第12話

文字数 1,034文字

「それは美幸ちゃんに送ったものだよ」
「はぁ? そんな嘘信じると思うの? 君がいいと書いてあるじゃない」

 メッセージがよ~く見えるように、パパの顔に突きつけてやる。

「脱字だよ。君のがいいって書いたつもりだったの」

 脱字? 君のがいい? 何その言い訳。

「仕事にかまけて家庭を蔑ろにしてきた。そのお詫びとママへの感謝を込めて、これを送ろうと思ったんだ」

 お義姉さん言っていた。『今日のために敦、残業を増やしていたみたいだから』と。
 本当に私のために買ってくれたものなの?

「どんなデザインがいいか分からなくて、美幸ちゃんに手伝ってもらったんだ」
「お義姉さんじゃなくて?」
「若い子の方がセンスいいかと思ってさ。二つ気に入ったのがあって、最終的には美幸ちゃんが勧めてくれた方に決めた」

 ……信じていいの?

「寿司を奢らされちゃったよ」

 残業なのに食事を済ませていたのは、実は美幸ちゃんと買い物に行って食べてきたってこと?

「今日が何の日が覚えている?」
「あっ……」

 記念日を忘れていたのは私の方だった。
 ダイヤモンドが十粒螺旋状に並んだ指輪。スイートテンダイヤモンド。

「離婚するならいらないか」
「いるいる」

 細かい傷のある指輪の上へ、光り輝くダイヤモンドが重ねられる。
 どちらも掛け替えのないもの。

「俺が浮気していると思っていたの?」
「それは……うん」
「酷いな。ママだけなのに」

 良かった。辻さんと二人っきりで飲みに行かなくて。

「久しぶりデートしよう。お店は予約してあるから」
「待って。一つお願いがあるんだけど」
「何? でもあまりお金に余裕がないんだけど?」

 冗談っぽく言ってはいるけど、きっと本当のことだと思う。
 毎月の少ないお小遣いを貯めて買ってくれたのだろうから。

「お金はかからない」
「何かな」
「ママじゃなくて名前で呼んでよ、敦」
「この先もずっと京子だけだよ」

 夫婦から恋人へ。恋人からまた夫婦へ。
 そうやって一緒に暮らしていきたいと思った。

「また十年後にはダイヤモンドをプレゼントしてくれる?」
「……善処します」
「嘘々。早く帰って来てくれた方が嬉しい」

 久しぶりにキスを交わした。
 紆余曲折しながらまた十年を過ごして行くのだろう。
 でもそれが夫婦なんだと思う。夫婦だけど恋人でもある。

 それを忘れないためにも……

「もう一回」
「……食事はキャンセルしようか」
「うん」

 ベッドまで我慢できずに、ソファへと雪崩れ込む二つの身体。
 これからはもっともっと触れ合っていこうと思う。


END
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