#58 つながる心
文字数 8,533文字
(リテル達は、私の世代……バータフラを三人殺したでしょ)
あの時はケティが殺されかけて必死だった。
(自分たちの命を守るためだ。襲ってこなかったら、返り討ちにもしなかった)
(わかってる。アッタとカンタは自業自得。ネルデーだって先制攻撃したのに、飛び道具持たない相手に接近されて反撃で命を落としたんだから文句は言えない)
レムの記憶がまるごと送られてくる。
ケティをさらったのは、俺たちをあのままウォルラースへぶつけようとしたためだった。
しかしメリアンの攻撃力の凄まじさを目の当たりにしたミンが、とにかくレムを逃がそうとした。
実際、俺たちはレムのことは『魔力感知』で見つけてはいなかったし、ケティを運んできた馬にミンが乗って逃げた時、まんまとその後を追わされた。
(ミン兄ちゃんを殺した原因がリテル達だったら、私はこんな決断はしなかった。いくらママと同じ世界が出身だからといっても)
俺はレムのことを、この世界のことを、少し甘く見ていた気がする。
レムのお母さんが俺と同じ世界から来たことや、レムがタービタさんへ見せた優しさ、ディナ先輩がレムを生かしたいって言ったことなんかでちょっとテンション上げちゃってて、レムの仲間たちを殺した俺たちが報復される可能性ってのを勝手に低く見積もっていた。
俺たちは殺し合った敵同士だったんだ……そういう感覚を、常に失ってはいけないんだ。
(リテルもウォルラースへ恨みがあるんでしょ? 怒りの感情はさっきちょっと伝わった)
(ああ。ウォルラースを倒したいという気持ちはある。だけどそれよりも優先しなきゃいけない任務もある)
(手伝うよ。だからリテルは代わりに、私が失ったものをちょうだい)
再びレムの意思が、覚悟が、まるっと送られてくる。
俺が「お兄ちゃん」になれば、ルブルムやメリアンに対しての報復は決してしない、というその想いが。
(リテルは、どうして迷っているの?)
迷っていることが、伝わってしまうのか。
(迷っていることが伝わるならば、その理由まで伝わったりはしないのか?)
(リテルが使っているこの魔法は、『同胞の絆』と同じように心の中が触れ合うけれど、でもこっちの魔法はしょっちゅう壁みたいなのを感じるよ)
レムが伝えてくる言葉に、俺はまだ答えを返せないでいる。
俺の判断次第では再び命をかけた争いが始まるかもしれないという恐怖や、可愛い女子な仲間を増やすことへの抵抗感……というか、ケティやルブルムを悪い方向へ刺激したくない気持ち、元の世界の利照 の姉弟とはうまくやれていなかった不安。
心がダイレクトに伝わってしまうこの魔法の中でまだなお、嘘や欺きを疑っている自分もいる。
(なあ、レムはどうしてそんなすぐに……自分の仲間を殺した相手の一人でもある俺を、信じたり、家族にしたり、できるんだ?)
(リテルが特別だから、かな)
(俺が? 特別?)
(うん。私の宝物を共有できる)
(宝物を? 共有?)
(えーとね……私のママはね、ママが居た世界のことを色々と教えてくれた。私にとっては宝物みたいな物語。でもその宝物は、村の誰とも共有することはできなかった。村の人たちはね、ママのこと、便利な魔法を作る道具みたいにしか考えてなかったんだと思う。貧しい村だったからね、生きることに精一杯で、それ以外のことは価値がとても低かった)
何故か元の世界の両親を思い出す。
自分が「利照」としては認められず、「父の息子」「母の息子」として相応しい結果を出した時にしか価値を与えられなかったことを。
(ママはたくさんの魔法を作って、村の人達のために魔法をたくさん使った。だけど死んでしまった後、村の人達が言った言葉は酷かった。「死んで不便になった」って……ねぇ、魔法って使えば使うほど寿命が減るんでしょ? そんな大事なこと、私が知ったのはタービタさんとつながってからだよ)
レムはその心を何一つ隠さず、俺に伝えてくる。
レムが伝えてくる言葉それ自体だけじゃなく、言葉の裏側にある、レムが今まで体験したことにまつわる記憶と感情も一緒に流れ込んでくる。
オーケストラみたいに。
言葉は主旋律。それ以外の後ろの音も全て、主旋律とつながっていて。
そんなレムの音楽を聴いて、俺の中にも音が生まれる。
レムの音と和音になりそうな、優しい音が。
(レム)
(うん)
(俺は元の世界に姉と弟が居て、両親含めて家族とはうまくいってなかった。だから、誰かと家族になるとか、レムのお兄ちゃんをやるとか、そういうことに対して自信がないどころか不安しかない。間柄っていうのは、その関係を保証するものではないから。だから、レムの期待を裏切るかもしれないし、すれ違うかもしれない……でも、レムの力になりたいという気持ちは、あるんだ)
(それで十分だよ。それに、お姉ちゃんと弟しかいなかったんなら、妹は初めてでしょ? だからきっと今までとは違うよ)
(レムは、ずいぶんと前向きなんだな)
(ママがね、教えてくれたママの故郷の言葉があるの。「食べるために生きるな。生きるために食べろ」って言葉。家族だって同じでしょ。家族は先じゃなく後。家族だからって縛り付けるものじゃなくって、自分らしく生きるために必要な相手が家族になるんでしょ?)
