#81 見通し
文字数 9,780文字
「魂が降って湧いたわけじゃない話、聞きたい。私の死んだお母さんも、そうだったって村の人たちから聞いたから」
そう言い出したのはレムだった。
既に立ち去りかけていたムニエールとアスペールは立ち止まる。
「なるほど。そういうことなら話しても良いかな」
ムニエールは座りもせず、そのまま話し始めた。
レム、グッジョブだよ。
「チケが変わったのは、ウォーリントの内乱の最中だった。私達は王弟派の傭兵団として参加していた。前日までは確かにチケだった……しかしある晩、チケは高熱を出し、そして目覚めたときはもうスマコだった。私は魔術師だからね。判ったんだよ。チケの内側にはもともと二つの寿命の渦があった……しかし、スマコへと変わったとき、活性化している寿命の渦が昨日までとは違う方になっていたんだ」
「ム、ムニエールッ! お前、あのときそんなことまで言わなかったじゃねぇかっ!」
トレインがいつの間にか上体を起こしている。
カブトムシ兜のビトルと、御者をしていたナットはトレインが動き出さないよう両側からぐっと押さえ込んでいる。
「聞く耳を持たなかったじゃないか。その話をする前に、チケとスマコは別人だ、と言ったところで会話を打ち切ったのはトレイン、君だよ」
「くっ」
「話を続ける。回復魔法を使えた君なら知っているとは思うが、寿命の渦が人とは異なる者を魔術特異症と言う」
ムニエールは俺の方を見つめる。
自分の猿種 への偽装がバレているのかと不安になったが、彼はそのまま続けた。
「魔術特異症の中でも寿命の渦が二つ交わっている形というのは、私の師匠が持っていた記録の中でも二例しか報告がない。かなり珍しいものだ。だから私はスマコへ興味を持った。恋愛感情ではなく、純粋に魔術的な興味からだ。スマコは、ニホンのコウベという所で生まれ育ったと言っていた……そして驚くことに、チケと記憶を共有しているとも言った。私はスマコに様々な質問をし、一貫性があるかどうかを丁寧に調べた。私がかけているこのメガネという道具も、スマコに教えてもらったものだ。彼女の世界、ニホンでは、ガラスを透明に加工する技術が発達しており、視界がぼやける症状をこのメガネによって改善するのが普通だと教えてくれた」
「この兜も、そうだよな」
トレインが折り紙兜を脱いで膝の上に乗せる。
「ああ、食事の際、器代わりに使っていた大きな葉を四角く切り取り、折りたたんでその兜を作った。私がそれをもとに丈夫な革で同じ形の兜を作ってやったら気に入ってかぶっていた。スマコが死んだ後、トレインは形見といってその兜をずっと身につけているが、どういう気持でチケではなくスマコの遺したものを大事にしているのか、ずっと聞きたかったよ」
「……自分の若さを言い訳にはしたくはねぇけどさ、あのときは俺には何もねぇと思っちまっていたんだ。チケの関心はムニエールに、命は噛み千切る壁に持ってかれてよ……何もかも真っ暗な気持ちだったときによ、これのもとの葉っぱをさ、チケが一生懸命折りたたんでいたときの顔を思い出したんだよ。笑っていた……この兜にはよ、チケの笑顔の思い出が残ってたんだよ」
「そういうところだよ、トレイン。お前はずっとチケと呼び続けた。まるでスマコという存在を許さないとでも言わんばかりに。自分の存在を、話すことを否定しかしないトレインと、自分の話を聞いてくれる私。彼女が本来居た世界とは全く異なるこの世界にたった一人で放り込まれたスマコが、不安の中でより長い時間を過ごそうと考えるのはどちらだと思う? それに、スマコはチケの記憶もちゃんと理解していた。チケがお前と恋仲だったことも……だから、私とどうこうしようだなんて全く考えもしていない。戦場から早く立ち去りたがっていただけだ。彼女は他者を殺す覚悟を持ちたがらなかっただけなんだ。トレイン、お前は噛み千切る壁がスマコを殺したと言ったな。違うんだよ。後ろから見ていた私にはよく分かる。スマコでありチケである彼女は、噛み千切る壁の攻撃に気づいていなかったトレイン、お前をかばったんだよ。お前はあのときもう負けていたんだ……私がさっき『カマイタチ』を使ったのは、お前の判断誤りによって、俺たち全員が殺されるかもしれないと思ったからだ」
トレインはムニエールに向けていた目を見開いた。
その目からは涙がこぼれてはじめた。
ムニエールは、トレインからレムへと視線を移し、続ける。
「スマコの語る物事は確実にこの世界 のものではなかった。スマコは魔法は苦手だったが、スマコの語ってくれたことは私の魔法を多いに飛躍させてくれた。さっきの魔法『カマイタチ』のもとになったのはニホンに棲む魔物だ。風の中で人を切り裂く魔物……私はその魔物を想像しながら魔法を創造した。魔法はその効果を構成する概念に対する知識がないと魔法代償だけが恐ろしいくらいに嵩 んでしまうものだが、カマイタチは姿が見えない魔物だということで逆に想像しやすかった」
カマイタチはやっぱりカマイタチだった。
ただ、大事なのはその先だ。
イメージできないものは魔法として成立させることができない。
さっき『カマイタチ』に消費された魔法代償量はそこまで多くなかった……というのを考えると、自分で体験したり知識を持っていないものでも、確固たるイメージさえできれば魔法として成立させられるということだよね。
しかもそれが、真実ではなくとも、イメージできてさえいれば良いということになる。
そう。真実でなくとも、ってのもとても大事。
実はカマイタチについては、俺も知識がある。
