマンクソム砦で情報収集し、ラビツが居ないことが分かればすぐに出発し、マンクソム砦・ギルフォド間で遠回り折り返し組と合流する。
ラビツを見つけたら、『発見報告』の枝を折って報告し、もう片方はすぐに駆けつける……前者が見つけた場合はマンクソム砦で合流し、後者が見つけた場合は三つ目の共同夜営地で合流する、という流れ。
砦ならともかく、道端でしかない共同夜営地で合流を待つように説得できる人ということで、騎馬の片方はメリアンで確定。
説得力という点ではクスフォード虹爵 の書状を持っているルブルムはショゴちゃん側だし、ロッキンさんたちがそもそもその護衛として派遣されていることを考慮すると、消去法で騎馬組のもうひとりはマドハトになった。
「マドハト、『発見報告』は覚えたか?」
「リテル様! 大丈夫です!」
目をキラッキラさせてマドハトは元気よく返事してくるが、正直、心配だ。
いくら気持ちを「楽しくないことも、考えなきゃいけない」に切り替えたとはいっても、そうそうすぐには変わらないものってのもある。
マドハトの体の弱さを知っているエクシ も、それとなく心配してる。
「わかった。私が代わりに行くよ。ロッキンさんとエクシさんと居るから、護衛を外したことにはならないでしょ?」
レムの優しさに助けられ、騎馬組は信頼と実績のメリアン&レムということになった。
ということで騎馬組の二人には仮眠を多めに取ってもらい、他のメンバーで夜通し、二つ目の共同夜営地を目指した。
二つ目の共同夜営地へ到着したのは、翌日の昼過ぎ。
馬のために少しゆっくりと休憩を取りながら、しっかりと昼食を食べる。
献立は時間を少しかけ、玉ねぎとえんどう豆とレンズの、アーモンドミルク風味のスープ。
それからジャガイモを焚き火の中に埋めて蒸したやつ幾つかと塩を小分けした小袋をお弁当としてメリアン達に渡しておく。
出掛けに甘えるレムをハグして、頑張れって応援して、食事の片付けをしてから再びショゴちゃんに乗り込んだ。
御者は順番で行い、御者を終えたら仮眠を取ることに決める。
ここから一日弱なので、夜通し走れば明日の午前中にはマンクソム砦へ着く計算。
途中、マンクソム砦から徒歩でニュナムへと向かう定期便馬車とすれ違ったくらいで他には特に何かに出会うこともなく、順調に日が暮れる。
その辺りからだんだんと周囲の森が濃くなってゆく。
街道は馬車が余裕ですれ違えるほどに広いのだが、両脇の生い茂る深い森は高さもあるせいで空が細い。
それよりもさらに細い月からのささやかな光など、とてもこの道までは届かない。
御者席の両側にある灯り箱 に油を補充して灯りを灯したが、馬の鼻先より向こうは闇が待ち構えているようにしか見えない。
フツーの異世界モノだったらこんなときは魔法で明るい光でも用意するのだろうが、明るさと効果時間とかかる魔法代償とを比較してみると、とてもじゃないけど魔法の光の常時発動は無理。
当然、馬車の速度も落とさざるを得ない。
「昼間と夜とじゃ移動速度、ずいぶんと変わっちゃいますよね……もしかして、あの夜営地で夜営して早朝出発してもそんなに変わらなかったりしたかもですね」
ロッキンさんが珍しく弱気なことを言い出した。
そのときは軽く流したんだけど、ロッキンさんの御者の番が近づくにつれ、あきらかに溜息が増えてゆく……たまりかねて尋ねてしまった。
「ロッキンさん、もしかしてマンクソム砦に何か嫌な思い出でも?」
上下の兄弟も皆、騎士としての修練を積んでいるって言ってたっけ。
例えば、マンクソム砦に兄弟がいて、その兄弟とは仲が良くないとしたら……なんて妄想が捗る前に、あっさりと答えられた。
「ああ、そんなに知られていないのですか。マンクソム砦付近の黒き森の伝説は……」
黒き森というのは、ここいら一帯を占める森の名称だが……少なくとも、ルブルムからもらった記憶の中にヒットするものはない。
「どんな伝説なんですか?」
「昔、黒き森に、地界 から移住してきた魔人集団が居たそうです……シュラットという、全身を毛に包まれた感じの格好をしていたって言われてます」
シュラット……利照 は初耳だけど、カエルレウム師匠の蔵書記憶の中に記述を見つけた。
元々は地界 の住人だが、こちらの世界 に居着くことの多い種族の一つ。
人型で、全身を毛に覆われている。森に棲み、旅人を惑わすことがある。
ロッキンさんの話は続く。
「そいつらは時々、旅人を惑わしたりするらしくって……マンクソム砦を作る際にその惑わしがかなり邪魔ということで、大規模な討伐戦が行われたんです……その後、黒き森の中に街道を通して、マンクソム砦は完成したとのことなんですが……その……夜になると、殺されたシュラットたちが黒き森に現れるって噂がありまして……私の故郷では、子供が遅くまで寝ないでいると、殺されたシュラットが黒き森からさらいにやって来るよ、という伝説が……」
なるほど。ストウ村でいうマンティコラみたいな存在なのか。
そしてロッキンさんがちょっと照れくさそうにしているのは、夜の暗き森で御者をするのが怖いって白状したも同然だからかな。
とはいえ、そこは怖かろうが順番が来たら御者はやってもらいますけれど。
そのとき、ショゴちゃんが突然減速して……停まった。
表情が強張っているロッキンさんと目を見合わせる。
ルブルムが、仮眠中のエクシ を起こす。
「リテル様、何かいるです! 道を塞いでいるです!」
マジか?