レムが村を出てきたときの想いも一緒に伝わってくる。
村人たちがレムに、母親から魔法を習っただろうと、それを村のために使えと、詰め寄ったこと。
レムは魔法は習っていないと答えた。
村のために死んだ母親へ敬意を払わなかった村人たちのために、レムの宝物を共有できず、生きることのために他の全てを犠牲にしようとする村人たちのために、自分の人生を使いたくないと考えたから。
そして村の外へ生きる術を探しに出た。
バータフラ世代がレムと一緒についてくることになったのは、村の中で唯一、レムの宝物を否定しなかったバータフラ・ミンがレムのことを心配したから。
(レムは強いんだな)
(そうだよ。私は強いんだよ)
もしも、これが通常の会話なら、俺はそのままレムの言葉を信じただろう。
でも、これは心と心の通話だ。
レムの言葉に閉じ込められたバックグラウンドの想いが、レムの言葉につながっている深い深い心の底の想いが、俺の心に届いた。
ミンは、レムにだけではなく、誰にでも優しかった。
だからこそ、バータフラの他の三人もミンを慕い、ついてきた。
ただ、その記憶の中に、レムがお兄ちゃんと呼んでいたミンへの本当の想いも垣間見えた。
ミンは誰にでも優しい。誰にでも良い格好を見せる。でもそれは、嫌われるのが怖いだけ。相手を否定しないのは、自分を否定されるのが怖いから。
独りで生きてゆける自信がなかったレムは、ミンのその優しさを利用した……お互い様と。
確かにレムは強い。
でもそれは無敵な強さではなく、自分の心が折れないために自分自身を精一杯支えている強さ。
その芯を強くするために、他の場所から強さをかき集めてきている。
なんでかな。
レムはどこか、利照 と似ているような気がした。
(案外、本当に兄妹みたいになれるかもな)
その言葉を送った直後、『テレパシー』の効果時間が切れるのを感じた。
俺は魔法を延長せずに終えた。
「リテル」
肉体へ意識が戻ってきた俺へ、ケティとルブルムが同時に話しかけてきた。
「大丈夫。レムとはちゃんと話せた。敵対はしない」
タービタさんが安堵の表情に浮かべるのとは逆に、ケティの表情は曇る。
「口説いたの?」
「そんなんじゃないよ……」
またその反応か……ケティの態度に対して煩わしさを感じている利照 を見つける。
そんな自分に対して嫌悪を感じる。
ケティとリテルとの距離感を縮めたのは利照 だから。
彼女としてならケティの態度は間違っていないから。
『テレパシー』を使って打ち明けるか……でも、そうすると利照 がケティを弄んだも同然なことを、利照 がリテルの体を乗っ取っていることを、ケティに受け止めてもらうことになる。
気持ちの整理には時間がかかるだろうし、少なくとも今はそんなゆとりは、時間的にも俺の精神的にもない……なんて全部、俺側の理由じゃないか。
勝手にもほどがある。
今の俺の、どこが紳士なんだ。
「ケティ」
「なに?」
不機嫌な声。当然だよな。
「ケティが俺に対して不信感を覚えるのは、俺が悪い。それはわかっている。でも、信じてほしいのは、ケティのことは本当に大切にしたいと思っていること。ただ、今はまだどうしても言えないこともある。ケティが怪しむのは当然だし、申し訳ないとは思うけれど今は待っていてほしい」
ケティと見つめ合う時間がやけに長く感じる。
「わかった」
ケティが再び口を開く。
「……じゃあ……ストウ村で待ってるね」
ケティが俺にぎゅっとしがみつく。
俺もケティを抱きしめる。
あの日、あの朝と違って、俺とケティとの間はお互いの体温も柔らかさも感じ難い無骨な革鎧が隔てている。
それでも今までで一番、利照 はケティに向き合えている気がした。
ケティが俺から離れたあと、一呼吸置く。
「ベイグルさん、タービタさん、お待たせしてすみません。でももう少しだけ時間をください」
「了承なのである」
「ありがとうございます。では……ルブルム」
「はい」
俺はルブルムの手を取る。
「さっきの魔法『テレパシー』を教えるから」
ルブルムの涙は俺の中ではまだ乾いていない。
レムの話をするにしても、元の世界の話を持ち出す必要があるし、この方法が一番良いと思うんだ。
「いつでもいい」
「いくよ。『テレパシー』」
目を閉じて、意識を集中する。
記憶の端末で、ルブルムにつながるUSBマークに触れる。
(ルブルム……聞こえる?)
(聞こえる……本当に『遠話』に似ている)
(ルブルムが意識を失っている間のこと、さっきは言葉で軽く説明したけれど、ちゃんと伝えておきたくて。ディナ先輩と話したこと、レムとの戦闘、ポーとの契約、いまレムと話したことも。全部送るから)
(わかった)
ルブルムが意識を失ってからほんのさっきまでのことを全て、俺は思い出しながらルブルムへと送った。
そしてもう一つ。
ケティとリテルとの関係についても。
(嫌だ)
(ルブルム?)
(リテルはケティのものでもいい。でもトシテルは私の家族だ。頼りにしていいって言った。なんで居なくなることを考えている?)