とはいっても、丈侍 のお父さんの受け売りだけど。
風で真空を作って肌を裂くというのはガセだということ。
その話を聞いた当時、ちゃんと検索して調べて、カマイタチで皮膚が裂けるのは真空のせいじゃないってサイトを幾つか見つけたから……だから、カマイタチという魔物を聞きました、で、それを魔法化できるということは、真実を知っているからできるというよりは、そう強く信じ込めるから、と考えるのが重要で……ああ、でも、そっか。
俺は知識として『凍れ』の原理は、水分子の運動を抑えて結合させるというイメージを持っているけれど、それは実際にこの目で見たものじゃない。
学んだものだ。
だから、イメージさえしっかりできれば、利照 は、リテルへこの体を返す方法を、自分で作ることができるってことだよね。
手がかりがまるでないお手上げ状態から、わずかでも見通しがついたというのは、俺的にはとても嬉しいこと。
「なんでもお見通しなんだな、ムニエールは……お前がうちの傭兵団の頭をやれば良かったじゃねぇか。お前だったら、傭兵規約を破ってもチケを……スマコを、あの戦場から連れ出せたんだろ? 言ってたもんな。罰則の寿命提出が何年だろうと、全て失うよりはマシだって」
「その話は既に終わっている。魔法には集中力が必要だ。仲間への指示出しと魔法を兼務できるほど私は器用ではない。トレイン、お前は団長をできるだけの実力は持っている。ただ、時として客観的な思考が苦手になるだけで……お前に足りないのは心構えだよ。何かあったらそうやってすぐ拗ねて。責任を持て。ビトルやナットはまだお前を慕ってくれている。その仲間まで失う前にいい加減、気付け」
厳しい言葉を並べるムニエールだが、その言葉の奥には温かいものを感じる。
ふぅ、とトレインが大きな溜息をついた。
それから両隣のビトルとナットに手をどけるように言うと、立ち上がり、それから片膝をつき、目線を合わせない丁寧なお辞儀をした。
「ムニエール、ご指導、ありがとうございました。またいつか、どこかの戦場で出会った時には、よろしくお願いする」
目線を地面へと外したまま、言葉使いまで丁寧なトレイン。
ビトルとナットも同様に片膝をつき、ムニエールから目線を外す。
当のムニエールは、俺たちに向けて片膝をつくと、それから再び……今度は本当に去っていった。
俺たちも出発の準備を始める。
トレインがお詫びにと金貨をいくらかメリアンへ握らせようとしたが、メリアンは面倒だからと突っ返す。
すると今度は俺に手渡してきた。
俺も断ったのだけど、本当にしつこかったので仕方なく受け取った。
金貨 を三枚。けっこうな大金だ。
もらいっぱなしってのもなんだか気がひけたので、別れ際に『腐臭の居眠り』をトレインの切り離された右腕へとかけてみた。
ドマースに教えてもらった、肉の鮮度を保つ魔法。
ニュナムで治療魔法屋を訪れてみると言っていたので、まあ気休め程度に。
俺たちがショゴちゃんに乗り込むと、彼らのボロ馬車はニュナムへと引き返していった。
ムニエールとアスペールの二人は徒歩だったから、すぐに追い越し、手を振った。
その日はそれから誰とも何とも出会わず、平和に夕暮れを迎えた。
移動の間に、レムの要望により、いったん『テレパシー』でつないだあと、触れている手を離しても通話がつながったままになる魔法『テレフォン』を作った。
レムはレムのお母さんから電話の存在を聞いていたのと、マドハトは俺の言うことを何でも素直に受け入れるためにイメージしやすかったようだが、既に『遠話』を何度か使用しているルブルムは覚えるのにちょっと苦戦していた。
で、その『テレフォン』での会話内では、やはりさっきのスマコの話題になった。
レムは、元の世界からこの世界 へ来る人の割合が、ニホンだけやけに多いんじゃないかと考察した。
確かに……それは何らかの原因があるのかな。
ムニエールさんのお師匠さんが持っている記録には、二例だけって言ってたけど、俺みたいに親しい人以外には隠していたり、レムのお母さんみたいに亡くなってしまったりする例もあるから、実はもっと多いのかもしれないな。
あとは、さっきの立ち回りについて。
ムニエールがトレインを回復する魔法を使う可能性だってあったのに、こちらから攻撃を仕掛けてしまうところだった。
メリアンが止めてくれなければ、あのまましなくても良い戦闘になだれ込んでいたかもしれない。
どうすべきだったのかと、誰かがどう行動したら他の面子はどうそれを補うか、そんな相談をずっとしていた。
何かあったときに最高の一つを選択できるように。
夕飯の場所は、ニュナムからギルフォドまでに三つある共同夜営地の、一つ目と二つ目の中間からちょっと一つ目より、くらいかな。
ショゴちゃんに取り付けられているサスペンション&藁クッションのおかげで、以前の馬車に比べると揺れがとんでもなく改善されていて、おかげ様で出せるスピードも上がっている。
「この分だと、三日かからずに着けるかもですね」
地元が近くなってきたせいか、馴染んできたせいか、ロッキンさんが最近はよく会話に参加してくれる。
ちなみに、今日の主食はレンズとスモークチキンのニンニクが効いたスープ。
レンズというのはレンズみたいな形の豆のこと。
確かにレンズっぽい形。
ルブルムは、さっきのムニエールのメガネと、ディナ先輩の屋敷で俺が氷から作ったレンズとの共通点を挙げ、「この豆に似た形だからレンズって言うのか?」って聞いてきた……けど、実はレンズの語源も歴史もよく知らない。
そもそも異世界だから関連性なんてないと思うけど。