寿命の渦は全然感じないんだけど……え?
……ということは……もしかして?
あんな話をしたからフラグを立てちゃった?
俺も思わず、ロッキンさんと同じ溜息をついてしまった。
● 主な登場者
・有主 利照 /リテル
利照として日本で生き、十五歳の誕生日に熱が出て意識を失うまでの記憶を、同様に十五歳の誕生日に熱を出して寝込んでいたリテルとして取り戻す。ただ、この世界は十二進数なのでリテルの年齢は十七歳ということになる。
リテルの記憶は意識を集中させれば思い出すことができる。利照はこれを「記憶の端末」と呼んでいる。
ケティとの初体験チャンスに戸惑っているときに、頭痛と共に不能となった。不能は魔女の呪詛による。
その呪詛を作ったカエルレウムに弟子入りした。魔術特異症。猿種 。
レムールの「ポー」と契約。伸ばしたポーの中においても、自分の体の一部のように魔法代償を集中したり魔法を使えることがわかった。
現在は、呪詛持ちのラビツ一行を追跡している。
・カエルレウム師匠
寄らずの森に二百年ほど住んでいる、青い長髪の魔女。猿種 。
肉体の成長を止めているため、見た目は若い美人。家では無防備な格好をしている。
寄らずの森のゴブリンが増えすぎないよう、繁殖を制限する呪詛をかけた張本人。
ディナ先輩、ルブルム、リテルの魔法の師匠。ストウ村の住人からは単に「魔女様」と呼ばれることも。
自分の興味のないことに対しては、例え国王の誘いであっても断る。
・ルブルム
寄らずの森の魔女カエルレウムの弟子。赤髪の美少女。リテルと同い年くらい。猿種 のホムンクルス。
カエルレウムの弟子を、リテルのことも含め「家族」だと考えている。
質問好きで、知的好奇心旺盛。リテルと一緒に旅に出るまでは無防備だった。
利照へ好意を持っていることを自覚し始めている。レムとも仲が良くなった。
・アルブム
魔女の家に住む可愛い少女。リテルよりも二、三歳くらい若い感じ。兎種 のホムンクルス。
もしゃもしゃの白い髪はくせっ毛で、瞳は銀色。肌はカエルレウムと同じように白い。
・マドハト
赤ん坊のときに『取り替え子』の被害に遭い、ゴブリン魔術師として育った。
今は犬種 の先祖返りとしての体を取り戻したが、その体はあんまり丈夫ではない。コーギー顔。
ゴブリンの時に瀕死状態だった自分を助けてくれたリテルに懐き、ずっとついてきている。
クッサンドラを救うためにエクシとクッサンドラの中身を『取り替え子』で入れ替えた。
明るい性格。楽しいことばかり追い求めるゴブリン的思考だったが、利照と一緒にものを考えるようになった。
・ディナ先輩
フォーリーに住むカエルレウムの弟子にしてルブルムの先輩。
男全般に対する嫌悪が凄まじいが、リテルのことは弟弟子と認めてくれた。ゴーレム作成の魔法品をくれた。
アールヴと猿種 のハーフ。ウォーリント王国のモトレージ白爵 領にて壮絶な過去を持つ。
フォーリー以北への旅について、大量の忠告をしてくれた。
・メリアン
ディナ先輩が手配した護衛。リテルたちを鍛える依頼も同時に受けている。
ものすごい筋肉と、角と副乳を持つ牛種 の半返りの頼もしい傭兵。二つ名は「噛み千切る壁」。
円盾と小剣(ごつい)を二つずつ持ち、手にはスパイク付きのプレートナックルを装備。
騎馬戦も上手く、『戦技』や『気配感知』を使う。どうやらラビツと結婚間近。現在は別行動中。
・ラビツ
ゴブリン魔術師によって変異してしまったカエルレウムの呪詛をストウ村の人々に伝染させた。
兎種ハクトッのラビツをリーダーに、猿種マンッが二人と先祖返りの猫種バステトッが一人の四人組。傭兵集団。
ラビツは、ケティの唇をリテルのファーストキスよりも前に奪った。おっぱい大好き。
北の国境付近を目指している。本人たちは呪詛にかかっていることに気付いていない。
リテルたちより二日早くアイシスを出発した。ギルフォドに向かっているらしい。
・エクシ