(俺だっていなくなりたくなんかない。でも、どうして今の状態で居られるのかわからないんだし、この状態がいつまでもつのかだって)
(嫌だ)
ルブルムの感情がダイレクトに伝わってくる。
苛立ち、不安、悲しみ、恐怖、寂しさ、そして圧倒的な信頼感。
それと、今はまだ名前をつけられないけれど、心の奥がほわりと温かくなる気持ち。
(トシテルは、思考を止めている)
!
……そうか。
そうだよな。
(ルブルム、ありがとう。そうだよな。その言葉はすごく刺さった)
(刺す? そういうつもりじゃない。攻撃なんてするつもりじゃ)
(あー違う。ごめん。元の世界ではね、刺すという言葉を、ナイフとかを突き立てるような「刺す」だけじゃなくて、心に深く響いた、みたいな意味でも使っててね)
(心に「刺す」)
(そう。悪い意味だけじゃなく、良い意味でも使うんだ)
(こっちの意味の「刺す」も、レムの言っていた宝物の一つみたい)
(そうだね)
元の世界の曲、元の世界の知識、元の世界の文化や習慣、元の世界の言葉や考え方。
ミュリエルさんがレムと宝物を共有できたように、俺もルブルムやカエルレウム師匠やディナ先輩たちと宝物を共有できている。
宝物の共有というのは、異世界での絶望的な孤独感からの救済だ。
その救いを、ルブルムは俺に……。
(ルブルムもね、俺にとっては宝物だよ)
わ、俺、どさくさ紛れに何言ってんだ。
というか、油断してて気持ちをそのままつるっと流しちゃった……けど。
ずっと伝えたかった想いではあるんだろうな。
リテルではなく利照 の。
(私は嫌だな)
(え?)
(私は、トシテルにとって、前の世界の思い出にはなりたくない。トシテルの今の世界に、一緒にいたい)
ダメだ。
これ以上この話題を続けたら、ルブルムのことをどんどん好きになっちゃう。
俺は、ルブルムとの『テレパシー』を、終了した。
それからは忙しかった。
レムに『カウダの毒消し』を使用して起こしたあと、軽く打ち合わせをしてからメリアン達が野営していたあの広場へと戻る。
まずはロッキンに説明する……レムが、ロッキン同様、ダイク隊長の指示に疑問を感じ、抗ったがために捕縛されていたこと。
スノドロッフの子たちは……スノドロッフの所在をロッキンに知らせないために、街道で襲われてさらわれたことにした。
タービタもレムと一緒に捕縛されていたと。ミンは二人を助けようとしていたこと。
そしてその作戦をまるで見越していたかのように、ブラデレズンが口止めされ……というか放置し過ぎで失血死していたこと。
……そこまで入念にシナリオを作ったのに、全部、台無しになった。
「お前らが寄らずの森の魔女の弟子とその従者で……そしてお前らがアルバスか」
見るからに王子様っぽい白馬にまたがった、この感じ悪い爬虫種 によって。
● 主な登場者
・利照 /リテル
利照として日本で生き、十五歳の誕生日に熱が出て意識を失うまでの記憶を、同様に十五歳の誕生日に熱を出して寝込んでいたリテルとして取り戻す。ただ、この世界は十二進数なのでリテルの年齢は十七歳ということになる。
リテルの記憶は意識を集中させれば思い出すことができる。利照はこれを「記憶の端末」と呼んでいる。
ケティとの初体験チャンスに戸惑っているときに、頭痛と共に不能となった。不能は魔女の呪詛による。
その呪詛を作ったカエルレウムに弟子入りした。魔術特異症。猿種 。
レムールの「ポー」と契約。現在は、呪詛持ちのラビツ一行を追跡している。
・カエルレウム師匠
寄らずの森に二百年ほど住んでいる、青い長髪の魔女。猿種 。
肉体の成長を止めているため、見た目は若い美人で、家では無防備な格好をしている。
寄らずの森のゴブリンが増えすぎないよう、繁殖を制限する呪詛をかけた張本人。
ディナ先輩、ルブルム、リテルの魔法の師匠。
・ルブルム
寄らずの森の魔女カエルレウムの弟子。赤髪の美少女。リテルと同い年くらい。猿種 のホムンクルス。
かつて好奇心がゆえにアルブムを泣かせてしまったことをずっと気にしている。
カエルレウムの弟子を、リテルのことも含め「家族」だと考えている。
質問好きで、知的好奇心旺盛。驚くほど無防備。
ディナの屋敷でトシテルとの距離がぐっと近づいた。戦闘時の息の合い方はケティが嫉妬するほど。
ケティがリテルとキスしたり痴話喧嘩したりするのを見て涙を流したが、その理由は自分で理解できていない。
・ディナ先輩
フォーリーに住むカエルレウムの弟子にしてルブルムの先輩。
男全般に対する嫌悪が凄まじいが、リテルのことは弟弟子と認めてくれた。
アールヴと猿種 のハーフ。壮絶な過去を持つ。
フォーリー以北への旅について、大量の忠告をしてくれた。
・ケティ
リテルの幼馴染。一歳年上の女子。猿種 。
旅の傭兵ラビツに唇を奪われ呪詛に伝染し、それを更にリテルへと伝染させた。
カエルレウムが呪詛解除のために村人へ協力要請した際、志願し、リテル達がフォーリーを発つ時、メリアンと共に合流した。
盗賊団に襲われた際は死にかけたり、毒で意識不明になったり。
足手まといを自覚し、ストウ村へ先に戻る決意をした。
・メリアン
ディナ先輩が手配した護衛。