手早く食事の片付けをして、出発する。
「明日はマンクソム砦を目指すかもしれないし、松明を灯してでも今夜は夜通し走らせよう」
メリアンが突然、そんなことを言い出した。
「マンクソム砦? 街道から外れるけど」
ルブルムが聞き返す……俺も、ルブルムに共有させてもらって学んだ記憶からその知識を引っ張り出す。
ギルフォドがまだギルフォルド王国領だった頃、ラトウィヂ王国側の最前線はルイース虹爵 領の城塞都市ゴルドアワだったが、それとはまた別にライストチャーチ白爵 領に近いその場所にも一つ、マンクソム砦というものが築かれていた。
マンクソム砦は王国直轄地で、名無し森砦に比べて規模が大きく、魔術師組合の支部も設置されているほど。
なぜここがそれだけ力を入れられているかというと、ジャ・バ・オ・クーの洞窟に対する防衛拠点ともなっているからだ。
ジャ・バ・オ・クーの洞窟は、その深い場所が地界 に通じているとも噂される、魔物出現率の高い場所。
この世界 には「ダンジョン」なんて言葉はないけれど、あえて言うならダンジョン的な場所なんだろうな。
ちなみに、ニュナムからギルフォドまでに三つある共同夜営地の二つ目から、街道はギルフォド方面とマンクソム砦方面とに分かれている……というより昔はマンクソム砦だけへと通じていて、ラトウィヂ王国がギルフォドを手に入れてしばらくしてから新しく街道が整備された……という感じ。
問題は、三つ目の共同夜営地からも、マンクソム砦への道が伸びていること。
今まではただ街道を突っ走っていたらラビツの後を追えたけど、道が二つに分かれているということは、選択次第ではすれ違う恐れもあるってこと。
「どうするの? 二手に分かれるの?」
レムが心配そうに俺に尋ねる。
ラビツの顔を知っているのは、ここでは俺とメリアンだけ。
魔物も出やすくなる危険性を考えると、戦力の分散は避けたい所。
さっき作った『テレフォン』だって、どのくらい離れても通じるかまでは確認していないし、だいいち魔法発動時は『テレパシー』同様に触れ合う必要がある。
何かあったときのために繋ぎっぱなしなんてのは、魔法代償の消費を考えると現実的じゃない。
そういやゴーレムの遠隔操作範囲ってどのくらいあるんだろう……と、ゴーレムを取り出してみて、気付く。
ゴーレムの本体に使用しているあのロービンからもらった卵石にヒビが入っていることに。
● 主な登場者
・有主 利照 /リテル
利照として日本で生き、十五歳の誕生日に熱が出て意識を失うまでの記憶を、同様に十五歳の誕生日に熱を出して寝込んでいたリテルとして取り戻す。ただ、この世界は十二進数なのでリテルの年齢は十七歳ということになる。
リテルの記憶は意識を集中させれば思い出すことができる。利照はこれを「記憶の端末」と呼んでいる。
ケティとの初体験チャンスに戸惑っているときに、頭痛と共に不能となった。不能は魔女の呪詛による。
その呪詛を作ったカエルレウムに弟子入りした。魔術特異症。猿種 。
レムールの「ポー」と契約。伸ばしたポーの中においても、自分の体の一部のように魔法代償を集中したり魔法を使えることがわかった。
現在は、呪詛持ちのラビツ一行を追跡している。
・カエルレウム師匠
寄らずの森に二百年ほど住んでいる、青い長髪の魔女。猿種 。
肉体の成長を止めているため、見た目は若い美人。家では無防備な格好をしている。
寄らずの森のゴブリンが増えすぎないよう、繁殖を制限する呪詛をかけた張本人。
ディナ先輩、ルブルム、リテルの魔法の師匠。ストウ村の住人からは単に「魔女様」と呼ばれることも。
自分の興味のないことに対しては、例え国王の誘いであっても断る。
・ルブルム
寄らずの森の魔女カエルレウムの弟子。赤髪の美少女。リテルと同い年くらい。猿種 のホムンクルス。
カエルレウムの弟子を、リテルのことも含め「家族」だと考えている。
質問好きで、知的好奇心旺盛。リテルと一緒に旅に出るまでは無防備だった。
利照へ好意を持っていることを自覚し始めている。レムとも仲が良くなった。
・マドハト
赤ん坊のときに『取り替え子』の被害に遭い、ゴブリン魔術師として育った。
今は犬種 の先祖返りとしての体を取り戻したが、その体はあんまり丈夫ではない。コーギー顔。
ゴブリンの時に瀕死状態だった自分を助けてくれたリテルに懐き、ずっとついてきている。
クッサンドラを救うためにエクシとクッサンドラの中身を『取り替え子』で入れ替えた。
明るい性格。楽しいことばかり追い求めるゴブリン的思考だったが、利照と一緒にものを考えるようになった。
・ディナ先輩
フォーリーに住むカエルレウムの弟子にしてルブルムの先輩。
男全般に対する嫌悪が凄まじいが、リテルのことは弟弟子と認めてくれた。
アールヴと猿種 のハーフ。ウォーリント王国のモトレージ白爵 領にて壮絶な過去を持つ。
フォーリー以北への旅について、大量の忠告をしてくれた。
・メリアン
ディナ先輩が手配した護衛。リテルたちを鍛える依頼も同時に受けている。
ものすごい筋肉と、角と副乳を持つ牛種 の半返りの頼もしい傭兵。二つ名は「噛み千切る壁」。
円盾と小剣(ごつい)を二つずつ持ち、手にはスパイク付きのプレートナックルを装備。
騎馬戦も上手く、『戦技』や『気配感知』を使う。どうやらラビツと結婚間近。
・ラビツ
ゴブリン魔術師によって変異してしまったカエルレウムの呪詛をストウ村の人々に伝染させた。
兎種ハクトッのラビツをリーダーに、猿種マンッが二人と先祖返りの猫種バステトッが一人の四人組。傭兵集団。