クッサンドラは、病弱だったマドハト(中身はゴブリン)の世話を焼いていたゴド村出身の犬種 の先祖返り。ポメラニアン顔。
フォーリーで領兵をしていたが、マドハトの『取り替え子』により、瀕死の状態からエクシを体を交換された。
クッサンドラの肉体を傷つけ、その中に入ったエクシは死亡。
エクシはリテルと同郷で幼馴染の一人。ビンスン兄ちゃんと同い年。フォーリーで領兵をやっていた。
父ハグリーズからのエクシへの虐待を防いでくれていた姉が、クッサンドラの兄のもとへ嫁いだせいで、守ってくれる者が居なくなり、エクシは歪んだ。
クッサンドラは、エクシから姉を奪ったことに責任を感じており、エクシが犯した罪を償うべく、エクシが殺しかけたドマースへ、その代償としてエクシ の寿命の渦を売った。
・レム
バータフラ・レムペー。クラースト村のバータフラ世代の五番目の子。
魔法に長けた爬虫種 の少女。リテルより若いが胸はかなり育っている様子。髪型はツインテール。
その母親は利照同様に異世界(イギリス)から来た。
名無し森砦の兵としてルブルム一行の護衛として同行。洞察力があり、頭の回転も早い。
利照のことをお兄ちゃんと呼び、慕っている。ルブルムやマドハト同様に頼れる仲間。現在は別行動中。
・ロッキン・フライ
名無し森砦の兵士。
フライ濁爵 の三男。山羊種 。
ウォルラースとダイクの計画を知らされていなかった。正義の心を持っているが影が薄い。
ルブルム一行の護衛として同行。指笛で相棒の馬を呼べる。兄弟は皆、強い騎士。地元が、黒き森からそう遠くない。
本当はルイース虹爵 領の領都アンダグラにある図書館で働きたかった。
・ケティ
リテルの幼馴染。一歳年上の女子。猿種 。
旅の傭兵ラビツに唇を奪われ呪詛に伝染し、それを更にリテルへと伝染させた。
カエルレウムが呪詛解除のために村人へ協力要請した際、志願し、リテル達がフォーリーを発つ時、メリアンと共に合流した。
盗賊団に襲われた際は死にかけたり、毒で意識不明になったり。
足手まといを自覚し、ストウ村へ先に戻った。
・ロービン
一見して凛々しい青年で、筋力があり性格も良い。ホブゴブリン。名無し森でカウダ盗賊団と戦った際に協力してくれた。
獣種に似ているけれど、獣種よりももっと力強い異世界由来の種族、という情報を、ルブルムは本で読んだことがあるという。
リテルに魔法を教えてくれた他、魔術師が喜ぶ卵石というものをくれた……それは本物のドラゴンの卵だった。
・ナイトさん
元の世界では喜多山 馬吉 。元の世界では親の工場で働いていた日本人。
四十五歳の誕生日にこちらへ転生してきた。馬種 。元はニュナム領兵の隊長をしていた。
今は発明家兼ナイト商会のトップ。ヒモパンやガーターベルトやコンドームの発売もしており、リテルを商会に誘ってくれた。
サスペンションなど便利機能がついた馬車「ショゴウキ」(略してショゴちゃん)を提供してくれた。
・レムルース
地界 に存在する種族。肉体を持たず、こちらの世界では『契約』されていないと長くは留まれない。
『虫の牙』の呪詛のベースにされていた他、スノドロッフ村の人達が赤目を隠すために『契約』している。
レムルースは複数形で、単体はレムールと呼ぶ。
ディナ先輩の体からリテルの腕へと移ったレムールは、リテルと契約し「ポー」という名を与えられた。
・ドラゴン
古い表現ではドラコーン、ドラコとも。魔術師や王侯貴族に大人気。
その卵は小さく、手のひらよりちょっと大きいくらいで、孵化に必要な魔法代償を与えられるまで、石のような状態を維持する。
・シュラット
元々は地界 の住人だが、こちらの世界 に居着くことの多い種族の一つ。
人型で、全身を毛に覆われている。森に棲み、旅人を惑わすことがある。
かつてマンクソム砦を作る際、黒き森に棲むシュラットが大量に討伐された。
●この世界 の単位
・ディエス
魔法を使うために消費する魔法代償(寿命)の最小単位。