リテルたちを鍛える依頼も同時に受けている。
ものすごい筋肉と、角と副乳を持つ牛種 の半返りの頼もしい傭兵。
円盾と小剣(ごつい)を二つずつ持ち、手にはスパイク付きのプレートナックルを装備。
謎の襲撃犯を撃退し、リテル達と合流。
騎馬戦も上手な様子。どうやらラビツの知り合いである様子。
・ラビツ
ゴブリン魔術師によって変異してしまったカエルレウムの呪詛をストウ村の人々に伝染させた。
兎種ハクトッのラビツをリーダーに、猿種マンッが二人と先祖返りの猫種バステトッが一人の四人組。傭兵集団。
ラビツは、ケティの唇をリテルのファーストキスよりも前に奪った。
北の国境付近を目指している。本人たちは呪詛にかかっていることに気付いていない。
・ウォルラース
かつてディナ先輩とその母を絶望のどん底へ叩き落とした張本人。
最近は、名無し森砦を守る兵士たちと手を組み、スノドロッフの子どもたちを狙っていた。
本来は身を守るための魔法品を、相手の無力化に用いたりなど、魔法品を使いこなす。
自分が生き残るためならば平気で仲間を捨てる。
・スノドロッフの子どもたち
魔石 が採れるという伝説の地スノドロッフに住む三人の子どもたち。全員アルバス。
男子がトーム。ミトとモペトが女子。全員、猫種 の先祖返り。
盗賊団に誘拐された挙げ句、ケティ同様の毒で意識不明状態にされていたが、白魔石 に封じられていた魔法で回復した。
全員、村へと帰った。
・ベイグル
猫種 の先祖返り。アルバスだが、レムルースで赤目を隠している。
槍を持つスノドロッフ村の村長。魔法に詳しい。
・タービタ
数日前に失踪したスノドロッフ村の女性。
猫種 の先祖返り。アルバスだが、レムルースで赤目を隠している。
レムに『同胞の絆』で操作されていたが、今は正気を取り戻している。
・レム
バータフラ・レムペー。クラースト村のバータフラ世代の五番目の子。
魔法に長けた爬虫種 の少女。
リテルより若いが胸はかなり育っている様子。髪型はツインテール。
カウダの毒を塗った吹き矢や短剣を使う。
母親は利照同様に異世界(イギリス)から来た。
リテルにお兄ちゃんになるよう要求した。
・ミュリエル・ロンドン
イギリス、ソールズベリー出身。二千年に十九歳でこの世界に転生してきた。
クラースト村での名前はファーヌ・オツォ(ファーヌ世代の七番目の子)。
レムの母親。村のためにと魔法の使い過ぎで寿命の渦を擦り減らし、若くして死亡した。
・ミン
バータフラ・ミン。クラースト村のバータフラ世代の一番目の子。
レムが村を出る時、心配して着いてきたが、誰にでも優しい。
バータフラ世代ではレム以外からも信頼されているが、嫌われるのを恐れて強く出られない。
洞窟に隠れていたウォルラースがリテル達に取り入るために利用され、不幸な最期をとげた。
・ダイク
名無し森砦の守備隊長。勲爵 。
名無し森砦は、クスフォード虹爵領都フォーリーと王都キャンロル、ボートー紅爵領都アイシスとを結ぶ街道の分岐付近にある砦で、王国直轄の砦。
刀とノコギリが合わさったような凶悪な武器を使う。
名無し森砦の隊長という地位を、ダイク自身は正当な評価ではないと感じていていたため、架空の盗賊団カウダを作り出し、時折旅人を襲っていた。
ウォルラースと手を組んでいたが、ウォルラースが渡した薬を飲んで暴走し、倒された。
・ブラデレズン
名無し森砦の兵士。
ダイクの部下で「盗賊団カウダ」活動に参加する輩のうち、洞窟前の戦いでの唯一の生存者。
右手首を切り落とされ捕縛。カウダの麻痺毒で意識を失っていたが、翌朝には失血死した。
・ロッキン・フライ
名無し森砦の兵士。
フライ濁爵 の三男。
ウォルラースとダイクの計画を唯一知らされていなかった兵士。正義の心を持っている。
・レムルース
地界 に存在する種族。肉体を持たず、こちらの世界では『契約』されていないと長くは留まれない。
『虫の牙』の呪詛のベースにされていた他、スノドロッフ村の人達が赤目を隠すために『契約』している。
レムルースは複数形で、単体はレムールと呼ぶ。
ディナ先輩の体からリテルの腕へと移ったレムールは、リテルと契約し「ポー」という名を与えられた。
● この世界の単位
・ディエス
魔法を使うために消費する魔法代償(寿命)の最小単位。
魔術師が集中する一ディエスは一日分の寿命に相当するが、魔法代償を集中する訓練を積まない素人は一ディエス分を集中するのに何年分もの寿命を費やしてしまう恐れがある。
・ホーラ
一日を二十四に区切った時間の単位(十二進数的には「二十に区切って」いる)。
元の世界のほぼ一時間に相当する。
・ディヴ
一時間 の十二分の一となる時間の単位(十二進数的には「十に区切って」いる)。
元の世界のほぼ五分に相当する。
・クビトゥム
長さの単位。
本文中に説明はなかったが、元の世界における五十センチくらいに相当する。
トシテルが元の世界の長さに脳内変換しないでもいいくらい、リテルが日常的に使っていた単位。
・アブス
長さの単位。
元の世界における三メートルくらいに相当する。
・プロクル
長さの単位
一プロクル=百アブス。
この世界は十二進数のため、実際は(3m×12×12=)432mほど。