ラビツは、ケティの唇をリテルのファーストキスよりも前に奪った。おっぱい大好き。
北の国境付近を目指している。本人たちは呪詛にかかっていることに気付いていない。
リテルたちより二日早くアイシスを出発した。ギルフォドに向かっているらしい。
・エクシ
クッサンドラは、病弱だったマドハト(中身はゴブリン)の世話を焼いていたゴド村出身の犬種 の先祖返り。ポメラニアン顔。
フォーリーで領兵をしていたが、マドハトの『取り替え子』により、瀕死の状態からエクシを体を交換された。
クッサンドラの肉体を傷つけ、その中に入ったエクシは死亡。
エクシはリテルと同郷で幼馴染の一人。ビンスン兄ちゃんと同い年。フォーリーで領兵をやっていた。
父ハグリーズからのエクシへの虐待を防いでくれていた姉が、クッサンドラの兄のもとへ嫁いだせいで、守ってくれる者が居なくなり、エクシは歪んだ。
クッサンドラは、エクシから姉を奪ったことに責任を感じており、エクシが犯した罪を償うべく、エクシが殺しかけたドマースへ、その代償としてエクシ の寿命の渦を売った。
・レム
バータフラ・レムペー。クラースト村のバータフラ世代の五番目の子。
魔法に長けた爬虫種 の少女。
リテルより若いが胸はかなり育っている様子。髪型はツインテール。
その母親は利照同様に異世界(イギリス)から来た。
名無し森砦の兵としてルブルム一行の護衛として同行。洞察力があり、頭の回転も早い。
利照のことをお兄ちゃんと呼び、慕っている。現在はルブルムやマドハト同様に頼れる仲間。
・ロッキン・フライ
名無し森砦の兵士。
フライ濁爵 の三男。山羊種 。
ウォルラースとダイクの計画を知らされていなかった。正義の心を持っているが影が薄い。
ルブルム一行の護衛として同行。指笛で相棒の馬を呼べる。兄弟は皆、強い騎士。
本当はルイース虹爵 領の領都アンダグラにある図書館で働きたかった。
・ケティ
リテルの幼馴染。一歳年上の女子。猿種 。
旅の傭兵ラビツに唇を奪われ呪詛に伝染し、それを更にリテルへと伝染させた。
カエルレウムが呪詛解除のために村人へ協力要請した際、志願し、リテル達がフォーリーを発つ時、メリアンと共に合流した。
盗賊団に襲われた際は死にかけたり、毒で意識不明になったり。
足手まといを自覚し、ストウ村へ先に戻った。
・ロービン
一見して凛々しい青年で、筋力があり性格も良い。ホブゴブリン。名無し森でカウダ盗賊団と戦った際に協力してくれた。
獣種に似ているけれど、獣種よりももっと力強い異世界由来の種族、という情報を、ルブルムは本で読んだことがあるという。
リテルに魔法を教えてくれた他、魔術師が喜ぶ卵石というものをくれた。
・ナイトさん
元の世界では喜多山 馬吉 。元の世界では親の工場で働いていた日本人。
四十五歳の誕生日にこちらへ転生してきた。馬種 。元はニュナム領兵の隊長をしていた。
今は発明家兼ナイト商会のトップ。ヒモパンやガーターベルトやコンドームの発売もしており、リテルを商会に誘ってくれた。
サスペンションなど便利機能がついた馬車「ショゴウキ」(略してショゴちゃん)を提供してくれた。
・トレイン
日本の折り紙の兜みたいな兜をかぶっている猿種 。ボロ馬車の五人組傭兵団の頭。
かつてウォーリントの内乱で敵方にいたメリアンにチケを殺された。メリアンに一騎打ちを申し込み、返り討ちにあった。
・チケ(スマコ)
かつてトレインの傭兵団に在籍していた、トレインの恋人チケ。
しかしウォーリントの内乱に参加中に、日本は神戸のスマコという人物が異世界転生より目覚めた。
戦いを好まず、戦闘の最中にメリアンに殺された。
・ムニエール
ボロ馬車の五人組傭兵団の初老の魔術師。馬種 に獣種偽装しているっぽいが、真の獣種は不明。
異世界で目覚めたスマコへの理解を示し、『カマイタチ』という魔法を作ったりもした。
傭兵規約を破り寿命提出してでもウォーリントの内乱からスマコを撤退させるべきだと考えていたことを明かし、トレインたちと決別した。
・アスペール
しわがれ声の若い馬種 。ボロ馬車の五人組傭兵団の一人。ムニエール派。
・ビトル
カブトムシ兜を被った小柄な両生種 。ボロ馬車の五人組傭兵団の一人。トレイン派。
・ナット
ボロ馬車の御者をしていた猿種 。傭兵団の一人。トレイン派。
トレインを治してほしいと、紫魔石 を手にリテルたちへお願いしてきた。
・幕道 丈侍
元の世界における利照の親友。
小三からずっと同じクラス。頭が良い。
実家に居場所がなかった利照は、学校帰りはしょっちゅう丈侍の家に入り浸っていた。
・レムルース
地界 に存在する種族。肉体を持たず、こちらの世界では『契約』されていないと長くは留まれない。
『虫の牙』の呪詛のベースにされていた他、スノドロッフ村の人達が赤目を隠すために『契約』している。
レムルースは複数形で、単体はレムールと呼ぶ。
ディナ先輩の体からリテルの腕へと移ったレムールは、リテルと契約し「ポー」という名を与えられた。
●この世界 の単位
・ディエス
魔法を使うために消費する魔法代償(寿命)の最小単位。
魔術師が集中する一ディエスは一日分の寿命に相当するが、魔法代償を集中する訓練を積まない素人は一ディエス分を集中するのに何年分もの寿命を費やしてしまう恐れがある。
・ホーラ
一日を二十四に区切った時間の単位(十二進数的には「二十に区切って」いる)。
元の世界のほぼ一時間に相当する。
・ディヴ
一時間 の十二分の一となる時間の単位(十二進数的には「十に区切って」いる)。
元の世界のほぼ五分に相当する。