魔術師が集中する一ディエスは一日分の寿命に相当するが、魔法代償を集中する訓練を積まない素人は一ディエス分を集中するのに何年分もの寿命を費やしてしまう恐れがある。
・ホーラ
一日を二十四に区切った時間の単位(十二進数的には「二十に区切って」いる)。
元の世界のほぼ一時間に相当する。
・ディヴ
一時間 の十二分の一となる時間の単位(十二進数的には「十に区切って」いる)。
元の世界のほぼ五分に相当する。
・クビトゥム
長さの単位。
本文中に説明はなかったが、元の世界における五十センチくらいに相当する。
トシテルが元の世界の長さに脳内変換しないでもいいくらい、リテルが日常的に使っていた単位。
・アブス
長さの単位。
元の世界における三メートルくらいに相当する。
・プロクル
長さの単位
一プロクル=百アブス。
この世界は十二進数のため、実際は(3m×12×12=)432mほど。
・通貨
銅貨 、銀貨 、金貨 、大金貨 。
十銅貨 (十二進数なので十二枚)=一銀貨
十銀貨 (十二進数なので十二枚)=一金貨
十金貨 (十二進数なので十二枚)=一大金貨
・暦
一年は、十ヶ月(十二進数なので十二ヶ月)+「神の日々」という五~六日間。
それぞれの月は、母の月、子の月、大地の月、風の月、水の月、海の月、光の月、空の月、星の月、火の月、父の月、闇の月と呼ばれる。
各月は、月の始めの十日(十二進数なので十二日)間は「月昼」週。次の六日間は「月黄昏」週、最後の十日(十二進数なので十二日)間が「月夜」週。トータルは十二進数で三十日間。
毎月の、月黄昏週の一日が満月で、月夜週の九日が新月。月は二つあるが、大きい月の周期が基本で、小さい月の周期は二日ほど遅れている。夜が明けるまでは日付は変わらない。
第八十二話終了時点では星の月夜週のクエイン日(十進だと十日)の夜。
ルブルムが俺の手の中を覗き込む。
ドラコーン……ルブルムからもらったカエルレウム師匠の本棚の知識を思い出す……って、ドラゴンのことか!
その写本は古いものだったからドラコーンって古い表現で記述されていたけど、このへんの言葉ではドラゴンの方が通りがいい。
というか、どうして俺、この卵石をルブルムにちゃんと見せていなかったんだ。
ロービンからは「魔術師が喜ぶもの」って聞いていたのに。
「ロービンがくれたんだ。お父さんからもらったって言ってたよ」
「使い魔にするの?」
ルブルムが「使い魔」という表現を使ったことで、カエルレウム師匠の蔵書内にあった情報を思い出す。
魔術師は強い信頼関係にある自分以外の生命体と『使い魔契約』を行うことができる。
『使い魔契約』を行うと、互いの位置を把握、五感の共有、魔法代償を預けることが可能になるが、使い魔が傷つけば、契約者本人の寿命の渦も傷つくことになるという表裏一体の魔術。
強い信頼関係を築くためには、生まれたときから一緒に過ごすのが特に有効で、対象の生物が卵生の場合、卵から育てる魔術師も少なくないという。
ドラコーンの卵は、産み落とされたあと、仔が生まれても良い環境が条件を満たすまでずっと石に擬態して成長を止めておくという記述も、その使い魔のとこに書いてあった。
そして、孵化条件を満たさなければずっと石のような状態で保存され続けるということは、運搬や取引にも適しているということで、その希少性もあり、魔術師のみならず王侯貴族からも非常に人気が高かった……そんな記述があったのを思い出す。
ルブルムは自分で読んで蓄積した知識だから簡単に思い出すことができるけれど、俺の場合、読んだ記憶を共有してもらっただけだから、今みたいにキーワードを元に記憶を検索してヒットして初めて、もらった知識をようやく思い出せるという回りくどさ。
いや……そうじゃないだろ。
キーワードをもらってアクセス可能ってことはだよ……検索キーワードをうまく設定できさえすれば、今みたいに後手に回らずに思い出せるってことだよな。
ドラゴンの別名……ドラコーン、ドラコ、ドラーコ……おおおっ、出てくる!