・通貨
銅貨 、銀貨 。
十銅貨 (十二進数なので十二枚)=一銀貨
あの時はケティが殺されかけて必死だった。
(自分たちの命を守るためだ。襲ってこなかったら、返り討ちにもしなかった)
(わかってる。アッタとカンタは自業自得。ネルデーだって先制攻撃したのに、飛び道具持たない相手に接近されて反撃で命を落としたんだから文句は言えない)
レムの記憶がまるごと送られてくる。
ケティをさらったのは、俺たちをあのままウォルラースへぶつけようとしたためだった。
しかしメリアンの攻撃力の凄まじさを目の当たりにしたミンが、とにかくレムを逃がそうとした。
実際、俺たちはレムのことは『魔力感知』で見つけてはいなかったし、ケティを運んできた馬にミンが乗って逃げた時、まんまとその後を追わされた。
(ミン兄ちゃんを殺した原因がリテル達だったら、私はこんな決断はしなかった。いくらママと同じ世界が出身だからといっても)
俺はレムのことを、この世界のことを、少し甘く見ていた気がする。
レムのお母さんが俺と同じ世界から来たことや、レムがタービタさんへ見せた優しさ、ディナ先輩がレムを生かしたいって言ったことなんかでちょっとテンション上げちゃってて、レムの仲間たちを殺した俺たちが報復される可能性ってのを勝手に低く見積もっていた。
俺たちは殺し合った敵同士だったんだ……そういう感覚を、常に失ってはいけないんだ。
(リテルもウォルラースへ恨みがあるんでしょ? 怒りの感情はさっきちょっと伝わった)
(ああ。ウォルラースを倒したいという気持ちはある。だけどそれよりも優先しなきゃいけない任務もある)
(手伝うよ。だからリテルは代わりに、私が失ったものをちょうだい)
再びレムの意思が、覚悟が、まるっと送られてくる。
俺が「お兄ちゃん」になれば、ルブルムやメリアンに対しての報復は決してしない、というその想いが。
(リテルは、どうして迷っているの?)
迷っていることが、伝わってしまうのか。
(迷っていることが伝わるならば、その理由まで伝わったりはしないのか?)
(リテルが使っているこの魔法は、『同胞の絆』と同じように心の中が触れ合うけれど、でもこっちの魔法はしょっちゅう壁みたいなのを感じるよ)
レムが伝えてくる言葉に、俺はまだ答えを返せないでいる。
俺の判断次第では再び命をかけた争いが始まるかもしれないという恐怖や、可愛い女子な仲間を増やすことへの抵抗感……というか、ケティやルブルムを悪い方向へ刺激したくない気持ち、元の世界の
心がダイレクトに伝わってしまうこの魔法の中でまだなお、嘘や欺きを疑っている自分もいる。
(なあ、レムはどうしてそんなすぐに……自分の仲間を殺した相手の一人でもある俺を、信じたり、家族にしたり、できるんだ?)
(リテルが特別だから、かな)
(俺が? 特別?)
(うん。私の宝物を共有できる)
(宝物を? 共有?)
(えーとね……私のママはね、ママが居た世界のことを色々と教えてくれた。私にとっては宝物みたいな物語。でもその宝物は、村の誰とも共有することはできなかった。村の人たちはね、ママのこと、便利な魔法を作る道具みたいにしか考えてなかったんだと思う。貧しい村だったからね、生きることに精一杯で、それ以外のことは価値がとても低かった)
何故か元の世界の両親を思い出す。
自分が「利照」としては認められず、「父の息子」「母の息子」として相応しい結果を出した時にしか価値を与えられなかったことを。
(ママはたくさんの魔法を作って、村の人達のために魔法をたくさん使った。だけど死んでしまった後、村の人達が言った言葉は酷かった。「死んで不便になった」って……ねぇ、魔法って使えば使うほど寿命が減るんでしょ? そんな大事なこと、私が知ったのはタービタさんとつながってからだよ)
レムはその心を何一つ隠さず、俺に伝えてくる。
レムが伝えてくる言葉それ自体だけじゃなく、言葉の裏側にある、レムが今まで体験したことにまつわる記憶と感情も一緒に流れ込んでくる。
オーケストラみたいに。
言葉は主旋律。それ以外の後ろの音も全て、主旋律とつながっていて。
そんなレムの音楽を聴いて、俺の中にも音が生まれる。
レムの音と和音になりそうな、優しい音が。
(レム)
(うん)
(俺は元の世界に姉と弟が居て、両親含めて家族とはうまくいってなかった。だから、誰かと家族になるとか、レムのお兄ちゃんをやるとか、そういうことに対して自信がないどころか不安しかない。間柄っていうのは、その関係を保証するものではないから。だから、レムの期待を裏切るかもしれないし、すれ違うかもしれない……でも、レムの力になりたいという気持ちは、あるんだ)
(それで十分だよ。それに、お姉ちゃんと弟しかいなかったんなら、妹は初めてでしょ? だからきっと今までとは違うよ)
(レムは、ずいぶんと前向きなんだな)
(ママがね、教えてくれたママの故郷の言葉があるの。「食べるために生きるな。生きるために食べろ」って言葉。家族だって同じでしょ。家族は先じゃなく後。家族だからって縛り付けるものじゃなくって、自分らしく生きるために必要な相手が家族になるんでしょ?)