・クビトゥム
長さの単位。
本文中に説明はなかったが、元の世界における五十センチくらいに相当する。
トシテルが元の世界の長さに脳内変換しないでもいいくらい、リテルが日常的に使っていた単位。
・アブス
長さの単位。
元の世界における三メートルくらいに相当する。
・プロクル
長さの単位
一プロクル=百アブス。
この世界は十二進数のため、実際は(3m×12×12=)432mほど。
・通貨
銅貨 、銀貨 、金貨 、大金貨 。
十銅貨 (十二進数なので十二枚)=一銀貨
十銀貨 (十二進数なので十二枚)=一金貨
十金貨 (十二進数なので十二枚)=一大金貨
・暦
一年は、十ヶ月(十二進数なので十二ヶ月)+「神の日々」という五~六日間。
それぞれの月は、母の月、子の月、大地の月、風の月、水の月、海の月、光の月、空の月、星の月、火の月、父の月、闇の月と呼ばれる。
各月は、月の始めの十日(十二進数なので十二日)間は「月昼」週。次の六日間は「月黄昏」週、最後の十日(十二進数なので十二日)間が「月夜」週。トータルは十二進数で三十日間。
毎月の、月黄昏週の一日が満月で、月夜週の九日が新月。月は二つあるが、大きい月の周期が基本で、小さい月の周期は二日ほど遅れている。夜が明けるまでは日付は変わらない。
第八十一話終了時点では星の月夜週の九日の夜。
そう言い出したのはレムだった。
既に立ち去りかけていたムニエールとアスペールは立ち止まる。
「なるほど。そういうことなら話しても良いかな」
ムニエールは座りもせず、そのまま話し始めた。
レム、グッジョブだよ。
「チケが変わったのは、ウォーリントの内乱の最中だった。私達は王弟派の傭兵団として参加していた。前日までは確かにチケだった……しかしある晩、チケは高熱を出し、そして目覚めたときはもうスマコだった。私は魔術師だからね。判ったんだよ。チケの内側にはもともと二つの寿命の渦があった……しかし、スマコへと変わったとき、活性化している寿命の渦が昨日までとは違う方になっていたんだ」
「ム、ムニエールッ! お前、あのときそんなことまで言わなかったじゃねぇかっ!」
トレインがいつの間にか上体を起こしている。
カブトムシ兜のビトルと、御者をしていたナットはトレインが動き出さないよう両側からぐっと押さえ込んでいる。
「聞く耳を持たなかったじゃないか。その話をする前に、チケとスマコは別人だ、と言ったところで会話を打ち切ったのはトレイン、君だよ」
「くっ」
「話を続ける。回復魔法を使えた君なら知っているとは思うが、寿命の渦が人とは異なる者を魔術特異症と言う」
ムニエールは俺の方を見つめる。
自分の
「魔術特異症の中でも寿命の渦が二つ交わっている形というのは、私の師匠が持っていた記録の中でも二例しか報告がない。かなり珍しいものだ。だから私はスマコへ興味を持った。恋愛感情ではなく、純粋に魔術的な興味からだ。スマコは、ニホンのコウベという所で生まれ育ったと言っていた……そして驚くことに、チケと記憶を共有しているとも言った。私はスマコに様々な質問をし、一貫性があるかどうかを丁寧に調べた。私がかけているこのメガネという道具も、スマコに教えてもらったものだ。彼女の世界、ニホンでは、ガラスを透明に加工する技術が発達しており、視界がぼやける症状をこのメガネによって改善するのが普通だと教えてくれた」
「この兜も、そうだよな」
トレインが折り紙兜を脱いで膝の上に乗せる。
「ああ、食事の際、器代わりに使っていた大きな葉を四角く切り取り、折りたたんでその兜を作った。私がそれをもとに丈夫な革で同じ形の兜を作ってやったら気に入ってかぶっていた。スマコが死んだ後、トレインは形見といってその兜をずっと身につけているが、どういう気持でチケではなくスマコの遺したものを大事にしているのか、ずっと聞きたかったよ」
「……自分の若さを言い訳にはしたくはねぇけどさ、あのときは俺には何もねぇと思っちまっていたんだ。チケの関心はムニエールに、命は噛み千切る壁に持ってかれてよ……何もかも真っ暗な気持ちだったときによ、これのもとの葉っぱをさ、チケが一生懸命折りたたんでいたときの顔を思い出したんだよ。笑っていた……この兜にはよ、チケの笑顔の思い出が残ってたんだよ」
「そういうところだよ、トレイン。お前はずっとチケと呼び続けた。まるでスマコという存在を許さないとでも言わんばかりに。自分の存在を、話すことを否定しかしないトレインと、自分の話を聞いてくれる私。彼女が本来居た世界とは全く異なるこの世界にたった一人で放り込まれたスマコが、不安の中でより長い時間を過ごそうと考えるのはどちらだと思う? それに、スマコはチケの記憶もちゃんと理解していた。チケがお前と恋仲だったことも……だから、私とどうこうしようだなんて全く考えもしていない。戦場から早く立ち去りたがっていただけだ。彼女は他者を殺す覚悟を持ちたがらなかっただけなんだ。トレイン、お前は噛み千切る壁がスマコを殺したと言ったな。違うんだよ。後ろから見ていた私にはよく分かる。スマコでありチケである彼女は、噛み千切る壁の攻撃に気づいていなかったトレイン、お前をかばったんだよ。お前はあのときもう負けていたんだ……私がさっき『カマイタチ』を使ったのは、お前の判断誤りによって、俺たち全員が殺されるかもしれないと思ったからだ」
トレインはムニエールに向けていた目を見開いた。
その目からは涙がこぼれてはじめた。
ムニエールは、トレインからレムへと視線を移し、続ける。
「スマコの語る物事は確実に