ドラゴンの卵の孵化、ドラコーンの卵の孵化、ドラコの卵の孵化……あったあった!
ドラゴン周りの文献は、古い写本が多いから、現在の一般的なラトウィヂ語をキーワードに思い出そうとしても引っかからないことが多いんだな。
で、その内容は……ドラコの卵は熱ではなく魔法代償を与えて孵化を促す……と。
ああ、そういうことか。
ゴーレムは日々、維持だけでも魔法代償を消費するって聞いていたから、毎晩、寝る前にゴーレム起動用の
最近は、寝る前だけじゃなく、朝昼晩のポーに
「使い魔契約するときって、カエルレウム師匠に許可をいただく必要ってある?」
と、聞いてから気付く。
「あ、俺、『使い魔契約』の魔術は教えてもらってないや」
そう。今の俺にあるのは知識だけ。そういう魔術で契約をする、っていう。
「大丈夫。私、知っているから教えられる。カエルレウム様は、よく考えて使いなさいって教えてくれたから、禁止はしていない」
確かに。使い魔を攻撃されたら、俺の寿命の渦まで減っちゃうんだもんな。
やにわに、ルブルムが俺の手を取り魔法代償を集中する……伝わってくる。『使い魔契約』の魔術が……なるほど……こんな感じの魔術か。
ポーと契約したときの『契約の儀式』を構成する魔法と一部似たところがある。
もっともあっちは、複数人数で魔術を補助する魔術も発動していたから、全容はつかめてないんだけどね。
「ありがとう、ルブルム。伝わった」
「あとは、孵化を待つだけ。魔法代償は一度にたくさんあげてもダメで、少しずつずっと続けるのがいいって書いてあった。ドラゴンの親は、卵の周りに魔石をたくさん置くんだって」
魔石とドラゴンにそんな関係があったのか。
それなら、ドラゴンの卵石を持っていたロービンが、魔石を産出するスノドロッフの近くに住んでいるのも偶然ではないんだろうな。
俺は、
「そうそう。使い魔との意思疎通で気づいたんだけど、『遠話』って、距離が離れていても発動に必要な魔法代償って変わったりするの?」
「変わらない。どちらかが発動すると相手の持つ『遠話』が反応して、その反応が消える前に相手も発動すれば『遠話』が通じる」
「そしたら、『遠話』までの複雑なことしないで最初の相手へ反応送るだけくらいなら、単純な魔法にできるんじゃない?」
「……ある。その魔法はある。二本の枝を交差するように重ねて『発見報告』という魔法をかけると、片方の枝を折ったとき、もう一方の枝も折れるの。私やアルブムが寄らずの森を見回りして、魔物の発見をカエルレウム様へお知らせするときに使った」
「それだっ!」
詳しく聞くと、上に置いたほうの枝が発信側で、下に置いた方の枝が受信側。
効果時間は一日ほどしかないようだが、魔法が切れる前に発信側に同じ魔法を重ねてかければ、効果は継続するらしい。
ちなみに『遠話』が格納されている魔術師免状も、『遠話』を使わなくとも、一ヶ月に一ディエスは魔法代償を消費するんだって。
家電でいう待機電力みたいなものか。
連絡手段を確保できたことで方針が決まった。
ショゴちゃんは、ニュナムから二つ目の共同夜営地から、一日弱かけてマンクソム砦へと向かう。
騎馬二人はそのまま街道を進み、三つ目の共同夜営地から折り返して、さらに一日かけてマンクソム砦を目指す。
前者はマンクソム砦で情報収集し、ラビツが居ないことが分かればすぐに出発し、マンクソム砦・ギルフォド間で遠回り折り返し組と合流する。
ラビツを見つけたら、『発見報告』の枝を折って報告し、もう片方はすぐに駆けつける……前者が見つけた場合はマンクソム砦で合流し、後者が見つけた場合は三つ目の共同夜営地で合流する、という流れ。
砦ならともかく、道端でしかない共同夜営地で合流を待つように説得できる人ということで、騎馬の片方はメリアンで確定。
説得力という点ではクスフォード
「マドハト、『発見報告』は覚えたか?」
「リテル様! 大丈夫です!」
目をキラッキラさせてマドハトは元気よく返事してくるが、正直、心配だ。
いくら気持ちを「楽しくないことも、考えなきゃいけない」に切り替えたとはいっても、そうそうすぐには変わらないものってのもある。