レムが村を出てきたときの想いも一緒に伝わってくる。
村人たちがレムに、母親から魔法を習っただろうと、それを村のために使えと、詰め寄ったこと。
レムは魔法は習っていないと答えた。
村のために死んだ母親へ敬意を払わなかった村人たちのために、レムの宝物を共有できず、生きることのために他の全てを犠牲にしようとする村人たちのために、自分の人生を使いたくないと考えたから。
そして村の外へ生きる術を探しに出た。
バータフラ世代がレムと一緒についてくることになったのは、村の中で唯一、レムの宝物を否定しなかったバータフラ・ミンがレムのことを心配したから。
(レムは強いんだな)
(そうだよ。私は強いんだよ)
もしも、これが通常の会話なら、俺はそのままレムの言葉を信じただろう。
でも、これは心と心の通話だ。
レムの言葉に閉じ込められたバックグラウンドの想いが、レムの言葉につながっている深い深い心の底の想いが、俺の心に届いた。
ミンは、レムにだけではなく、誰にでも優しかった。
だからこそ、バータフラの他の三人もミンを慕い、ついてきた。
ただ、その記憶の中に、レムがお兄ちゃんと呼んでいたミンへの本当の想いも垣間見えた。
ミンは誰にでも優しい。誰にでも良い格好を見せる。でもそれは、嫌われるのが怖いだけ。相手を否定しないのは、自分を否定されるのが怖いから。
独りで生きてゆける自信がなかったレムは、ミンのその優しさを利用した……お互い様と。
確かにレムは強い。
でもそれは無敵な強さではなく、自分の心が折れないために自分自身を精一杯支えている強さ。
その芯を強くするために、他の場所から強さをかき集めてきている。
なんでかな。
レムはどこか、
(案外、本当に兄妹みたいになれるかもな)
その言葉を送った直後、『テレパシー』の効果時間が切れるのを感じた。
俺は魔法を延長せずに終えた。
「リテル」
肉体へ意識が戻ってきた俺へ、ケティとルブルムが同時に話しかけてきた。
「大丈夫。レムとはちゃんと話せた。敵対はしない」
タービタさんが安堵の表情に浮かべるのとは逆に、ケティの表情は曇る。
「口説いたの?」
「そんなんじゃないよ……」
またその反応か……ケティの態度に対して煩わしさを感じている
そんな自分に対して嫌悪を感じる。
ケティとリテルとの距離感を縮めたのは
彼女としてならケティの態度は間違っていないから。
『テレパシー』を使って打ち明けるか……でも、そうすると
気持ちの整理には時間がかかるだろうし、少なくとも今はそんなゆとりは、時間的にも俺の精神的にもない……なんて全部、俺側の理由じゃないか。
勝手にもほどがある。
今の俺の、どこが紳士なんだ。
「ケティ」
「なに?」
不機嫌な声。当然だよな。
「ケティが俺に対して不信感を覚えるのは、俺が悪い。それはわかっている。でも、信じてほしいのは、ケティのことは本当に大切にしたいと思っていること。ただ、今はまだどうしても言えないこともある。ケティが怪しむのは当然だし、申し訳ないとは思うけれど今は待っていてほしい」
ケティと見つめ合う時間がやけに長く感じる。
「わかった」
ケティが再び口を開く。
「……じゃあ……ストウ村で待ってるね」
ケティが俺にぎゅっとしがみつく。
俺もケティを抱きしめる。
あの日、あの朝と違って、俺とケティとの間はお互いの体温も柔らかさも感じ難い無骨な革鎧が隔てている。
それでも今までで一番、
ケティが俺から離れたあと、一呼吸置く。
「ベイグルさん、タービタさん、お待たせしてすみません。でももう少しだけ時間をください」
「了承なのである」
「ありがとうございます。では……ルブルム」
「はい」
俺はルブルムの手を取る。
「さっきの魔法『テレパシー』を教えるから」
ルブルムの涙は俺の中ではまだ乾いていない。
レムの話をするにしても、元の世界の話を持ち出す必要があるし、この方法が一番良いと思うんだ。
「いつでもいい」
「いくよ。『テレパシー』」
目を閉じて、意識を集中する。
記憶の端末で、ルブルムにつながるUSBマークに触れる。
(ルブルム……聞こえる?)
(聞こえる……本当に『遠話』に似ている)
(ルブルムが意識を失っている間のこと、さっきは言葉で軽く説明したけれど、ちゃんと伝えておきたくて。ディナ先輩と話したこと、レムとの戦闘、ポーとの契約、いまレムと話したことも。全部送るから)
(わかった)
ルブルムが意識を失ってからほんのさっきまでのことを全て、俺は思い出しながらルブルムへと送った。
そしてもう一つ。
ケティとリテルとの関係についても。
(嫌だ)
(ルブルム?)