カマイタチはやっぱりカマイタチだった。
ただ、大事なのはその先だ。
イメージできないものは魔法として成立させることができない。
さっき『カマイタチ』に消費された魔法代償量はそこまで多くなかった……というのを考えると、自分で体験したり知識を持っていないものでも、確固たるイメージさえできれば魔法として成立させられるということだよね。
しかもそれが、真実ではなくとも、イメージできてさえいれば良いということになる。
そう。真実でなくとも、ってのもとても大事。
実はカマイタチについては、俺も知識がある。
とはいっても、
風で真空を作って肌を裂くというのはガセだということ。
その話を聞いた当時、ちゃんと検索して調べて、カマイタチで皮膚が裂けるのは真空のせいじゃないってサイトを幾つか見つけたから……だから、カマイタチという魔物を聞きました、で、それを魔法化できるということは、真実を知っているからできるというよりは、そう強く信じ込めるから、と考えるのが重要で……ああ、でも、そっか。
俺は知識として『凍れ』の原理は、水分子の運動を抑えて結合させるというイメージを持っているけれど、それは実際にこの目で見たものじゃない。
学んだものだ。
だから、イメージさえしっかりできれば、
手がかりがまるでないお手上げ状態から、わずかでも見通しがついたというのは、俺的にはとても嬉しいこと。
「なんでもお見通しなんだな、ムニエールは……お前がうちの傭兵団の頭をやれば良かったじゃねぇか。お前だったら、傭兵規約を破ってもチケを……スマコを、あの戦場から連れ出せたんだろ? 言ってたもんな。罰則の寿命提出が何年だろうと、全て失うよりはマシだって」
「その話は既に終わっている。魔法には集中力が必要だ。仲間への指示出しと魔法を兼務できるほど私は器用ではない。トレイン、お前は団長をできるだけの実力は持っている。ただ、時として客観的な思考が苦手になるだけで……お前に足りないのは心構えだよ。何かあったらそうやってすぐ拗ねて。責任を持て。ビトルやナットはまだお前を慕ってくれている。その仲間まで失う前にいい加減、気付け」
厳しい言葉を並べるムニエールだが、その言葉の奥には温かいものを感じる。
ふぅ、とトレインが大きな溜息をついた。
それから両隣のビトルとナットに手をどけるように言うと、立ち上がり、それから片膝をつき、目線を合わせない丁寧なお辞儀をした。
「ムニエール、ご指導、ありがとうございました。またいつか、どこかの戦場で出会った時には、よろしくお願いする」
目線を地面へと外したまま、言葉使いまで丁寧なトレイン。
ビトルとナットも同様に片膝をつき、ムニエールから目線を外す。
当のムニエールは、俺たちに向けて片膝をつくと、それから再び……今度は本当に去っていった。
俺たちも出発の準備を始める。
トレインがお詫びにと金貨をいくらかメリアンへ握らせようとしたが、メリアンは面倒だからと突っ返す。
すると今度は俺に手渡してきた。
俺も断ったのだけど、本当にしつこかったので仕方なく受け取った。
もらいっぱなしってのもなんだか気がひけたので、別れ際に『腐臭の居眠り』をトレインの切り離された右腕へとかけてみた。
ドマースに教えてもらった、肉の鮮度を保つ魔法。
ニュナムで治療魔法屋を訪れてみると言っていたので、まあ気休め程度に。
俺たちがショゴちゃんに乗り込むと、彼らのボロ馬車はニュナムへと引き返していった。
ムニエールとアスペールの二人は徒歩だったから、すぐに追い越し、手を振った。
その日はそれから誰とも何とも出会わず、平和に夕暮れを迎えた。
移動の間に、レムの要望により、いったん『テレパシー』でつないだあと、触れている手を離しても通話がつながったままになる魔法『テレフォン』を作った。
レムはレムのお母さんから電話の存在を聞いていたのと、マドハトは俺の言うことを何でも素直に受け入れるためにイメージしやすかったようだが、既に『遠話』を何度か使用しているルブルムは覚えるのにちょっと苦戦していた。
で、その『テレフォン』での会話内では、やはりさっきのスマコの話題になった。
レムは、元の世界から
確かに……それは何らかの原因があるのかな。
ムニエールさんのお師匠さんが持っている記録には、二例だけって言ってたけど、俺みたいに親しい人以外には隠していたり、レムのお母さんみたいに亡くなってしまったりする例もあるから、実はもっと多いのかもしれないな。
あとは、さっきの立ち回りについて。
ムニエールがトレインを回復する魔法を使う可能性だってあったのに、こちらから攻撃を仕掛けてしまうところだった。
メリアンが止めてくれなければ、あのまましなくても良い戦闘になだれ込んでいたかもしれない。
どうすべきだったのかと、誰かがどう行動したら他の面子はどうそれを補うか、そんな相談をずっとしていた。
何かあったときに最高の一つを選択できるように。
夕飯の場所は、ニュナムからギルフォドまでに三つある共同夜営地の、一つ目と二つ目の中間からちょっと一つ目より、くらいかな。
ショゴちゃんに取り付けられているサスペンション&藁クッションのおかげで、以前の馬車に比べると揺れがとんでもなく改善されていて、おかげ様で出せるスピードも上がっている。
「この分だと、三日かからずに着けるかもですね」
地元が近くなってきたせいか、馴染んできたせいか、ロッキンさんが最近はよく会話に参加してくれる。
ちなみに、今日の主食はレンズとスモークチキンのニンニクが効いたスープ。
レンズというのはレンズみたいな形の豆のこと。