マドハトの体の弱さを知っている
「わかった。私が代わりに行くよ。ロッキンさんとエクシさんと居るから、護衛を外したことにはならないでしょ?」
レムの優しさに助けられ、騎馬組は信頼と実績のメリアン&レムということになった。
ということで騎馬組の二人には仮眠を多めに取ってもらい、他のメンバーで夜通し、二つ目の共同夜営地を目指した。
二つ目の共同夜営地へ到着したのは、翌日の昼過ぎ。
馬のために少しゆっくりと休憩を取りながら、しっかりと昼食を食べる。
献立は時間を少しかけ、玉ねぎとえんどう豆とレンズの、アーモンドミルク風味のスープ。
それからジャガイモを焚き火の中に埋めて蒸したやつ幾つかと塩を小分けした小袋をお弁当としてメリアン達に渡しておく。
出掛けに甘えるレムをハグして、頑張れって応援して、食事の片付けをしてから再びショゴちゃんに乗り込んだ。
御者は順番で行い、御者を終えたら仮眠を取ることに決める。
ここから一日弱なので、夜通し走れば明日の午前中にはマンクソム砦へ着く計算。
途中、マンクソム砦から徒歩でニュナムへと向かう定期便馬車とすれ違ったくらいで他には特に何かに出会うこともなく、順調に日が暮れる。
その辺りからだんだんと周囲の森が濃くなってゆく。
街道は馬車が余裕ですれ違えるほどに広いのだが、両脇の生い茂る深い森は高さもあるせいで空が細い。
それよりもさらに細い月からのささやかな光など、とてもこの道までは届かない。
御者席の両側にある
フツーの異世界モノだったらこんなときは魔法で明るい光でも用意するのだろうが、明るさと効果時間とかかる魔法代償とを比較してみると、とてもじゃないけど魔法の光の常時発動は無理。
当然、馬車の速度も落とさざるを得ない。
「昼間と夜とじゃ移動速度、ずいぶんと変わっちゃいますよね……もしかして、あの夜営地で夜営して早朝出発してもそんなに変わらなかったりしたかもですね」
ロッキンさんが珍しく弱気なことを言い出した。
そのときは軽く流したんだけど、ロッキンさんの御者の番が近づくにつれ、あきらかに溜息が増えてゆく……たまりかねて尋ねてしまった。
「ロッキンさん、もしかしてマンクソム砦に何か嫌な思い出でも?」
上下の兄弟も皆、騎士としての修練を積んでいるって言ってたっけ。
例えば、マンクソム砦に兄弟がいて、その兄弟とは仲が良くないとしたら……なんて妄想が捗る前に、あっさりと答えられた。
「ああ、そんなに知られていないのですか。マンクソム砦付近の黒き森の伝説は……」
黒き森というのは、ここいら一帯を占める森の名称だが……少なくとも、ルブルムからもらった記憶の中にヒットするものはない。
「どんな伝説なんですか?」
「昔、黒き森に、
シュラット……
元々は
人型で、全身を毛に覆われている。森に棲み、旅人を惑わすことがある。
ロッキンさんの話は続く。
「そいつらは時々、旅人を惑わしたりするらしくって……マンクソム砦を作る際にその惑わしがかなり邪魔ということで、大規模な討伐戦が行われたんです……その後、黒き森の中に街道を通して、マンクソム砦は完成したとのことなんですが……その……夜になると、殺されたシュラットたちが黒き森に現れるって噂がありまして……私の故郷では、子供が遅くまで寝ないでいると、殺されたシュラットが黒き森からさらいにやって来るよ、という伝説が……」
なるほど。ストウ村でいうマンティコラみたいな存在なのか。
そしてロッキンさんがちょっと照れくさそうにしているのは、夜の暗き森で御者をするのが怖いって白状したも同然だからかな。
とはいえ、そこは怖かろうが順番が来たら御者はやってもらいますけれど。
そのとき、ショゴちゃんが突然減速して……停まった。
表情が強張っているロッキンさんと目を見合わせる。
ルブルムが、仮眠中の
「リテル様、何かいるです! 道を塞いでいるです!」
マジか?
寿命の渦は全然感じないんだけど……え?
……ということは……もしかして?
あんな話をしたからフラグを立てちゃった?