(リテルはケティのものでもいい。でもトシテルは私の家族だ。頼りにしていいって言った。なんで居なくなることを考えている?)
(俺だっていなくなりたくなんかない。でも、どうして今の状態で居られるのかわからないんだし、この状態がいつまでもつのかだって)
(嫌だ)
ルブルムの感情がダイレクトに伝わってくる。
苛立ち、不安、悲しみ、恐怖、寂しさ、そして圧倒的な信頼感。
それと、今はまだ名前をつけられないけれど、心の奥がほわりと温かくなる気持ち。
(トシテルは、思考を止めている)
!
……そうか。
そうだよな。
(ルブルム、ありがとう。そうだよな。その言葉はすごく刺さった)
(刺す? そういうつもりじゃない。攻撃なんてするつもりじゃ)
(あー違う。ごめん。元の世界ではね、刺すという言葉を、ナイフとかを突き立てるような「刺す」だけじゃなくて、心に深く響いた、みたいな意味でも使っててね)
(心に「刺す」)
(そう。悪い意味だけじゃなく、良い意味でも使うんだ)
(こっちの意味の「刺す」も、レムの言っていた宝物の一つみたい)
(そうだね)
元の世界の曲、元の世界の知識、元の世界の文化や習慣、元の世界の言葉や考え方。
ミュリエルさんがレムと宝物を共有できたように、俺もルブルムやカエルレウム師匠やディナ先輩たちと宝物を共有できている。
宝物の共有というのは、異世界での絶望的な孤独感からの救済だ。
その救いを、ルブルムは俺に……。
(ルブルムもね、俺にとっては宝物だよ)
わ、俺、どさくさ紛れに何言ってんだ。
というか、油断してて気持ちをそのままつるっと流しちゃった……けど。
ずっと伝えたかった想いではあるんだろうな。
リテルではなく
(私は嫌だな)
(え?)
(私は、トシテルにとって、前の世界の思い出にはなりたくない。トシテルの今の世界に、一緒にいたい)
ダメだ。
これ以上この話題を続けたら、ルブルムのことをどんどん好きになっちゃう。
俺は、ルブルムとの『テレパシー』を、終了した。
それからは忙しかった。
レムに『カウダの毒消し』を使用して起こしたあと、軽く打ち合わせをしてからメリアン達が野営していたあの広場へと戻る。
まずはロッキンに説明する……レムが、ロッキン同様、ダイク隊長の指示に疑問を感じ、抗ったがために捕縛されていたこと。
スノドロッフの子たちは……スノドロッフの所在をロッキンに知らせないために、街道で襲われてさらわれたことにした。
タービタもレムと一緒に捕縛されていたと。ミンは二人を助けようとしていたこと。
そしてその作戦をまるで見越していたかのように、ブラデレズンが口止めされ……というか放置し過ぎで失血死していたこと。
……そこまで入念にシナリオを作ったのに、全部、台無しになった。
「お前らが寄らずの森の魔女の弟子とその従者で……そしてお前らがアルバスか」
見るからに王子様っぽい白馬にまたがった、この感じ悪い
● 主な登場者
・
利照として日本で生き、十五歳の誕生日に熱が出て意識を失うまでの記憶を、同様に十五歳の誕生日に熱を出して寝込んでいたリテルとして取り戻す。ただ、この世界は十二進数なのでリテルの年齢は十七歳ということになる。
リテルの記憶は意識を集中させれば思い出すことができる。利照はこれを「記憶の端末」と呼んでいる。
ケティとの初体験チャンスに戸惑っているときに、頭痛と共に不能となった。不能は魔女の呪詛による。
その呪詛を作ったカエルレウムに弟子入りした。魔術特異症。
レムールの「ポー」と契約。現在は、呪詛持ちのラビツ一行を追跡している。
・カエルレウム師匠
寄らずの森に二百年ほど住んでいる、青い長髪の魔女。
肉体の成長を止めているため、見た目は若い美人で、家では無防備な格好をしている。
寄らずの森のゴブリンが増えすぎないよう、繁殖を制限する呪詛をかけた張本人。
ディナ先輩、ルブルム、リテルの魔法の師匠。
・ルブルム
寄らずの森の魔女カエルレウムの弟子。赤髪の美少女。リテルと同い年くらい。
かつて好奇心がゆえにアルブムを泣かせてしまったことをずっと気にしている。
カエルレウムの弟子を、リテルのことも含め「家族」だと考えている。
質問好きで、知的好奇心旺盛。驚くほど無防備。
ディナの屋敷でトシテルとの距離がぐっと近づいた。戦闘時の息の合い方はケティが嫉妬するほど。
ケティがリテルとキスしたり痴話喧嘩したりするのを見て涙を流したが、その理由は自分で理解できていない。
・ディナ先輩
フォーリーに住むカエルレウムの弟子にしてルブルムの先輩。
男全般に対する嫌悪が凄まじいが、リテルのことは弟弟子と認めてくれた。
アールヴと
フォーリー以北への旅について、大量の忠告をしてくれた。
・ケティ
リテルの幼馴染。一歳年上の女子。
旅の傭兵ラビツに唇を奪われ呪詛に伝染し、それを更にリテルへと伝染させた。