確かにレンズっぽい形。
ルブルムは、さっきのムニエールのメガネと、ディナ先輩の屋敷で俺が氷から作ったレンズとの共通点を挙げ、「この豆に似た形だからレンズって言うのか?」って聞いてきた……けど、実はレンズの語源も歴史もよく知らない。
そもそも異世界だから関連性なんてないと思うけど。
手早く食事の片付けをして、出発する。
「明日はマンクソム砦を目指すかもしれないし、松明を灯してでも今夜は夜通し走らせよう」
メリアンが突然、そんなことを言い出した。
「マンクソム砦? 街道から外れるけど」
ルブルムが聞き返す……俺も、ルブルムに共有させてもらって学んだ記憶からその知識を引っ張り出す。
ギルフォドがまだギルフォルド王国領だった頃、ラトウィヂ王国側の最前線はルイース
マンクソム砦は王国直轄地で、名無し森砦に比べて規模が大きく、魔術師組合の支部も設置されているほど。
なぜここがそれだけ力を入れられているかというと、ジャ・バ・オ・クーの洞窟に対する防衛拠点ともなっているからだ。
ジャ・バ・オ・クーの洞窟は、その深い場所が
ちなみに、ニュナムからギルフォドまでに三つある共同夜営地の二つ目から、街道はギルフォド方面とマンクソム砦方面とに分かれている……というより昔はマンクソム砦だけへと通じていて、ラトウィヂ王国がギルフォドを手に入れてしばらくしてから新しく街道が整備された……という感じ。
問題は、三つ目の共同夜営地からも、マンクソム砦への道が伸びていること。
今まではただ街道を突っ走っていたらラビツの後を追えたけど、道が二つに分かれているということは、選択次第ではすれ違う恐れもあるってこと。
「どうするの? 二手に分かれるの?」
レムが心配そうに俺に尋ねる。
ラビツの顔を知っているのは、ここでは俺とメリアンだけ。
魔物も出やすくなる危険性を考えると、戦力の分散は避けたい所。
さっき作った『テレフォン』だって、どのくらい離れても通じるかまでは確認していないし、だいいち魔法発動時は『テレパシー』同様に触れ合う必要がある。
何かあったときのために繋ぎっぱなしなんてのは、魔法代償の消費を考えると現実的じゃない。
そういやゴーレムの遠隔操作範囲ってどのくらいあるんだろう……と、ゴーレムを取り出してみて、気付く。
ゴーレムの本体に使用しているあのロービンからもらった卵石にヒビが入っていることに。
● 主な登場者
・
利照として日本で生き、十五歳の誕生日に熱が出て意識を失うまでの記憶を、同様に十五歳の誕生日に熱を出して寝込んでいたリテルとして取り戻す。ただ、この世界は十二進数なのでリテルの年齢は十七歳ということになる。
リテルの記憶は意識を集中させれば思い出すことができる。利照はこれを「記憶の端末」と呼んでいる。
ケティとの初体験チャンスに戸惑っているときに、頭痛と共に不能となった。不能は魔女の呪詛による。
その呪詛を作ったカエルレウムに弟子入りした。魔術特異症。
レムールの「ポー」と契約。伸ばしたポーの中においても、自分の体の一部のように魔法代償を集中したり魔法を使えることがわかった。
現在は、呪詛持ちのラビツ一行を追跡している。
・カエルレウム師匠
寄らずの森に二百年ほど住んでいる、青い長髪の魔女。
肉体の成長を止めているため、見た目は若い美人。家では無防備な格好をしている。
寄らずの森のゴブリンが増えすぎないよう、繁殖を制限する呪詛をかけた張本人。
ディナ先輩、ルブルム、リテルの魔法の師匠。ストウ村の住人からは単に「魔女様」と呼ばれることも。
自分の興味のないことに対しては、例え国王の誘いであっても断る。
・ルブルム
寄らずの森の魔女カエルレウムの弟子。赤髪の美少女。リテルと同い年くらい。
カエルレウムの弟子を、リテルのことも含め「家族」だと考えている。
質問好きで、知的好奇心旺盛。リテルと一緒に旅に出るまでは無防備だった。
利照へ好意を持っていることを自覚し始めている。レムとも仲が良くなった。
・マドハト
赤ん坊のときに『取り替え子』の被害に遭い、ゴブリン魔術師として育った。
今は
ゴブリンの時に瀕死状態だった自分を助けてくれたリテルに懐き、ずっとついてきている。
クッサンドラを救うためにエクシとクッサンドラの中身を『取り替え子』で入れ替えた。
明るい性格。楽しいことばかり追い求めるゴブリン的思考だったが、利照と一緒にものを考えるようになった。
・ディナ先輩
フォーリーに住むカエルレウムの弟子にしてルブルムの先輩。
男全般に対する嫌悪が凄まじいが、リテルのことは弟弟子と認めてくれた。
アールヴと
フォーリー以北への旅について、大量の忠告をしてくれた。
・メリアン
ディナ先輩が手配した護衛。リテルたちを鍛える依頼も同時に受けている。
ものすごい筋肉と、角と副乳を持つ
円盾と小剣(ごつい)を二つずつ持ち、手にはスパイク付きのプレートナックルを装備。
騎馬戦も上手く、『戦技』や『気配感知』を使う。どうやらラビツと結婚間近。
・ラビツ
ゴブリン魔術師によって変異してしまったカエルレウムの呪詛をストウ村の人々に伝染させた。
兎種ハクトッのラビツをリーダーに、猿種マンッが二人と先祖返りの猫種バステトッが一人の四人組。傭兵集団。
ラビツは、ケティの唇をリテルのファーストキスよりも前に奪った。おっぱい大好き。
北の国境付近を目指している。本人たちは呪詛にかかっていることに気付いていない。
リテルたちより二日早くアイシスを出発した。ギルフォドに向かっているらしい。
・