俺も思わず、ロッキンさんと同じ溜息をついてしまった。
● 主な登場者
・
利照として日本で生き、十五歳の誕生日に熱が出て意識を失うまでの記憶を、同様に十五歳の誕生日に熱を出して寝込んでいたリテルとして取り戻す。ただ、この世界は十二進数なのでリテルの年齢は十七歳ということになる。
リテルの記憶は意識を集中させれば思い出すことができる。利照はこれを「記憶の端末」と呼んでいる。
ケティとの初体験チャンスに戸惑っているときに、頭痛と共に不能となった。不能は魔女の呪詛による。
その呪詛を作ったカエルレウムに弟子入りした。魔術特異症。
レムールの「ポー」と契約。伸ばしたポーの中においても、自分の体の一部のように魔法代償を集中したり魔法を使えることがわかった。
現在は、呪詛持ちのラビツ一行を追跡している。
・カエルレウム師匠
寄らずの森に二百年ほど住んでいる、青い長髪の魔女。
肉体の成長を止めているため、見た目は若い美人。家では無防備な格好をしている。
寄らずの森のゴブリンが増えすぎないよう、繁殖を制限する呪詛をかけた張本人。
ディナ先輩、ルブルム、リテルの魔法の師匠。ストウ村の住人からは単に「魔女様」と呼ばれることも。
自分の興味のないことに対しては、例え国王の誘いであっても断る。
・ルブルム
寄らずの森の魔女カエルレウムの弟子。赤髪の美少女。リテルと同い年くらい。
カエルレウムの弟子を、リテルのことも含め「家族」だと考えている。
質問好きで、知的好奇心旺盛。リテルと一緒に旅に出るまでは無防備だった。
利照へ好意を持っていることを自覚し始めている。レムとも仲が良くなった。
・アルブム
魔女の家に住む可愛い少女。リテルよりも二、三歳くらい若い感じ。
もしゃもしゃの白い髪はくせっ毛で、瞳は銀色。肌はカエルレウムと同じように白い。
・マドハト
赤ん坊のときに『取り替え子』の被害に遭い、ゴブリン魔術師として育った。
今は
ゴブリンの時に瀕死状態だった自分を助けてくれたリテルに懐き、ずっとついてきている。
クッサンドラを救うためにエクシとクッサンドラの中身を『取り替え子』で入れ替えた。
明るい性格。楽しいことばかり追い求めるゴブリン的思考だったが、利照と一緒にものを考えるようになった。
・ディナ先輩
フォーリーに住むカエルレウムの弟子にしてルブルムの先輩。
男全般に対する嫌悪が凄まじいが、リテルのことは弟弟子と認めてくれた。ゴーレム作成の魔法品をくれた。
アールヴと
フォーリー以北への旅について、大量の忠告をしてくれた。
・メリアン
ディナ先輩が手配した護衛。リテルたちを鍛える依頼も同時に受けている。
ものすごい筋肉と、角と副乳を持つ
円盾と小剣(ごつい)を二つずつ持ち、手にはスパイク付きのプレートナックルを装備。
騎馬戦も上手く、『戦技』や『気配感知』を使う。どうやらラビツと結婚間近。現在は別行動中。
・ラビツ
ゴブリン魔術師によって変異してしまったカエルレウムの呪詛をストウ村の人々に伝染させた。
兎種ハクトッのラビツをリーダーに、猿種マンッが二人と先祖返りの猫種バステトッが一人の四人組。傭兵集団。
ラビツは、ケティの唇をリテルのファーストキスよりも前に奪った。おっぱい大好き。
北の国境付近を目指している。本人たちは呪詛にかかっていることに気付いていない。
リテルたちより二日早くアイシスを出発した。ギルフォドに向かっているらしい。
・
クッサンドラは、病弱だったマドハト(中身はゴブリン)の世話を焼いていたゴド村出身の
フォーリーで領兵をしていたが、マドハトの『取り替え子』により、瀕死の状態からエクシを体を交換された。
クッサンドラの肉体を傷つけ、その中に入ったエクシは死亡。
エクシはリテルと同郷で幼馴染の一人。ビンスン兄ちゃんと同い年。フォーリーで領兵をやっていた。
父ハグリーズからのエクシへの虐待を防いでくれていた姉が、クッサンドラの兄のもとへ嫁いだせいで、守ってくれる者が居なくなり、エクシは歪んだ。
クッサンドラは、エクシから姉を奪ったことに責任を感じており、エクシが犯した罪を償うべく、エクシが殺しかけたドマースへ、その代償として
・レム