カエルレウムが呪詛解除のために村人へ協力要請した際、志願し、リテル達がフォーリーを発つ時、メリアンと共に合流した。
盗賊団に襲われた際は死にかけたり、毒で意識不明になったり。
足手まといを自覚し、ストウ村へ先に戻る決意をした。
・メリアン
ディナ先輩が手配した護衛。
リテルたちを鍛える依頼も同時に受けている。
ものすごい筋肉と、角と副乳を持つ
円盾と小剣(ごつい)を二つずつ持ち、手にはスパイク付きのプレートナックルを装備。
謎の襲撃犯を撃退し、リテル達と合流。
騎馬戦も上手な様子。どうやらラビツの知り合いである様子。
・ラビツ
ゴブリン魔術師によって変異してしまったカエルレウムの呪詛をストウ村の人々に伝染させた。
兎種ハクトッのラビツをリーダーに、猿種マンッが二人と先祖返りの猫種バステトッが一人の四人組。傭兵集団。
ラビツは、ケティの唇をリテルのファーストキスよりも前に奪った。
北の国境付近を目指している。本人たちは呪詛にかかっていることに気付いていない。
・ウォルラース
かつてディナ先輩とその母を絶望のどん底へ叩き落とした張本人。
最近は、名無し森砦を守る兵士たちと手を組み、スノドロッフの子どもたちを狙っていた。
本来は身を守るための魔法品を、相手の無力化に用いたりなど、魔法品を使いこなす。
自分が生き残るためならば平気で仲間を捨てる。
・スノドロッフの子どもたち
男子がトーム。ミトとモペトが女子。全員、
盗賊団に誘拐された挙げ句、ケティ同様の毒で意識不明状態にされていたが、
全員、村へと帰った。
・ベイグル
槍を持つスノドロッフ村の村長。魔法に詳しい。
・タービタ
数日前に失踪したスノドロッフ村の女性。
レムに『同胞の絆』で操作されていたが、今は正気を取り戻している。
・レム
バータフラ・レムペー。クラースト村のバータフラ世代の五番目の子。
魔法に長けた
リテルより若いが胸はかなり育っている様子。髪型はツインテール。
カウダの毒を塗った吹き矢や短剣を使う。
母親は利照同様に異世界(イギリス)から来た。
リテルにお兄ちゃんになるよう要求した。
・ミュリエル・ロンドン
イギリス、ソールズベリー出身。二千年に十九歳でこの世界に転生してきた。
クラースト村での名前はファーヌ・オツォ(ファーヌ世代の七番目の子)。
レムの母親。村のためにと魔法の使い過ぎで寿命の渦を擦り減らし、若くして死亡した。
・ミン
バータフラ・ミン。クラースト村のバータフラ世代の一番目の子。
レムが村を出る時、心配して着いてきたが、誰にでも優しい。
バータフラ世代ではレム以外からも信頼されているが、嫌われるのを恐れて強く出られない。
洞窟に隠れていたウォルラースがリテル達に取り入るために利用され、不幸な最期をとげた。
・ダイク
名無し森砦の守備隊長。
名無し森砦は、クスフォード虹爵領都フォーリーと王都キャンロル、ボートー紅爵領都アイシスとを結ぶ街道の分岐付近にある砦で、王国直轄の砦。
刀とノコギリが合わさったような凶悪な武器を使う。
名無し森砦の隊長という地位を、ダイク自身は正当な評価ではないと感じていていたため、架空の盗賊団カウダを作り出し、時折旅人を襲っていた。
ウォルラースと手を組んでいたが、ウォルラースが渡した薬を飲んで暴走し、倒された。
・ブラデレズン
名無し森砦の兵士。
ダイクの部下で「盗賊団カウダ」活動に参加する輩のうち、洞窟前の戦いでの唯一の生存者。
右手首を切り落とされ捕縛。カウダの麻痺毒で意識を失っていたが、翌朝には失血死した。
・ロッキン・フライ
名無し森砦の兵士。
フライ
ウォルラースとダイクの計画を唯一知らされていなかった兵士。正義の心を持っている。
・レムルース
『虫の牙』の呪詛のベースにされていた他、スノドロッフ村の人達が赤目を隠すために『契約』している。
レムルースは複数形で、単体はレムールと呼ぶ。
ディナ先輩の体からリテルの腕へと移ったレムールは、リテルと契約し「ポー」という名を与えられた。
● この世界の単位
・ディエス
魔法を使うために消費する魔法代償(寿命)の最小単位。
魔術師が集中する一ディエスは一日分の寿命に相当するが、魔法代償を集中する訓練を積まない素人は一ディエス分を集中するのに何年分もの寿命を費やしてしまう恐れがある。
・ホーラ
一日を二十四に区切った時間の単位(十二進数的には「二十に区切って」いる)。
元の世界のほぼ一時間に相当する。
・ディヴ
一
元の世界のほぼ五分に相当する。
・クビトゥム
長さの単位。
本文中に説明はなかったが、元の世界における五十センチくらいに相当する。
トシテルが元の世界の長さに脳内変換しないでもいいくらい、リテルが日常的に使っていた単位。
・アブス
長さの単位。
元の世界における三メートルくらいに相当する。
・プロクル
長さの単位
一プロクル=百アブス。
この世界は十二進数のため、実際は(3m×12×12=)432mほど。
・通貨
十