クッサンドラは、病弱だったマドハト(中身はゴブリン)の世話を焼いていたゴド村出身の
フォーリーで領兵をしていたが、マドハトの『取り替え子』により、瀕死の状態からエクシを体を交換された。
クッサンドラの肉体を傷つけ、その中に入ったエクシは死亡。
エクシはリテルと同郷で幼馴染の一人。ビンスン兄ちゃんと同い年。フォーリーで領兵をやっていた。
父ハグリーズからのエクシへの虐待を防いでくれていた姉が、クッサンドラの兄のもとへ嫁いだせいで、守ってくれる者が居なくなり、エクシは歪んだ。
クッサンドラは、エクシから姉を奪ったことに責任を感じており、エクシが犯した罪を償うべく、エクシが殺しかけたドマースへ、その代償として
・レム
バータフラ・レムペー。クラースト村のバータフラ世代の五番目の子。
魔法に長けた
リテルより若いが胸はかなり育っている様子。髪型はツインテール。
その母親は利照同様に異世界(イギリス)から来た。
名無し森砦の兵としてルブルム一行の護衛として同行。洞察力があり、頭の回転も早い。
利照のことをお兄ちゃんと呼び、慕っている。現在はルブルムやマドハト同様に頼れる仲間。
・ロッキン・フライ
名無し森砦の兵士。
フライ
ウォルラースとダイクの計画を知らされていなかった。正義の心を持っているが影が薄い。
ルブルム一行の護衛として同行。指笛で相棒の馬を呼べる。兄弟は皆、強い騎士。
本当はルイース
・ケティ
リテルの幼馴染。一歳年上の女子。
旅の傭兵ラビツに唇を奪われ呪詛に伝染し、それを更にリテルへと伝染させた。
カエルレウムが呪詛解除のために村人へ協力要請した際、志願し、リテル達がフォーリーを発つ時、メリアンと共に合流した。
盗賊団に襲われた際は死にかけたり、毒で意識不明になったり。
足手まといを自覚し、ストウ村へ先に戻った。
・ロービン
一見して凛々しい青年で、筋力があり性格も良い。ホブゴブリン。名無し森でカウダ盗賊団と戦った際に協力してくれた。
獣種に似ているけれど、獣種よりももっと力強い異世界由来の種族、という情報を、ルブルムは本で読んだことがあるという。
リテルに魔法を教えてくれた他、魔術師が喜ぶ卵石というものをくれた。
・ナイトさん
元の世界では
四十五歳の誕生日にこちらへ転生してきた。
今は発明家兼ナイト商会のトップ。ヒモパンやガーターベルトやコンドームの発売もしており、リテルを商会に誘ってくれた。
サスペンションなど便利機能がついた馬車「ショゴウキ」(略してショゴちゃん)を提供してくれた。
・トレイン
日本の折り紙の兜みたいな兜をかぶっている
かつてウォーリントの内乱で敵方にいたメリアンにチケを殺された。メリアンに一騎打ちを申し込み、返り討ちにあった。
・チケ(スマコ)
かつてトレインの傭兵団に在籍していた、トレインの恋人チケ。
しかしウォーリントの内乱に参加中に、日本は神戸のスマコという人物が異世界転生より目覚めた。
戦いを好まず、戦闘の最中にメリアンに殺された。
・ムニエール
ボロ馬車の五人組傭兵団の初老の魔術師。
異世界で目覚めたスマコへの理解を示し、『カマイタチ』という魔法を作ったりもした。
傭兵規約を破り寿命提出してでもウォーリントの内乱からスマコを撤退させるべきだと考えていたことを明かし、トレインたちと決別した。
・アスペール
しわがれ声の若い
・ビトル
カブトムシ兜を被った小柄な
・ナット
ボロ馬車の御者をしていた
トレインを治してほしいと、
・
元の世界における利照の親友。
小三からずっと同じクラス。頭が良い。
実家に居場所がなかった利照は、学校帰りはしょっちゅう丈侍の家に入り浸っていた。
・レムルース
『虫の牙』の呪詛のベースにされていた他、スノドロッフ村の人達が赤目を隠すために『契約』している。
レムルースは複数形で、単体はレムールと呼ぶ。
ディナ先輩の体からリテルの腕へと移ったレムールは、リテルと契約し「ポー」という名を与えられた。
●
・ディエス
魔法を使うために消費する魔法代償(寿命)の最小単位。
魔術師が集中する一ディエスは一日分の寿命に相当するが、魔法代償を集中する訓練を積まない素人は一ディエス分を集中するのに何年分もの寿命を費やしてしまう恐れがある。
・ホーラ
一日を二十四に区切った時間の単位(十二進数的には「二十に区切って」いる)。
元の世界のほぼ一時間に相当する。
・ディヴ
一
元の世界のほぼ五分に相当する。
・クビトゥム
長さの単位。
本文中に説明はなかったが、元の世界における五十センチくらいに相当する。
トシテルが元の世界の長さに脳内変換しないでもいいくらい、リテルが日常的に使っていた単位。
・アブス
長さの単位。
元の世界における三メートルくらいに相当する。
・プロクル
長さの単位
一プロクル=百アブス。
この世界は十二進数のため、実際は(3m×12×12=)432mほど。
・通貨
十
十
十
・暦
一年は、十ヶ月(十二進数なので十二ヶ月)+「神の日々」という五~六日間。
それぞれの月は、母の月、子の月、大地の月、風の月、水の月、海の月、光の月、空の月、星の月、火の月、父の月、闇の月と呼ばれる。
各月は、月の始めの十日(十二進数なので十二日)間は「月昼」週。次の六日間は「月黄昏」週、最後の十日(十二進数なので十二日)間が「月夜」週。トータルは十二進数で三十日間。
毎月の、月黄昏週の一日が満月で、月夜週の九日が新月。月は二つあるが、大きい月の周期が基本で、小さい月の周期は二日ほど遅れている。夜が明けるまでは日付は変わらない。
第八十一話終了時点では星の月夜週の九日の夜。