バータフラ・レムペー。クラースト村のバータフラ世代の五番目の子。
魔法に長けた
その母親は利照同様に異世界(イギリス)から来た。
名無し森砦の兵としてルブルム一行の護衛として同行。洞察力があり、頭の回転も早い。
利照のことをお兄ちゃんと呼び、慕っている。ルブルムやマドハト同様に頼れる仲間。現在は別行動中。
・ロッキン・フライ
名無し森砦の兵士。
フライ
ウォルラースとダイクの計画を知らされていなかった。正義の心を持っているが影が薄い。
ルブルム一行の護衛として同行。指笛で相棒の馬を呼べる。兄弟は皆、強い騎士。地元が、黒き森からそう遠くない。
本当はルイース
・ケティ
リテルの幼馴染。一歳年上の女子。
旅の傭兵ラビツに唇を奪われ呪詛に伝染し、それを更にリテルへと伝染させた。
カエルレウムが呪詛解除のために村人へ協力要請した際、志願し、リテル達がフォーリーを発つ時、メリアンと共に合流した。
盗賊団に襲われた際は死にかけたり、毒で意識不明になったり。
足手まといを自覚し、ストウ村へ先に戻った。
・ロービン
一見して凛々しい青年で、筋力があり性格も良い。ホブゴブリン。名無し森でカウダ盗賊団と戦った際に協力してくれた。
獣種に似ているけれど、獣種よりももっと力強い異世界由来の種族、という情報を、ルブルムは本で読んだことがあるという。
リテルに魔法を教えてくれた他、魔術師が喜ぶ卵石というものをくれた……それは本物のドラゴンの卵だった。
・ナイトさん
元の世界では
四十五歳の誕生日にこちらへ転生してきた。
今は発明家兼ナイト商会のトップ。ヒモパンやガーターベルトやコンドームの発売もしており、リテルを商会に誘ってくれた。
サスペンションなど便利機能がついた馬車「ショゴウキ」(略してショゴちゃん)を提供してくれた。
・レムルース
『虫の牙』の呪詛のベースにされていた他、スノドロッフ村の人達が赤目を隠すために『契約』している。
レムルースは複数形で、単体はレムールと呼ぶ。
ディナ先輩の体からリテルの腕へと移ったレムールは、リテルと契約し「ポー」という名を与えられた。
・ドラゴン
古い表現ではドラコーン、ドラコとも。魔術師や王侯貴族に大人気。
その卵は小さく、手のひらよりちょっと大きいくらいで、孵化に必要な魔法代償を与えられるまで、石のような状態を維持する。
・シュラット
元々は
人型で、全身を毛に覆われている。森に棲み、旅人を惑わすことがある。
かつてマンクソム砦を作る際、黒き森に棲むシュラットが大量に討伐された。
●
・ディエス
魔法を使うために消費する魔法代償(寿命)の最小単位。
魔術師が集中する一ディエスは一日分の寿命に相当するが、魔法代償を集中する訓練を積まない素人は一ディエス分を集中するのに何年分もの寿命を費やしてしまう恐れがある。
・ホーラ
一日を二十四に区切った時間の単位(十二進数的には「二十に区切って」いる)。
元の世界のほぼ一時間に相当する。
・ディヴ
一
元の世界のほぼ五分に相当する。
・クビトゥム
長さの単位。
本文中に説明はなかったが、元の世界における五十センチくらいに相当する。
トシテルが元の世界の長さに脳内変換しないでもいいくらい、リテルが日常的に使っていた単位。
・アブス
長さの単位。
元の世界における三メートルくらいに相当する。
・プロクル
長さの単位
一プロクル=百アブス。
この世界は十二進数のため、実際は(3m×12×12=)432mほど。
・通貨
十
十
十
・暦
一年は、十ヶ月(十二進数なので十二ヶ月)+「神の日々」という五~六日間。
それぞれの月は、母の月、子の月、大地の月、風の月、水の月、海の月、光の月、空の月、星の月、火の月、父の月、闇の月と呼ばれる。
各月は、月の始めの十日(十二進数なので十二日)間は「月昼」週。次の六日間は「月黄昏」週、最後の十日(十二進数なので十二日)間が「月夜」週。トータルは十二進数で三十日間。
毎月の、月黄昏週の一日が満月で、月夜週の九日が新月。月は二つあるが、大きい月の周期が基本で、小さい月の周期は二日ほど遅れている。夜が明けるまでは日付は変わらない。
第八十二話終了時点では星の月夜週のクエイン日(十進だと十日)の夜。